第455話 マッドサイエンティスト

 《グリード王国 クインズタウン》



 「…………」



 私は何者だろうか。



 「記憶喪失、ではないな」



 私の名前は《ミカ》……産まれた所も家族も学校の思い出も何もかもを覚えている。



 私はいつの間にかクインズタウンの入り口に1人で立っていた。



 心は穏やかだった……ただ単に“ちょっとした事を忘れた”程度の感覚だったので普通にクインズタウンにある私の家に帰ったのだ。



 「家は綺麗、長年放置されていた形跡もない」



 帰って__


 __いつもの様にコーヒーを沸かし

 __いつもの様に右から2番目のピンクのコップを取り

 __いつもの様に《魔法研究書庫》からランダムに一冊を取る。



 「だけど、私が取った本には私だけが解る暗号があった」



 暗号を解読するとこう書いてあった。



 “やぁ、君がこれを読んでると言う事は『ある記憶』を無くしている可能性がある”



 「ある記憶……」



 “まずこれを書いているのは記憶をなくす前の私だ、証拠としては今コーヒーを入れて右から2番目のお気に入りのピンクのコップを取ってこの本を読んでいるだろう”



 「ふむ、これは私だな」



 記憶をなくすと言う前提条件がわかっている中で未来の自分に認めてもらうなど簡単だ、自分の事なのでな。



 “君の無くしている記憶が知りたければ目に埋め込まれているチップを取れ”



 過去の私が本に書いたメッセージはそこで終わっていた。



 「なるほど、通りで片目の視力が落ちているわけだ」



 チップ……察するに私は何か発明をして自分を実験台として使ったのだろう。



 「もしも私が目を通した発明をするとしたら__」



 ふと、手に取った本を見る。



 「なるほど……【記録映像】か……」



 現在の魔法技術では記録映像はそう簡単ではない。

 過去の映像を映し出すのは超級魔法と同じくらい魔力を必要としさらに問題は映像で使っていた魔皮紙の魔法陣の改良だ。


 

 完成された魔法陣を少しでも失敗していじくればそれはもう別の魔法になってしまい映像など抜き出せなくなる。



 なので専門の技術者が何日も何日もかけて書き足していくのだ。



 「なるほど、目のチップ……」



 だが記憶をなくす前の私は“目のチップ”とはっきり書いてある……フフッ



 「確かに盲点だった!そう言うことか!」



 昔から私は魔法が好きだった!掘れば掘るほど出てくる魔法の謎、そして可能性!



 魔法の可能性は無限!



 それが、私の座右の銘!



 「分析するに私が手を付けたのは__視神経」



 そこにチップを埋め込んだのだ、察するにかなりの腕の医者が居たのだろう、視力は落ちているが見えている。



 後は取り出し方だが……



 「昔の私はこれを想定していただろう」



 心の中に湧き上がる“知りたいという好奇心”!



 きっとこの記録には私の想像を絶する魔法の事が記録されている!あぁ!今すぐにでも確認したい!



 「医者に頼んで取り出してもらう時間も惜しい!」



 それにもしもチップを取り出したとしてそれを見られたらどうする?私だけの記録!知識が他の手に渡ってしまう!



 「あぁ!分かったよ昔の私そういうことでしょ!」








 急いで自分の手を消毒して麻酔を片目に打ち__




 そして____





 「魔法の可能性は無限!」




 私は自らの手で片目を引き抜き血まみれのチップを取り出した。





 「さぁ見せてもらおうか!私が何者なのかを!」




 血が出続ける片目を治癒の魔皮紙で押さえつけながら__






 __私は心躍り笑っていた。


 

 




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