3
「俺にはさ、ケンイチっていう立派な名前があるんだ」
バイトA、ケンイチはトシキとフミカの前に立ちふさがり、
その手にはナイフが握られている。
「で、ケンイチさんの用事は?
12月が終わるまで、俺たちは戦っちゃいけないんじゃなかったっけ?」
「正確には、殺しちゃいけないんだ。
殺せば失格になっちまう。
死なせないように金品を奪い、
ついでに【選択の日々】で速やかに俺に殺されることを約束させればいい」
「あんた、卑劣な方向に頭いいな」
金を奪ってしまえば、魔法の学校に行ける可能性が減り、
魔法を身につけられなければゲームオーバーは早まる。
「卑劣じゃない方向にも頭は良かったんだぜ。
なんで俺がただのバイトAなのか、よく自問したほどだ」
「人格が嫌われたんじゃ…
ないかな!」
トシキは素早く体を回転させ、ケンイチの死角に入った。
慌ててナイフを振り回すケンイチの、腕を掴む。
「痛え!」
「ナイフを離せばこちらも力を抜く」
「いい動きじゃないか、お前、何かやってるな?」
もう一つの声がした。
こちらも会場にいた、たぶん「日本には少なかったと言うだけだ」と言うセリフを言った、
若者だ。
フミカの背後からナイフを突きつけている。
「ジュンヤの兄貴!」
ケンイチが喜びの声を上げた。
「兄貴はやめろよ…。
で、どうするトシキくん、その奪ったナイフで…」
トシキはすでにケンイチからナイフを奪っていた。
「…俺と勝負してみるか?
でもその場合、フミカちゃんの顔がひどいことになるがな」
「……」
一瞬の逡巡ののち、トシキはナイフを手放した。
「いい判断だ。
ケンイチじゃなくて、お前に声をかければよかったかな?
でも残念ながら、俺たちは敵同士だ。
金をよこせ」
トシキは革袋から10000ゴジットの金貨と、1000ゴジットの銀貨を取り出し、地面に投げた。
ケンイチが這いつくばって拾う。
フミカの革袋は、袋ごとジュンヤが奪った。
「金はよし、と。
あとは一月後、俺らに殺されることを約束しろ」
「今は約束する」
「【今は】、だと?」
「一月後までにあんたらよりもっと強くなってたら、
約束は反故にできる。
その可能性を排除しないから、【今は】とつけておく」
「生意気なガキだな。
金が無かったら、魔法学校入れないらしいのに、ケンイチはともかくこの俺より強くなるつもりか」
「金は稼ぐ」
「まあ頑張れや。
確かに今は殺せない以上、金と約束だけで満足するしかなさそうだ。
おら、ケンイチ、行くぞ」
「へい、兄貴」
「兄貴はやめろって」
ジュンヤとケンイチは夜の街に消えた。
残されたのはトシキと、悔しさで泣きそうな顔になったフミカだ。
「ごめん、トシキ兄ちゃん。
足手まといだったね」
「どっちみち、相手はナイフ持ち二人だ。
一人じゃ勝てなかった」
「うん…、でも、悔しい」
昔から体が弱かったせいか、足手まといになることには反発してきたフミカだ。
この悔しさはミチカ以外では容易に晴らせない。
「そうか、ナイフを買っとけばよかったのか…。
確かに、城を出たばかりのときは無防備だったな」
「リエさんとかは無事かな?」
「あとで確認しよう。
とりあえず、今夜の宿だ。
それとお前は革袋ごと取られたから、着替えもない」
「この世界の服装かわいいよね」
フミカは気を取り直した様子で、
「うん、ツケで散財するか〜」
「すごくダメ人間っぽいけど、それしかないな。
俺の身分証みたいなやつで、ツケが効けばいいけど…」
「あんたたち、【魔人】の世界から来た文無しってほんとう?」
よく声をかけられる日だ。
ピンク色の髪をした一人の少女が、興味深そうにトシキとフミカを見物していた。
「もしよければ、出資するわよ。
タダでとは言わないけどね」
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