第4話 意識高すぎな幼なじみについて



 退魔騎士学校 校舎内 『ツェルト』


 ステラが見当たらない。

 というわけで始業式が終わった後ツェルトは、校舎の中を歩き回っていた。


 新入生が初日に体験すべき出来事は全て終了したわけなのだが、ステラはそれで満足する人間ではなかったようだ。


 おそらくこれから通うであろう校舎を見学したりするためにあちこち見ているのだろう。


「校舎に入る時は待っててくれたのになぁ」


 幼なじみの存在を忘れる程一生懸命なのか、それとも自由時間は論外だと考えているのか、判断に迷うところだ。


 長い事傍にいるツェルトだが、未だに彼女の事でよく分からない所がある。

 幼い頃、悪人に人質にされた後で木剣を振り回すようになったり、勇者に助けられるような出来事があった。その後はその時の勇者を目標にして一層剣の修行に打ち込むようになったり、こうして予想のつかない事をたまにしでかしたりする。


 貴族なのに魔法が使えない。そんな事実を負い目に感じている彼女が、代わりの強さを求めるのは分からない話ではない。けれどだからといって、こんな所まで来て、本気で勇者と同じくらいの力を身に着けようとするものだろうか。


 何がそんなにステラを駆りたてているのか、未だによく分からないでいた。


「ステラステラステラー、どこいいるんだよ。早く出てこないと俺が退屈ー」


 首をひねりつつ、そんな自分本位な事情を言いながら校内を移動していく。

 さすがに入学したての新入生はいないものの、提出物や課題でもあるのか、在校生達がそれなりにウロウロしている。だから、校舎の中を徘徊するこちらの姿に注目の的というほどではないが、時折り視線を向けたりしていた。


 たまに話しかけられたりして余分な時間を使いつつも、ツェルトは学校内を探索を続行。校舎内の構造についてそれなりに詳しくなりつつある頃、通りかかった教室から空気を切るような音がしてきた。


 耳慣れた音。

 あれは素振りの音だ。


 ステラだ。

 条件反射的にそう思った。

 

 ツェルトはその部屋の中に彼女がいるものだと思って、ドアを開ける。


 後から考えれば、そんな事ありえないはずだったのにその時はそう思ったのだ。

 学校内といえど、学生も教師も帯剣を禁止されている。

 たとえ木刀だとしても、入学して間もない学生がただの教室で素振りしているわけなどないというのに。


「ステラー、こんなところで何して……うわぁっ!」


 開けて、声をかけて、そして悲鳴を上げる。


 人は中にいた。

 だが人違いだった。女性だったが、ステラではなかった。

 黒髪黒目、長身の女性だ。


 そして何故か、手には木剣を持っていて素振りしていた。

 それだけならまだいい。

 いや突っ込みどころはあるが、まだマシな方だ。


 マシじゃないのはその女性の服装の方だった。


「無人の教室に露出狂……!?」


 下はいい、何やら見た事のない形だったが裾がだぶだぶのズボンを履いているから。

 だが上は、胸部に簡単にさらしを巻いただけだった。

 確かそういう布面積が少ない人の事を露出狂と言うのだと、ステラが言っていた気がする。


 一度落ち着いて冷静になったツェルトは

 そういえば歩いているのは二年の教室が並んでいる場所だった、と思い出す。


 ステラじゃないのは分かったが、まだ女性の行動の意味は分からないままだ。

 一体何ゆえ?


 混乱していると、扉が開いて女性の不機嫌そうな顔が目の前にやって来る。


「誰が露出狂だ」


 そして、木剣を振り抜かれる。

 あ、これ避けていい奴かな?

 なんて馬鹿な事を考えてしまったツェルトは回避できなかった。


「いってぇ!!」


 頭部に盛大にたんこぶを作った後、女性に部屋の外に突き飛ばされる事になった。


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