君のうた

第12話 届いてほしい

会社の最寄駅でwater(s)は待ち合わせをしていたが、時間の十分前には全員揃っていた。今日は新曲発表をプロデューサーにする為、明宏はドラムスティックを奏以外のメンバーは、それぞれギターとベースを持って集まっていた。

いつもは弾む会話も緊張からか口数が少なくなっていると、和也が口を開いた。

「……楽しみだな」

彼の声に、彼らは笑って応えている。

「だな！」

「緊張はするけど、確かに楽しみでもあるな」

「あぁー、ようやく叶うんだからな」

大翔に続き、圭介、明宏が応えると、奏は彼らに向けて微笑んでいた。

「うん！ みんなの音楽がすきだから楽しみ！」

緊張感はあるものの、いつものような五人の空気感に戻っていく。五人とも楽しみで仕方ないのだ。

会社に着くと、マネージャーである杉本が彼らを出迎えていた。

「今日は発表の場だけど、いつも通りやれば大丈夫だからね」

「はい」

杉本のメンバーを気遣う言葉に圭介が応えていると、初めて弾いた時と同じスタジオへ案内された。

「準備が出来たら声かけてくれ」

「はい」

プロデューサーの佐々木はそう言うと、ブース越しに彼らを眺めている。

佐々木の他に、彼らの講師陣や杉本も五人を見守っていると、圭介が声をかけた。

「……終わりなき空へ。……聴いて下さい」

ドラム、ギター、ベースにキーボードと、編成は単純な中、奏の声が生える編曲にしている。

「……またメジャーキーで、王道をもってきたな」

佐々木の言葉に、講師担当のプロも同意見だったのだろう。声にこそ出さなかったが頷いていた。

彼らは自分達の音楽性を解っているのか、魅せ方が上手いのだ。

……緊張しない時はない。

でも、みんなと一緒に出来るのは何よりも嬉しい。

奏はプロデューサー達に届くようにと歌っていた。

……聴いてほしい。

どうか届いて……。

これが、water(s)の、私たちの音楽！

自分で思っていたよりも、ずっと緊張していたのだろう。マイクを握る彼女の手には汗が滲んでいた。

五人はプロデューサー等に向けて一礼をすると、拍手が聞こえてきた。

「予想以上の出来だな。water(s)のデビュー曲は、終わりなき空へで決まりだ」

「ありがとうございます！」

満場一致で決定したのだ。佐々木は十代らしく飛び跳ねて喜んでいる彼らを見つめながら、世に出るのが待ち遠しく感じている事に気づいていた。

「皆、お疲れさまー」

杉本の労いの言葉に、五人は飛びつきそうな勢いで応えていた。

「ありがとうございます！！」

water(s)はテンションの高いまま、カラオケ店を訪れていた。

あと少しでこのデンモクに、画面に、自分達の曲が乗るかもしれないと思うだけで、待ち遠しさが募っていく。

夢の叶う瞬間がくるんだ……。

「何、歌うー？ 」

「あのドラマの曲、奏歌ってよー」

大翔に促され、奏がマイクを受け取り歌う姿を、和也は隣で聴き入っていた。

彼女の音域の広さを改めて感じていると、飲み物が運ばれて来た。未成年でなければ、お酒で祝杯している所だろう。

五人はソフトドリンクの入ったグラスを寄せ合って乾杯をすると、これから始まる収録やジャケット撮影等のデビューに向けての出来事に、想いを募らせていくのだった。