第437話 捕らえろ3

 《ムラサメ視点》



  「どうして!どうしてですかムラサメ様!」


 「……」


 身体の全体を使って器用にムラサメを攻撃する元アバレー騎士10番隊隊長アイ。


 「答えてください!」


 「……」


 それに引き換え、ムラサメは優雅に鉤爪で槍をいなしていく。

 仮面の下はどんな顔をしているのか表情は見えない。


 「はぁぁあああああああ!」


 ガキンっと一際大きな金属音が響いた。

 だがムラサメはまったく効いていない様子だ、アイは後方に飛んで距離をとった。


 「裏切るつもりですか!」


 黙っていたムラサメだが、その言葉には我慢できず答える。


 「どの口が言うのですぞ!この小娘が!」


 「!?」


 「国を出て、魔族に身体を売った人間の裏切り者が!」


 「人間ではありません!私達は獣人です!それに私達が裏切ったのは女王が」


 「あの女王は我が君を攻撃する程、無能で生きる価値もないクズでブサイクで救われない低脳ですぞが、今の貴様はそれ以下ですぞ!」


 「言わせておけば!」


 アイは飛び込みムラサメを攻撃する。


 「フン、これ以上愚かで何も取り柄もない貴様と話すつもりはないですぞ、我が君が見てる前、“魅せる闘い”をして楽しませるのがせめてもの贖罪」


 「魅せる?……は?今……なんと……」


 あまりの発言にアイは手を止めてムラサメを見る。


 「……」


 だが本当にムラサメは黙ったままだ。


 「今……なんていった!答えろ!この偽物!」


 火に油を注ぐ、これ以上に適した言葉はないだろう。

 もはやアイはムラサメを偽物と断定して先程とは違い殺す気で攻撃を開始した。


 「……」


 「お前も……お前達も!我らの幸せを砕く!どうしてほっといてくれないんだ!一体私が何をしたと言うのだ!」


 「……」


 「そもそも人間達が我らを偏見の目で見る!耳があるからなんだ!尻尾があるからなんだ!身体から毛がはえてるからなんだ!」


 「……」


 次第にアイの攻撃はヒートアップする。


 「人間が私達獣人を差別し軽蔑する中、それでもあの人は……キング様は人間を信じろと!いつか獣人と人間が心から仲良くなれる日が来ると!」


 「……」


 「なのに!その人間の奴隷にされてこき使われるんじゃ違うじゃないか!キング様の気持ちも分からずに踏みにじって!」


 「……」


 「年々、獣人の行方不明者は増えている!どれもこれも言わないだけで人攫いの仕業だとみんな気付いている!なのにあの女王は!」


 「……」


 「あの時だって!」


 「……」


 「準備は順調だったんだ、なのにパッと出たよく分からない人間なんかに頼って!」


 「……」


 「人間は悪だ!悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪!」


 槍が何個もあるように見えるほど早く突くが、まるで劇で踊ってるように捌いていくムラサメ。

 

 「……」


 「悪の味方をするお前も悪だ!私は正義の為にお前達を倒す!」


 ガキンと、アイの槍はムラサメの鉤爪に止められる。

 

 「な!?う,動かない!」


 するとムラサメは思いもよらない行動に出た。


 「我が君!見ててくださいですぞ、私がこれからこいつを戦闘不能にするですぞー」


 「!?」


 まさかのアイを全無視して少し離れたアオイに話しかけたのだ。

 もはやムラサメは全くアイの言葉に耳を傾けていないかった。


 


 これには奥でアオイも動揺している。



 

 

 

 

 「お前は……どれだけ……どれだけ私を侮辱すればいいんだぁぁぁあ!」


 

 アイは槍から手を離し隠していた小ナイフでムラサメの首をとろうとするが。


 「っ!?」


 離した槍を逆にムラサメは利用し持ち手の方でアイを殴り吹き飛ばす。


 「ガッ、グハッ」


 空中を回転しながら飛ぶアイにさらに追い討ちをかける。


 「芸術は爆発ですぞ」


 身動きの取れないアイは空中で鎧が爆発する。

 アイの皮は爆発によって焼け焦げ身体から煙を出しながら地面に落ちた。


 「最後に一つだけ教えてやるのですぞ」


 「あ……ぅ」


 「私の正義はあのお方、我が君そのもの」


 そう言うと最後に鉤爪でアイの背中を斬りつけるとアイは動かなくなった。


 「もっとも……ループ前の私ならどうなっていたか分からないですぞが」






 そのまま焦げて焼ける肉の匂いを漂わせるアイを置いてルンルンとアオイの元へ戻って行った。





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