第439話 アイvsアオイ


 「はぁぁあ!」

 

 「させるかぁぁあ!」


 早い!

 装備がなかったら確実にもうお陀仏状態だった……ヘルメットが無ければ即死だったってふざけてる場合じゃない!


 アイさんと俺はお互いに殴り合い、隙をうかがっている。

 しかし、アイさんは強く、なんとか獣人化してるおかげで10発に6発は防げるけど残り4発はフリーで殴られているが何とか大技だけは出させない様に足掻いている。


 【糸』を素材に使った黒ユニタードのおかげで衝撃は吸収されて受け切れない攻撃はくらっても0だ!だけどそれを纏ってない部分が一つだけある。


 「ふん!」


 「うお!」


 剥き出しの顔の部分!

 ここだけは直でダメージくらうから絶対にガードしないと。

 俺はボクサーのガードの様にして顔を守る。

 

 「悪のくせに我が龍牙道場の奥義を使うとは!道場の面汚しが!」


 「さっきから悪だ、正義だ言って!そろそろ僕も怒りますよ先輩」


 「うるさい!貴様にそう呼ばれる筋合いはない!」


 アイさんはその場で踏み込み飛んで拳を振り下ろしながら此方を狙ってる……だが!その構えは解ってる!


 「とう!」


 俺は少し後ろに下がって靴装備の魔法を発動させ同じようにその場で飛ぶ。


 「ちっ!」

 

 アイさんの拳が地面に当たった瞬間、地震が起きて周りを揺らした。

 

 「やっぱり、【地割れ】……でも魔力なしだから僕の知らない技か」


 出す前のモーションと挙動は同じだが、教えてもらったものと理屈が違う。

 たぶん、基礎は固定されていてそれの応用なんだろう。



 ならば技さえ知っていればなんとか対処できる!

 逆に知らなければ対処出来なくて最強なんだろうけど……




 だが、思ってることはアイさんも同じだった。


 「【魂抜き】!」


 「く!【空歩】!」


 「だと思ったぞ!」


 「な!?」


 技の範囲は俺の方が狭い。

 空中で俺が取れる行動といえば【空歩】しかないのはアイさんも読んでいた。


 「くっそ!」


 咄嗟に空中で顔をガードするが。


 「吹き飛べ!【地獄蹴り】!」


 ガードしている腕を上から蹴られ地面にクルクル回りながら落ちていく。

 地面が迫り来る……くそ、顔だけはやばい。

 何とか態勢を整えて後頭部をガードし地面に背中からぶつかる。


 「……アニメの世界じゃないんだぞ……こんなドラゴン○ールみたいなクレーターを自分で作るなんて」


 「はぁぁあ!」


 「あぶね!」


 アイさんが空中からそのまま顔を潰しに来たのを何とか避けて俺は立ち上がる。

 なんだよ!本当に殺しにきやがって……段々と【怒り』を抑えられなくなってきた。

 こっちは話し合いで終わろうって言ってんのに!そもそも!


 「そっちが魔王の所なんかに行くからそうなったんだろ!」


 「!?」


 「あ、やべ」


 声に出てしまった。


 「違う!お前達が来るからだ!」


 ……あ?

 何だろう、めちゃくちゃ俺の中の何かが溢れてきた……この感覚は……【怒り』。

 声に出した事で抑えていた怒りの壺の蓋が空いたようにドロドロと俺の中で何かが垂れ出した。


 「何が違うの?ねぇ?」


 俺の顔と声に出ているのかアイは構えて此方の出方を伺い出している。


 「お,お前達が来たから私の幸せが」


 「僕達が来なくても、それは偽物の幸せだよね?」


 「にせ……もの?」


 「だって、キングさんはいない、本人じゃない、まだキングさんを忘れて諦めて違う男の人を作った方が本当の幸せじゃない?」


 「貴様に何がわかる!私の何が!」


 アイさんが踏み込んで殴ってくるのを手で受ける。

 なんだ、この湧き出る『力』は。


 「解るわけないだろ、『私』はお前じゃないんだから!』


 「っ!?」


 ……キャハッ、伝わってくる。

 この女の動揺、そして恐怖。

 食べたい。


 「真実を見るのがそんなに恐い?でもさ、現実だよね?夢っていつか覚めるもんなんだよ?いつか起きなきゃいけないの解ってた?』


 「くっ!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!」


 「……』


 「しまった!」


 私はまだ暴力で解決しようとする鬱陶しい女の手首を【糸』で拘束した。

 何も考えず攻撃してくるからそんなに隙がでかいんだ。

 

 「あのさ、君、師匠の孫だよね?なんであの人を見習わなかったわけ?』


 「アイツも裏切り者だ!神聖なる道場に人間を紛れ込ませている!獣人になれる魔皮紙なんか使って私たちを騙していたんだ!くっ!この糸をほどけ!」


 「あっそ』


 私は獣人化を解いた。

 

 「お、おまえ」


 「ざーんねんでした♪私もその中の1人の人間です……キャハッ』


 「おおぉまぁぁあえええ!」


 ブチブチと無理やり腕を動かそうとするので糸が食い込み血が出てきている。


 「君がどんな事をされて人間がここまで嫌いになったかわからないけどさ、悪だ悪だと自分に害のあるものを悪にして自分が正しいと思って相手を殺す、それが正義なの?ねぇ?あー……ムカつく!』


