第11話 アンサンブル

後期学科試験を終えた奏と和也は、珍しくイルミネーションの輝く街並みを眺めていた。和也の背中にはギターケースが背負われている。

「いよいよだな」

「うん」

二人は手を繋ぎながら歩いていたが、曲に自信はあってもプロの厳しい目からの判断はどうなるか分からないと考えていた為、彼の握った手には自然と力が込められていたのだ。

「……私は信じてるよ」

まっすぐに和也を見つめ、奏から告げられた言葉に彼は驚きながらも、自分で感じていたよりも思い詰めていた事に気づいた。

「うん……」

彼は微笑むと、久しぶりに二人で過ごす放課後の僅かな時間を楽しむのだった。


時間ってあるようで……ない。

和也といると…すぐに過ぎてしまう……。

隣にいる彼を見つめながら、奏がそんな事を想っていると、和也は彼女を引き寄せ、小さな箱を手渡していた。

「これ……」

「開けてみて?」

奏がリボンを解くと、ムーンストーンのついたネックレスが入っていた。

「ありがとう……」

彼女は嬉しそうな笑みを浮かべ、その場でつけてみせた。

「うん、似合ってる」

「大切にするね……」

彼女はそう応えると、鞄から綺麗にラッピングされた袋を取り出していた。

「クリスマスプレゼント……」

和也が袋を開けると、中には紺色ベースのチェック柄のマフラーが入っていた。

「ありがとう……。まさか自分が貰えると思ってなかったから……」

嬉しそうに告げる彼は、その場で寒そうな首に巻いてみせた。

「あったかい」

「よかったー」

恋人同士になってから、初めてイベントらしい事をしていた。

二人は楽しげに微笑み合うと、いつもの喫茶店へ向かい、バンドメンバーと合流する事になるのだった。


「マスター、カフェラテ二つとオムライスとたらこパスタお願い」

「はーい、いつもの席ね」

和也が注文を済ませると、いつもの席には大学生三人が集まり、食事をしていた。

「明日の決起集会って事で、久しぶりにアンサンブル的なのやらない?」

明宏がチェロを出して提案すると、圭介はヴァイオリンを、大翔はサクソフォンを用意し始めた。

「俺達はピアノでいい? 」

「二人の連弾面白そうじゃん! カノンにするか?」

「OK」

奏も同意するが、いくら客の少ない時間帯とはいえ久しぶりにする連弾に、多少の緊張感を滲ませていた。和也はそんな彼女にだけ聞こえるように、隣に座ると囁いた。

「大丈夫……。俺も一緒だから」

「うん……」

奏は和也の優しい瞳に、緊張感が解けていくのを感じながら、鍵盤に触れていく。

五人の織りなすハーモニーを常連客の一人は、心地よさそうに聴いていた。

「弦の音は、やっぱりいいね」

「そうですね……」

マスターはいつも通り濃いめにれたコーヒーを出して応えると、店内奥で奏でる彼らに視線を移していた。

五人は楽しそうに音楽を奏でている。

まるで音で会話をしているようだ。

彼らの音を聴く度に、音楽がすきだと言う想いが伝わってくるようだと感じるマスターがいた。


楽しい……。

久しぶりの連弾も、みんながいればそれだけで……。

マスターや常連客から温かな拍手が送られる中、五人は顔を見合わせると、一礼をして応えているのだった。

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