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 少女はフィオーレと名乗った。

 職業は、城下町にある冒険者ギルドの、なんとギルド長。

 実際金回りの良さそうな服装をしていた。

 今日が【召喚の日】であることを知っており、

 有望な魔人とコネを作りたがっていたらしい。

「ってことは、俺たちがあいつらに金を取られているところ、スルーしたろ」

「まあまあ! あたし戦えないのよ。

 裏方でお金の計算するのが専門でね」

「わたしたちに出資するのにも、いろいろ【計算】が働いているわけですね〜」

「あんたたち、あたしには当たりきついわね。

 ついさっきまでお金ないです〜もうこの世の終わりです〜って顔してたのに」

「…そんな顔してたかな」

「してたしてた」

 フィオーレはちょっとまってて、と言い残し、手帳を片手に何やら計算をして、

「20000ゴジット、出そうじゃないのよ。

 たぶんあんたたちに出てた最初の資金より上だと思うけど」

「一人ぶんよりはな」

「えっ、もっとあったの?」

「二人で30000ゴジットあった」

 マジで〜、とつぶやいて再度計算に入ろうとしたフィオーレを、トシキは止めた。

「20000出してくれるなら、それでいいよ。

 でも、代価が何かあるんだろう?」

「そうそう、あたしはあんたたち、有望だと思うのよね」

「ただの学生でも?」

「ただの学生でも」

「城を出た途端に文無しになっても?」

「城を出た途端に文無しになっても。

 まあ、理由としては勘なんだけど、

 あんたたちは王じゃないにせよ、大物になるよ」

 悪い気はしないが、いまいち釈然としない。

「冒険者ギルドに必要なのは、何より人脈!

 20000ゴジットぽっちでそれが手に入るなら、出すのがギルド長の心意気よ」

「そういえば、俺らこっちの金銭感覚が分からないんだった」

「う〜ん、宿屋の代金が500ゴジット、一般人が一般的な暮らしをするのに月あたり10000ゴジットってところかしら」

「じゃあ、一般的な月給より高いお金を出そうとしてるのか」

 どうにも信用ならない、という顔でフィオーレを見つめる。

「くっ、あたし嘘つけないのよね性格上」

「やっぱり何か嘘があったの?」

「嘘というか…、あれよ、あたし戦闘はできないって言ったでしょう。

 その代わりに身に着けた能力があって、それでギルドを切り盛りしてるわけ」

「能力?」

「【オッズ】」

 フィオーレの言葉に反応して、周囲から光の線が飛んできた。

 光はやがてフィオーレの頭部にあつまり、エキゾチックなヘルメットのような形をかたどった。

「これはね、相手の魔法力が分かる魔法。

 魔法について知らないだろうから説明するけど、

 一般的な魔法はその人の魔法力を使って、周囲のマナに働きかけるものなわけ。

 で、わたしの魔法はこのゴーグルを通して見た人の魔法力が分かるものなんだけど…」

「俺たちの魔法力が、城にいた他の人より高いってこと?」

「俺たちっていうか、フミカちゃんね。

 MPが340…これは魔人としても驚異的な数字なのよ。

 ちなみにトシキくんは150」

「倍以上じゃん」

 トシキはフミカと顔を見合わせた。

「まだ魔法を習ってもいない段階で、この数値。

 本格的に学習し始めたら、優勝候補でしょうね。

 で、【未来の王】とコネを作っておけば、ギルドの運営上いろいろお得だなと思って…」

「わたしにも才能、あったんだ」

「いや、フミカは普通に頭いいと思うけど」

「ありがと。

 でもね〜、トシキ兄ちゃんにはバスケがあるし、

 お姉ちゃんはお姉ちゃんで音楽やってるし、

 わたしには何もないなあ、って…」

「これで信用してもらえたかな」

 フィオーレは【オッズ】の発動をやめた。

「あたしの馴染みの冒険宿があるから、今日はそこに泊まるといいよ。

 20000ゴジットとは別の貸しにしとくから」

「借りが増えすぎて怖い」

「全部ツケで済まそうとしてた人が何言ってるの。

 じゃ、案内するわよ」

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