第438話 孫


 「見ててくださいましたか!我が君!あの芸術を!」


 仮面で表情はわかんないけどすっごい笑顔で俺に子供のように手を振りながら近づいてくるムラサメさん……うん、見てたよ、なんかすっごい相手怒ってるのにいきなりこっち向いてなんか言った後普通に人を爆発させるんだもん、軽くサイコパスでしょこの人。


 「み,見てたけど」


 「大丈夫ですぞ!私は我が君が下した命令を無視するような無能ではないですぞ!」


 俺が何言いたいか察してムラサメさんは答えてくれたけど……この人俺の殺さないで命令を殺さなければ何してもいいって思ってるんじゃないか?


 「フン、俺達が到着する頃を見計らってトドメを刺したな」


 「あ、エス」


 あれ?この人5分前くらいに通信あったよね?早くね?


 「相変わらず嫌な奴なのじゃ」


 「あ、ルカ」


 いつの間にか来たエスに気を取られてたら頭上からルカの声がしたので見上げると空からゆっくり降りてきていた。

 うわ、その羽と尻尾かっけぇ。


 「要望通り、全員殺していないぞ、後はどうするんだ?一人ずつお前が殺すのか?」


 「いや、流石にそこまで僕は外道じゃないよ」


 「冗談だ」


 ほんとに冗談だよね?


 「あ、はは……ちなみにだけど誰か話せそうな人はいた?」


 「俺のところは無理だな、全員話どころではないくらい怒っている」


 「ワシ方も無理なのじゃ、全員自分が死んでも良いほど怒っていたのじゃ」


 「私の所も」


 「うん、アイさんは無理だね絶対」


 見てたけど戦ってるアイさんを馬鹿にする様な行為ばかりしてたからね、うん、余裕だったとしてもやっちゃだめよ。


 「とりあえず、みんなアバレーに返して、今回のことを僕の家でゆっくり整理しようと思う」


 みんなが強くて一通り落ち着いた。

 だけど俺はアニメの中の主人公みたいに頭の回転が速くないからゆっくり整理しないとダメなんだよね。


 「了解した、ムラサメはアバレーに連絡を、騎士達はルカの背中に乗せて運ぶ」


 「了解ですぞ」


 「構わないのじゃが背中に血はつけないでほしいのじゃ」


 「それはお前がなんとかしろ」


 あー、なんかアレだな、俺の出したフワッとした命令を汲み取って色々動いてくれてる。

 中身の俺が馬鹿だから無能上司……なんかゴメン……。


 「アオイ」


 「ん?」


 「お前、好きな人がいるのか?」


 え?何いきなり……あぁ、そういや、ロビンもそんなこと言ってたな、と言うか今聞く事?

 よく分からないけど何か深い意味がある質問なんだろう、なんたってエスがそんな中学生みたいな質問するくらいだから。


 「居ないよ、僕があの時言ったのは相手を騙す為に言っただけ」


 何か考えがありそうだからその時の事を包み隠さず言う。


 「そうか」


 え?それだけ?

 

 「何か理由があるんじゃ」


 「あぁ、理由はあった、だが言えない……おい、ルカ、ニヤニヤしてないで仕事に行くぞ」


 「了解了解なのじゃムフフ」


 バサッとルカが飛び立ったその時だった。


 「な!?」


 「ルカ!?」


 飛んできた槍がルカを背中から貫いたのだ。

 ルカが頭から地面に落ちる。


 「まだ、私は死んでないぞ!」


 「アイさん!?」


 先ほどまで焦げて倒れていたアイさんまるで脱皮したみたいに全回復して裸で立っていた。

 異様な光景、一瞬でそこまでの回復……まさか!


 「まさか……【超回復】!?」


 それは龍牙道場の資料で見た【超回復】を使った時の状態と似ていた。

 自分の魔力を全部使い、周りから【気】と呼ばれる自然エネルギーを吸い取って傷を全部癒す究極奥義。

 使ったら魔力が一か月間まったく使えなくなる。


 「下がってるのですぞ」


 「ムラサメさん、気をつけて、多分相手は」


 「心配ないですぞ、また圧倒的な力でねじ伏せてやるのですぞ」


 「あ、」


 ムラサメさんは俺の話も聞かずに突っ込んでいった。

 

 「倒れていれば良いものをですぞ」


 「はぁ!」


 「!?」


 「【魂抜き】!」


 突っ込んだムラサメさんの一撃をくぐったアイさんはそのまま下から顎を攻撃した、その攻撃の仕方は俺もよく使う師匠から習った技そのものだ。

 これで確信に変わった、アイさんは奥義の使い手!


