第450話 思い出すのはあの日!


 …………強くしてくれ、か……


 アオイと一緒に山を走って行く中、思い出す。



 ____異常個体のメルピグにボコボコにされ、俺の人生が変わったあの日のことを……



 《数年前》



 「ここは……どこだ」


 俺はじめじめとした真っ暗な地下で目が覚めた。


 手と足には拘束具がはめられているが


 「こんな事をしなくても全身ボロボロで動けないけどね……」


 【限界突破】を使った反動とメルピグで負ったであろうダメージのせいで起きているだけで痛い。

 

 「どちらにしろ、生きているなら良かったって言う状況じゃなさそうだ……おーい、起きたぞー!誰かいませんかー!」


 拘束されていて、最低限の緊急治療はしてくれている、起きた事を伝えれば何かしらアクションが起こるはずだと思って呼んでみたら正解だった。


 {起きましたか、『神に見捨てられし子』よ}


 「?」


 聴こえてきたのは魔皮紙を通した放送、神に見捨てられる?なんの話だ?


 {私は『女神の翼』という奴隷商の幹部を務めさせて頂いている《レイロウ》と言う者です}


 「なるほど、察するに35番さんを回収する時にボロボロの僕を見つけたからついでにって事か」


 35番さんを奴隷から解放して助けるって言った手前、自分が奴隷になるなんて馬鹿な話だな。


 {あなたの考えている事は分かります、ですが安心してください、奴隷にしようだなんて思ってもいませんから、まずはこれをお飲みください}


 僕の拘束が解かれ、暗闇から1つの小瓶が転がってきた。

 

 「……」


 中には透明な液体が小瓶の底に少し入っている。


 {それはどんな怪我でもたちまち治してしまう神の体液です}


 神の体液……ここまで来ると笑える、まるで神がこの世界に居てそれから貰ったような口ぶりだ、大方、そういう名称の何かだろう。


 「んく」


 僕は瓶を開けて中にあった無味無臭の液を飲み干した。


 僕が気絶してる数日間の内に外傷の傷は治っている。


 後はぐちゃぐちゃになった内部の治療だが、僕が起きてこれを飲めるようになるまで待っていたのだろう。


 医者が居ればこうなってないが、違法な奴隷商団だ……雇ってないのだろう。

 

 病気や身体内部の欠損した奴隷は見捨てているんだろうな……


 「……ふぅ……」


 骨がくっついている感覚や破裂した内臓が治って行くのが解る。


 {どうですか?楽になりましたか?}


 「はい」


 ダイヤ以上の冒険者になったことの無い僕にとってこれだけ速攻で効果が現れる薬は初めての体験だった。


 {それは良かった、ではこれを}


 「これは……!」


 目の前に魔法陣が展開され“武器と防具”が転送されてきた。

 しかもよく見ると普段使っている装備よりかなり上質なものだ!


 {それを着てそこからまっすぐ歩いた所に扉があるので入ってきてください}


 「分かりました」


 何を考えてる?僕にこんな装備を着せたら隙があれば人を殺してでも脱出するぞ?…………舐められているのか?僕程度ならどうにかなると。


 どちらにしろまだ言う事を聞いておこう。


 「………」


 装備を着て指定された扉を開けると、そこはただたたま広い部屋。

 

 壁に埋め込まれた檻の中には数々の魔物が居た。


 「なるほど、家畜の魔物をここで育てて食料にしてるのか」


 奴隷商と言うのはよく分からないけど、ここまで凄い施設だと35番さんを救出するのはかなり骨が折れそうだ。

 

 「出来れば……アイツと一緒に35番さんを救いたかったな……」


 思い出すのは唯一の相棒。


 だけど、今は考えている余裕はない冒険者を職としてるんだ、死ぬのは覚悟している!


 「来たぞ!どうすればいい?ここの魔物の世話でもしようか?」


 {とんでもない、あなたにして貰うのは____殺し合いです}


 「殺し合い?魔物とか?」


 {いえ……対戦相手はコイツです}


 


 そう言われて出てきたのは____







 「ここは……オイドン達のだまごとったとこど?」









 大きな黒い巨人だった。








 {奴隷No.5番、命令だ、目の前の人間を殺せ}






 



 

 

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