5

「三々五々、散りましたな」

 禿頭の男が、先ほど城で司会をした壮年の男に言った。

「執政官どのは誰に注目します?」

 壮年の男は静かに目を閉じて、

「タカヨシと言う男が優勝候補でしょう」

「ふむ…」

 禿頭の男が宙に魔力を投じると、光の線が画像を形作った。

 先ほど最初に質問した整った顔の男だ。

「彼ですな。単純な魔力では平均より少し高い程度のようですが…」

「彼は、そうですね…、

 住む世界が違う。

 日本という国は現在平和なようですが、彼はその中では異質な考え方を持っているようです。

 直に会って目を見ると、それが分かりました」

「なるほど、メンタルは重要ですからな」

 禿頭の男はしたり顔でうなずくと、画像を切り替えた。

「魔力の数値ではこちらのフミカという少女が強力ですな。

 平均値の2倍はゆうにあるでしょう」

「確かに魔法の才能は感じますが、

 殺し合いに適応できる素質は、わたしは感じませんでしたな。

 それに」

「それに?」

 執政官は手を広げ、禿頭の作った画像を切り替えた。

「このトシキという少年が足を引っ張るでしょう」

「先ほどはむしろ、フミカのほうが足を引っ張っていましたが、

 それでも?」

「トシキという少年、彼は彼なりに有能ではあると思います。

 しかし仲間がいるということ、それ自体が選択の日々において枷になるのです。

 トシキ・フミカ組と先ほど交戦したジュンヤ・ケンイチ組も、

 構図は異なれど同じ」

 画像がジュンヤを映し出した。

「ジュンヤは今はケンイチを利用しているだけのつもりでしょうが、

 それでもある程度、ケンイチの存在によって心が乱されるでしょう。

 単独の…孤独な力のみが勝利を得るのです」

「ふむ…。

 まあわたしとしては、儀式が大いに盛り上がって一儲けできればそれでいいですがな。

 あ、そうそう」

 禿頭の男は思い出したように、

「リエはどうします?

 この城自体に攻撃を加えようとしていますが」

「城の上層には、魔人たちの存在を拒絶するバリアを張っています。

 彼らが城下町から出られないようにしているバリアと同じものです。

 もしそれを超えることができたら、そのときはわたしが相手をしますよ」

「おお、心強い」

 禿頭の男は去り、執政官は一人で画像の前に佇むことになった。

「一儲け、か」

 執政官は苦笑した。

 【選択の日々】は代々の王が亡くなるごとに行われ、

 そのたびに魔人たちが(今回は日本という国の魔人だ)呼び出されて殺し合いの儀式をしてきた。

 最初は強力な王を求める必要から始まった儀式も、

 今ではゴシップ的な興味の的になってしまっている。

「何かが必要なのかもしれない、な…」

 執政官はつぶやいたが、儀式それ自体を止めようという考えは、今の段階でもほとんど無かった。


 *


「じゃあ、シュバルツ執政官を倒さなきゃね」

 フィオーレがまるでスライムを倒すかのような調子で言った。

「シュバルツって言うんだ、あの人…。

 強いの?」

 フミカがとなりのベッドに向かって尋ねた。

 フィオーレは結局、トシキ・フミカ組と同じ宿に泊まり、

 せっかくなのでとフミカと同じ部屋のとなりのベッドを使っているのだ。

「強いなんてもんじゃないわよ。

 と言っても、ここ何年も平和だから、

 あたし自身彼が戦ってるのを見たわけじゃないんだけどさ」

「魔人は魔法を使うのに向いてるって話だけど、

 なんでシュバルツさんのほうが強くなっちゃうの?」

「シュバルツ執政官の在任中に、王が2度代わったからよ」

 フィオーレが謎めいた言い方をした。

「王が代わることとなんの関係が?」

「うーんと、王様が亡くなってから儀式の間に、

 下手をすると最長で12ヶ月ぐらい間が空いちゃうわけよ。

 選択の日々は1月の前って決まってるから。

 で、その間王がいないと困るから、それに準ずる存在…

 執政官が年老いた王を殺すのよ」

「あの人、王様を殺しているの?」

「うん。2回ね。

 で、魔力は殺された人から殺した人に受け継がれる…、

 ただでさえ強力な魔人王の力、2人分を彼は持っているのよ。

 これはちょっとイレギュラーで、王それ自身よりも彼は強い」

「そんなに…、歳には見えなかったけど」

 フィオーレは笑った。

「確かにね。でも150歳くらいにはなっているはずよ。

 フミカちゃんも魔人王になったら、不老の魔法くらいちょちょいのちょいで使えるよ」

「わたし、魔人王にはならないから」

「あくまでシュバルツ執政官を倒して、城から元の世界に帰る方向で行くわけ?」

「うん」

「その間別の魔人との戦闘はどっちみちあるし、茨の道だと思うけどな…。

 まあ平和な世界から来て、いきなり人殺しは難しいとは思うけど…」

「それもあるけど、トシキ兄ちゃんをね」

「トシキくん?」

「お姉ちゃんとね、くっつけたいんだ」

 フミカがまるでスライムを合体させるかのような調子で言った。

「あははは。くっつくとは限らないんじゃない?」

「いや、お姉ちゃんは【トシキはわりと骨があるやつだ】ーって言ってたし、

 トシキ兄ちゃんも【ギターを弾いてるときのミチカは輝いてるよな】って言ってたもん」

「どっちもけっこう微妙なような…」

「今はね、まだ。

 だからこそ可能性を奪ってはならないと思うのですよ」

「ま、まあね…」

「わたしはね、お姉ちゃんのこともトシキ兄ちゃんのことも好きなんだ。

 だから…、二人が幸せになってくれるのが…、いちばん…」

 フミカの言葉が跡切れ跡切れになり、かわりに喘息気味の寝息が聞こえてきた。

「そのお姉ちゃんのほうもフミカちゃんとトシキくんの幸せを願っている、気がする」

 フィオーレは言った。

 つまり構図を逆にできるわけで、フミカとトシキがくっついて、ミチカが喜ぶ、という流れも可能なことに思い当たったのだ。

「まあ…、いいか。

 商売人は早く寝るべし!」

 フィオーレはそういうと目を閉じ、素早く眠りに落ちた。

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