 「トドメだ!悪党!」


 「ダメ!」


 「……」


 気絶したムラサメさんを追撃して殺そうとしたので咄嗟に飛び出した俺を横からエスの矢が追い抜いた。


 「ちっ」


 それに気付いたアイさんは後方に飛んで避けたがエスは2本目3本目とアイさんを気絶しているムラサメさんから遠ざけさせる。


 「ナイスエス!」


 「油断するからだ、それで、何を言おうとした」


 エスは俺の方を見ずに2本の矢を放つ。

 一つはアイさんに撃って、もう一つはムラサメさんのマントに引っかかってそのまま森の奥へ運ばれていった。


 「うん、アイさんの使っている技は【超回復】に【魂抜き】、全部龍牙道場で習う技なんだ」


 「それがどうした?」


 さらにエスは近寄られない様に矢をアイさんに放ちながら聞いてくる。


 「うん、問題なのはアイさんが【超回復】を使った事なんだ、あれは究極奥義で師匠以外に1人しか使えないって言ってた」


 「その1人がアイツか?」


 「わからない、けどもしも他の究極奥義を使えるなら本当にヤバいかも、究極奥義は知ってないと対処できないようなものばかりだから」


 「他に何がある」


 「覚えてる限りでは【変わり身】【危険予知】【獅子咆哮】……それに【手刀】」


 「説明してくれ」


 「うん、【変わり身】は相手の攻撃が当たった時に盲点に入り込んで一瞬消えるんだ、師匠が言うには攻撃が当たったと思った瞬間の隙を狙うって言ってた」


 「そうか、それで」


 「【危険予知】は相手の行動を隅々まで見て攻撃を予測するんだ、本人からしたら何秒か先が見えている感覚になる」


 「なるほど、それで当たらないのか」


 「次に【獅子咆哮】は」


 「来るぞ」


 俺もエスと同じようにアイさんを見ていたがいつのまにかもうすぐそこまでアイさんは来ていたのだ。

 攻撃を避けながら気付かれないように徐々に距離を詰めていく……これも俺の知らない究極奥義だろう。


 エスは弓を変形させ剣にしてアイさんに振り下ろそうとするが……来る!

 俺は咄嗟に耳を塞いだ。


 「ガウ!」


 「な!?」


 決して大きな声ではない。

 声量で言うと俺とエスが聞こえる程度だろう……だがこれが【獅子咆哮】、声の波長を合わせ相手の耳から脳に微量のダメージを与え少し動けなくする技。

 俺の隣に居たエスはその一瞬でアイさんから【魂抜き】をされ気絶した。


 「はぁぁ!」


 「ぐふっ」


 隣で耳を塞いでいた俺はアイさんに蹴飛ばされて5メートルほど飛び地面に背中をこすられながら着地する。

 もしも装備がヤワだったら俺の骨は何個か折れてたかもしれない。

 だけど!


 「!?」


 「ただやられる訳にはいかないからね」


 アイさんの足には俺の【糸』が絡み付いている。

 この【糸』は魔法で出していない俺のユニタードの裾の部分だ。


 「エスはやらさせない!」


 「くっ!」


 糸は俺の思う通りにアイさんの足に絡み付いてアイさんを転倒させ引き寄せてくれる。



 その間にシビレ薬をたっぷりぬってるクナイを構えてアイさんを痺れさせて終わりだ!……って!え!?うそだろ!


 「ガァァア!」


 「片足を!斬った!?」


 あろうことかアイさんは糸が絡み付いてる足を斬ったのだ。

 それに武器も何も持ってないのに斬ったってことは……


 「やっぱり【手刀】も……」



 アイさんは片足から血を流しながら立って俺を睨みつけてくる。


 「アイさん!聞いて!魔王を殺したのは僕達じゃない!」


 「黙れ!悪の言う事など信じられるか!獣人の身でありながら人間に味方をする裏切り者め!」


 だめだ!この人完全に頭に血がのぼって話も聞いてくれない!

 

 「やるしかない……」


 俺は武器を納めて構える。


 「その構え……なるほど、お前も私のおじいさまの道場に行った事があるのか」


 「おじいさま?」


 「龍牙道場の師匠は私のおじいさまだ」


 「えええええ!?」


 嘘だろ、アイさんが師匠の孫!?

 似てねぇ、てかそんな才能バリバリの人と闘うの!?

 

 「行くぞ!」


 だけど!俺もやられるわけにはいかないんだ!


 「来る!」


 「【魂抜き】!」


 「【魂抜き】!」


 アイさんが態勢を低くした瞬間俺も上から【魂抜き】をして対抗する。

 俺とアイさんの腕はぶつかってお互いが威力を殺した。


 【魂抜き】はただ力を入れればいいのではなく一定の力でしなきゃいけない。

 だからこそ、カチあった感じになったけど純粋な力だと俺は負けてる……だけど!技を知っていればどこを狙われるか分かる!





 こうなったらとことんやってやる!










 

 

 

 

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