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 この世界にも喫茶店というものは存在していた。

 ライザの馴染みらしいその店で、作戦会議を始める。

「お二人は【魔人】さんなんですか!

 じゃあ試験とか楽勝ですよね…」

 この世界に来て、言われるまでトシキたちの素性を見抜けていなかったのはライザだけだ。

 かなりポンコツな気がする。

「その試験って、何をすれば合格になるの?」

「アリスさん、テレサ師匠の妹さんですけど」

「うん」

「あの人の…

 …年齢を当てることができれば合格です」

「…とても性格の悪い試験だな」

 ウェイターがサンドイッチと紅茶を持ってきた。

 魔法世界とは思えない、普通の味がする。

「シロウはもう合格してるのかな?」

「シロウさん…、黒い短髪の男の子ですよね。

 合格されてますよ。

 昨日来て昨日合格ですよ…」

「俺たちが無一文になったりしてる間に、

 学校見つけて合格してたのか…、すごいな、あいつ」

「ライザさんはさ」

 フミカがストローに口をつけながら聞いた。

「どうしてリュケイオンに通いたいの?」

「よくぞ聞いてくれました。

 テレサ師匠は、ああ見えてすごいんですよ!」

 ライザはとうとうとテレサの武勇伝を語った。

 それによれば、テレサはすでに5匹の竜と10匹のキメラ、

 30の将と3000の兵を倒しているらしい。

「そんなテレサ師匠が最近ご執心なのが、

 【転生魔法】です」

「転生…」

「今のあの姿も、一回自分で転生してみるかと試してみて、

 それで赤ん坊にまで戻ったらしいですよ。

 アリスさんが世話してましたが」

「転生…転生か。

 それって、【この世界】から【俺たちの世界】へ移ることもできるのかな?」

 うまくすれば、城攻めをしてシュバルツと戦わなくても、

 元の世界に帰ることができるかもしれない。

「そこはあたしには分かりませんが…」

「竜を倒せるような戦闘力と、転生の研究。

 やっぱり【リュケイオン】に入るのが、わたしたちには良さそうだね」

 フミカがまとめるように言った。

「じゃあアリスさんの年齢を知らなきゃな」

「どうやって?」

「普通に考えてトップシークレットだよなあ」

 三人は揃って机の上に目線を落とした。


 *


 アリスが心地よく居眠りをしていると、

 頭の上にポン、と何かが乗ってきた。

「これをまとめておいてくれ」

「テレサお姉さま。

 また添削をわたしに任せて、

 楽しく研究ですか?」

 テレサはかぶりをふって、

「研究もしたいのではあるがな。

 少し体がなまっておるゆえ、鍛え直さねばならん」

「何か…」

 アリスの声に緊張の響きが混じった。

「…戦闘が近いのですか?」

「予感じゃよ。

 こたびの【選択の日々】は、荒れるかもしれんぞ」

 テレサは手を振って学校を出ていった。

 アリスは一つため息をつき、

 生徒たちの書いた論文を添削する作業に入る。

「これはロバートくん、これはブライくん…、

 ふむ、なかなかうまくできてるじゃない。

 お姉さまはあれでも教え上手なのよね」

「アリスさん!」

 声をかけられて、顔を上げる。

「あら、ライザちゃん。

 お姉さまは今出ていったところよ」

 ライザはオレンジ色の頭を振る。

「アリスさんのお仕事を、手伝わせてください!」

「ああ…」

 アリスはくすりと笑った。

「例の入学試験のために、わたしの評価を上げようというのね」

「そうとってもらってもけっこうです!」

「じゃ、わたしの代わりに机拭きと床掃除とコーヒーのフィルター替えをお願いしようかしら」

「はい! おまかせください!」

 ライザは小走りで教室に向かった。

「いい子なんだけどなあ。

 要領がなあ…」

 ガシャン、と何かが割れる音がして、アリスは肩をすくめた。

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