第448話 クローバー村の居酒屋!

 《クローバー村 居酒屋》


 時刻はお昼過ぎ、ここはギルドの近くにあった居酒屋で《ベルドリのパインポイン焼》が美味しいと噂のお店だ。


 俺はベルドリのお肉は食べないがそれを人に共有するつもりもないし、何より調べたらこの村といえばこの居酒屋でこの料理!って事で予約しといたのだが……


 「お嬢さん!何にする?うちは全部美味しいよ!」


 目立たない様にカウンターの1番端に座ってるのだが、さっきから店長が俺ばっかりに声かけてくるせいでめちゃくちゃ目立ってる。


 「え、えーっと、友達待ってるからまだ良いかな?」


 「そうかい!じゃぁおじさんと少し話をしよう!」


 「あ、はは、ソウデスネー」


 ギルドに近いだけあってここに居る客のほとんどが冒険者だろう、昼なのにガッツリと注文してる人が多い。

 

 「あ、あの……その前に他の人の注文は」


 「そんなもん弟子が働きゃいいんだよ!俺の料理は嬢さん専用だ!」


 「アリガトウゴザイマス」


 だめだ、この店長俺の前から動かない。

 隣ではせっせせっせともう1人の屈強な男の人が何種類もの料理を捌いている。

 

 「アイツが気になるかい?」


 「ま、まぁ、料理をあそこまで正確に綺麗に仕上げて行くのはすごいなって」


 「ガッハッハ、おい!褒められてるぞお前」


 「アリザッス!」


 それだけ言うとお弟子さんは真剣な顔で料理をまた始めた。

 大きな身体なのに小さな料理を細かく作ってるのは見てるこっちも面白いな……それで持って肉の焼き加減も完璧だ。


 「アイツは元々冒険者でね、この村がまだスロー村の時に良くここに来ていたんだ、スロー村では負けなしの大将って感じだった」


 なんか勝手に話し出したんだけど面白そうだな。

 仕方ない、エスが来るまでお酒でも飲みながら話すか!


 「店長、話す前に注文いいかな?この《ルグランサ》1杯ください」


 「お……!」


 「?」


 「いや、ちょうどその話をしようとしてな、はいよ!お待ち!」


 店長はサービスしてくれたのか、かなり並々に注がれたお酒を俺の前に出してくれた。


 「どういう事ですか?んむ」


 俺はそのお酒をゴクゴクとまるでジュースの様に飲んで一気に1杯開けた。


 「かぁぁあ!おいしい!」


 「そう!その飲みっぷりだよ!」


 「え?おかわりー!」


 「ほー、あの日を思い出すねぇ、はいよ!」


 「あの日?」


 2杯目は味わって飲むため一口飲んで店長の話を聞く。


 「アイツが負けなしってのは喧嘩とか色々あったんだが得意なのは《飲み比べ》だったんだよ、しょっちゅううちの店で勝負しててな、勝っては相手に奢らせてたんだが、ある日ちょうど嬢ちゃんが座ってるそこに“たまたま依頼でこの町に来た冒険者の酒豪”が来てたんだ」


 「へぇ、それはまた偶然ですね」


 「いやーすごかったさ、あの小さい身体でよくそんなに入るなって」


 「小さい身体?」


 「あぁ、背はこんくらいでカウンターのイスに座ってもギリギリ足ついて無かったからな」


 酒豪と聞いてイカつい奴を想像していたがどうやら違うらしい。


 「んで、お察しの通りアイツはその酒豪に負けたのよ、それがまず始まりで」


 「ほむほむ、んく……ん……ん……ぷはぁ!おかわり!」


 「はいよ!お待ち!」


 「早いね!?」


 「嬢さんまだまだ行ける口だろ?俺には解る、だから準備してたのさ」


 「フフッ、じゃぁ遠慮なく」


 「んでよ、その数日後に始まったあの“災悪の日”《クリスタルドラゴン討伐》知ってるだろ?」


 「あ、あぁ……うん」


 言えない……その災悪が呼べばここに来るなんて……


 「もちろんアイツも参加してたんだけどな、これがまた面白いのよ!」


 店長はもう俺と2人でずっと話す気なのか丸イスを持ってきて座った。


 「どうなったんですか?」


 「それがよぉ、プラチナ冒険者の癖に上の冒険者の言うこと聞かずにパーティー連れて突っ込んで何も出来ずにアイツ以外全員死んで帰ってきた訳よ」


 「あ、はは……」


 笑えねぇ!ブラックすぎるよ!


 「クリスタルドラゴン討伐も終わって何日か後にここに来た時は目を疑ったな、そこで俺がこう言った訳よ“いつもの威勢はどうした”ってな?そしたら泣きやがってよぉハッハッハ!あんな顔のやつがこーんなグチャグチャになって泣くんだぜ!」


 「…………」


 ちょっとぉ!?お弟子さん絶対聞こえてるよ!ちょっと涙出てるもん!


 「あ、あのそれくらいに」


 「笑ってください」


 「え?」


 やっぱり聞こえてたのか弟子さんは料理をしながら俺に話しかける。


 「俺が世間を知らなさすぎた、そのせいでアイツらを殺してしまった、俺を信じてついてきた奴を裏切ったんだ、笑ってくれないと俺が馬鹿だったと思っとかないと!」


 「てことだ、アイツは昔の自分を馬鹿だとこうやって時々思い出してんだ、アンタが笑ってやれば報われるんじゃねーかとな」


 「………………」


 いやいやいやいやいやいやいや!無理無理!

 暗すぎる!で、でもなんとか笑わないと!





 に、にこっ__








 俺は口で笑わず……なんだろ、取り敢えず笑顔を向けた。

 


 「!!!!???、て、店長……俺は……俺は」


 「ケッ……泣くんじゃねぇ、料理がしょっぱくなるぞ!」


 「はい!」



 え?どう言う状況?



 「あんたのその全てを許す様な美しい笑顔!どんな手向けの花より美しく輝いてたぜ!」



 な、なんか知らんが上手く行ったらしい。


 「そ、そうですか?」


 「今日の酒代は奢りだ!弟子が迷惑かけたからな、どんどん飲んでくれ!」


 ほんと!?やったー!めっちゃ飲もう!


 「じゃぁ__」


 俺が酒を頼もうとした時、ガラガラと居酒屋のドアが開いて店の中がシーーンとなる。

 俺が入ってきた時もそうだったがこの背中から伝わるプレッシャーでなんとなく誰が入ってきたか分かった。


 「うん、来たようだね__エス」


 「これは、何の真似だ?」


 爪先から頭までフル装備のエスは鎧を鳴らしながら俺のところまで来る。


 「とりあえず座ってよ、言ったでしょ?ちょっと付き合ってほしいものがあるって……まずは腹ごしらえからだね、店長!」


 「あ、あいよ」


 「ベルドリのパインポイン焼きをとりあえずこの人に!」


 「わ、わかった!」






 俺はこの季節に出てくる“とある依頼”を受けた事を話した。











 

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