 「っ!」


 目の前にいるクソムカつく女を思いっきりぶん殴る。

 

 「正義って何なの?悪ってなんなの?何が基準で何がリミット?【神】は正義?『女神』は悪?それは何で決めてるの?大昔に人間に害をもたらせたのがそいつなだけで『私』は関係ないよね?』


 「な、何を言って」


 「ほら!わかんないでしょ?漫画ゲームアニメで良く「私のことわからないくせに」とか言う奴居るけど、んな事分かるわけないだろ!自分を理解できるのは『自分』だけなんだよそんな事言う暇があるならとっとと起き上がって切り換えろよ!』


 ああああああああああぁぁああああ!

 止まらない、『怒り』が。

 なんだよその目、さっきまでお前が怒ってたんだぞ?お前も『怒れ』。


 「いい事教えてあげる♪キャハッ……キングの本物はもうこの世にはいないよ?』


 「ど、どういうことだ、キング様はどこか人間の奴隷に」


 「だって、そのキングを殺したのは……『私』だから』


 


 ブチっ



 とクソ女の何かが千切れた音が聞こえた。


 

 「ぎぃぃぃぃざぁぁあまぁぁあ!!!」



 糸で拘束していた自分の手首を糸を起点に無理やり斬ったのだ。

 切れない糸は強度が強いので無理やり抜けようとすると糸より手首の方が斬れるのは当然のこと。

 

 そして、骨が見えている腕で私の顔面を殴ってきた。



 グシャッ



 「!?」


 「?、どうしたの?そんな顔して、もしかして『私』が


























 避けると思った?』






















 クソ女が私の顔を殴ったのを私は避けなかった。

 そのクソ女の剥き出しだった腕の骨は私の目を易々と貫いて私の目を潰して奥に入っている。



 「く、狂ってる」


 「え?狂ってる?何が?君が攻撃して『私』が受けた、ねぇ?何が狂ってるの?狂ってるって言うのはこう言う事を言うんだよ』


 私は笑顔でクソ女の腕を掴み貫いてる骨で私のナカを掻き回す。

 無い手首から私のナカの肉の温もりと感触が伝わってるだろう。


 「ん……ぁ……キヒ………キャハハハハハ!気持ちいい!』


 「っ!!!!!!」


 「ねぇ、裸だから鳥肌たってるの見えてるよ?それによかったね♪』


 「!?!?!?」


 「あなたの『怒り』が収まったみたいで安心した♪』


 「ひ、ひぃ……お,お前は本当に狂ってる」


 「うん♪狂ってるよ、狂ってなきゃやってられっかよ……と言う事で、返すね、この痛みを』


 「え……」


 私は腕を抜いてアイを優しく押す。

 抵抗なくアイは地面に尻餅をついて私を下から怯えた目で見上げる……あぁ、そんな目で見ないで潰したくなっちゃう。


 「『イミティエレン』』


 「っっっ……わ、私も傷付けないと同じようにしないと……あ……あぁ….」


 クソ女は私を貫いた自分の腕の骨で自分の片目を刺した。


 「ぁぁぁああああ!いたぃいたぃいい」


 「キャハッ……キャハハハハハハハ!』


 あー面白い。

 『女神の呪い魔法』の一つ『イミティエレン』は今の私と全く同じダメージを受けなきゃ行けないと無意識に感じてしまう。

 そして、対象が感じる『痛み』『恐怖』『混乱』は私の『魔力』となり吸収され私は完全に回復していく。

 

 「あ、がが……目を……目の奥をもっと……ぁぁあああああ!!」


 あー目が復活して完全回復しちゃったぁ……それにしても女が苦しむのを見るの楽しい……楽しい楽しいざまぁみろざまぁ!


 「キャハハハハハ!ごめんねぇ?私は痛覚を感度に変えちゃってたから私は気持ちよかったけどアナタは直で痛みを感じるもんね?痛いよねぇ痛いよねぇ?』


 「こ,殺してくれ、いたぃいたい」


 「あらそ?私は優しいから……望み通り殺してあげる♪』


 私は装備からクナイを抜き出す。

 シビレ薬がたっぷり塗られた切れ味のいいクナイ……。


 「…………』


 あれ?どうしてシビレ薬なんか塗ってるんだろ?




 ……………………あ、そうだ、殺さないためだ。





 ん?どうして殺さないために?





 違う、殺すって事自体が間違ってるって思ってたんだ。





 なんだ?なんか意識が段々スッキリしてきた。




 「この感覚……もう1人の『僕』」




 首を差し出す様に黙って痙攣しながら下を向くアイさんを見ても、何も感じない……俺の心の中の『怒り』は一瞬で食べられ、無くなっていた。



 「……その、ごめんなさい、【魂抜き】」



 アイさんの首をトンっと叩いてアイさんを気絶させた。


 

 「今回もある意味『僕』に助けられたな……』




 俺はアイさんに回復魔皮紙を当て急いでルカの元へ向かった。

 

 


 

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