第477話 任せる重み
《9:00》
「うー……頭痛い」
アオイは二日酔いの頭痛に悩まされながらも朝の日差しで起きた。
「あ!ヤバい!」
寝る前の状況を思い出して慌てて周りを見回す。
幸いにもアオイの隣のイスでヒロユキが寝ていて少し奥に冒険者用の小さなテントが張っていた。
「帰っては……ないみたい……良かったぁ」
「まったく、昨日は大変だったんじゃぞ?」
「あ、師匠って、その魚は……!」
アオイは後ろから声がして振り向くと師範は2メートルある魔物の魚を大きな葉に乗せて引きずってきていた。
「うむ、このアヤカシは【泥まぐろ】と言ってのぅ」
「やっぱり!泥まぐろ!ずっと土の中を泳いでるから捕まえるのが難しい高級食材ですよ!うそぉ!どこに居たんですか!」
「ホッホッホ、秘密じゃ」
「そんな殺生なぁ!」
アオイは頭痛のことも忘れて泥マグロに騒いでいるとヒロユキが起きた。
「……」
「あ、ヒロユキくん、おはよう」
「……アオイ、それでどうする」
「起きたばかりなのに通常運転なのすごいな……」
「……ユキが捕らえられたんだ、時間がない」
「と、そうだったね」
どの口が言うんだと言う2人の会話を他所に師範は転送させてきた長包丁を研ぎ出す。
「ヒロユキくんには今の状況を何も知らないリュウトくんに伝えに行って欲しいんだ、後、同じ六英雄のたまこさんを貸して欲しい、後、もうひとつお願いがあるんだけど……」
「……なんだ?」
「今回、六英雄の件は僕に任せて2人は全力で魔神の住処を探して欲しい」
「…………………………わかった」
「て言うのも、六英雄が動いてる中その間に魔神が……え?」
「……リュウトにはそう伝える」
「あ、あの、自分で言っててなんだけど理由とか聞かないの?」
「……ユキはアオイに任せると言った、理由なんてそれだけで充分」
「その……もしも僕が失敗するかもって心配はないの?」
「……昔、兄さんが言っていた」
「え!?な、何を?」
「……任せたって言う方が責任は重い、って」
「お、おぅふ……(それって俺が会社で失敗した時に「任せたって言ったろ!だったら失敗も想定しとけよ!任せたって言う方が責任重いんだよ世の中!」ってお酒飲みながらとんでも理論で愚痴ってた言葉じゃん!?良いように捉えられてる!?)」
「……だから任されたし、俺もユキの事を任せた」
「う、うん」
それだけを言うとヒロユキは俺の家の中に入っていく。
「ふむ、任せたと言う方が責任は重い、か……あの勇者は良い兄を持っておるの」
「ソ、ソウデスネ」
少しして俺の家からヒロユキとジュンパクさんが出てきた。
「……俺たちはもう出る」
「本当はお姉ちゃんと一緒にまだ居たいけどごめんね」
「う、うん」
「ヒロユキと言ったかの?」
「……?」
「これを持っていけ」
師範は親指サイズの小さな小瓶をヒロユキに投げて渡した。
「……これは?」
「お守りじゃ、それは転送魔皮紙でどこかに保管するのではなく、装備のポケットにいれておけ」
「……わかった」
「ヒロユキくん」
「……?」
「また、楽しく飲もうね」
「……次は強くないお酒で頼む」
「あ、ミーは?」
「え?あぁ、ジュンパクさんもその時は一緒にどうぞ」
「了解だよ!お姉ちゃんの頼みなら死ねないね、その時はすっっごく珍しいお酒持っていくね〜!」
そう言って2人とも装備についてる魔法を発動させて風を切りながら走っていってしまった。
「さて、と」
「では、本題にうつるかの」
「うん、トミーさんもいい?」
目を閉じて壁によりかかっていたトミーは呼ばれてゆっくりとアオイの元へ来る。
「俺は大将の武器だ、なんなりと命令してくれ」
「ほう、お前が頭を下げるのを見れるとは長生きしてみるもんじゃの」
「あぁおい?老ぼれは黙ってろ」
「まぁまぁ……じゃぁたまこさんも起こして本題に入ろ」
「とりあえず、相手の3人が居る場所と力を教えて」
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