第436話 捕らえろ2
《ルカ視点》
「なっハッハッハ!殺さずに捕らえろ、か!絶対に『ボス』は言いそうにない事なのじゃ」
ルカは山を引き返し、また村に戻っていた。
ロビンがいなくなった事でルカの中の毒は消えていた。
「それにしても、最初に来た時よりも随分と歓迎されている様なのじゃのー?」
“喧嘩上等”と背中に大きく書かれた白い特攻服を来ているルカの前には様々な武器を持った黒い着物の様な戦闘服を着た獣人達が立ちはだかる。
数にしておよそ1000人程だろう。
誰もがルカに対して殺意を剥き出しにして睨みつけている。
「うむ、人間になって忘れていたのじゃが、やはり気持ちの良いものじゃの、大勢から殺意を向けられるのは」
かつて天災とまで言われたクリスタルドラゴン。
当然、そう呼ばれるまでに何度も討伐隊を相手にしただろう、それは人間だけではなく魔族も……。
「元の姿だとお前らを殺してしまう可能性があるのじゃ、ボスの命令は完璧に遂行しないとNo.2の座が奪われてしまうから今回はなしなのじゃ」
ルカは背中からクリスタルの輝く羽を広げさらにクリスタルの尻尾を生やし戦闘態勢に入る。
「お前らのその殺意の目が絶望に変わる瞬間を楽しみにしてるのじゃ」
そして戦争が始まった。
「撃てえええぇ!」
掛け声と共にルカの真上に大きな魔法陣が展開される。
「ほう、超級魔法なのじゃ?受けて立つのじゃ」
直径10メートル程の魔法陣を余す事なく大きな光の杭が落ちてくる。
大型魔物を貫くために使う超級魔法だ。
「なのじゃ」
ルカは片翼で杭を受け轟音と共に砂埃が舞う。
「やったか……?」
騎士の1人がそんな事を言い砂埃が晴れるのを待つと。
「ふぅ、危うく土にうまるとこじゃったのじゃ」
呑気にケロッとしたルカはの姿があった。
「っ!!!怯むな!いくぞ!正義の為に!」
「「「「「正義の為に!」」」」
掛け声と共にそれぞれが雄叫びをあげながらルカに武器を構えて走りだし、それを援護するように数100の魔法もルカに飛んでくる。
その騎士達だけを見るなら戦争だが相手は1人……だがその1人には数が足りなかった。
「【クリスタルニードル】」
ルカは空に飛び上からおびただしい数の先の尖らせたクリスタルを放つ!
「ぐぁ!」
「くそ!」
「ぬぁ!」
次次とクリスタルニードルが獣人騎士達にあたって倒れていく。
「ワシは触れた物の原子を自分で書き換えれるのじゃ、これも人間になってスクールなどと言う所で学んだ事なのじゃが、今ならこんな風にコントロール出来るのじゃ」
クリスタルニードルが刺さった獣人はみんな苦しみだし“形を変えて長方形の宝石になった”
「な、何だこれは!」
「安心せい、殺してはおらんただコンパクトにしただけなのじゃ、ただの命を宿した宝石になったのじゃ……もっとも、それは貴様達を構成していた原子を書き換え形を変えただけで質量などは変わっとらん、壊したら戻すときに何かが無くなってる可能性があるのじゃがな」
その説明はルカの近くに居る者しか聴こえていない。
後方の兵士達は異常事態にも怯まずに愚かにも魔法攻撃を仕掛けてきている。
「確かに、魔力で出来た魔法攻撃はどうしようもならないのじゃが……」
ルカは空中でそれを受けるが
「そもそもその程度の攻撃がワシに効くはずが無いのじゃ」
魔法で吹き飛んだ特攻服の下からクリスタルの鱗の様な肌がルカを守っていた。
服が吹き飛んだので豊満で形の綺麗な胸が見えている。
「では、そろそろ本気で掃除をするのじゃ【クリスタルグレネード】」
そのままルカは騎士達の上を飛びながら爆撃していく。
ルカから落ちてくるクリスタルグレネードは何かに当たった瞬間爆発して破片を飛び散らせて刺さった者を長方形の宝石に次次と変えていく。
「クァッハッハッハッハ!圧倒的な力でねじ伏せるのは楽しいのじゃ!のじゃのじゃ!」
次第に騎士達の数と比例するように攻撃は少なくなっていき……
「ひ、ひぃ」
「ヌシが最後の1人なのじゃ」
残った最後の女の獣人の前にゆっくりルカは降りてきて地面に足を着く。
倒れて崩壊した家や店……最後の女の獣人とルカの周りにはモノリスの様なダイヤモンドやルビーやサファイアがゴロゴロと転がっている。
「な、なんなの」
腰を抜かし尻餅をついた状態でも何とか近くにあった小さなナイフを構えてルカに向ける。
「ほれ、これを返しに来たのじゃ」
ルカは転送魔皮紙からボーリング玉2個分くらいの大きさのクリスタルをその獣人の前に投げて置いた。
「な、何よこれ!」
にちゃあ……と言う表現が正しいだろう、そんな爬虫類の様な笑顔を向けながらルカは真実を告げる。
「何って」
「死んだお前の娘なのじゃ」
「!!!」
女の獣人はルカから目を離して地面を手で這いながらも地面に落ちてるクリスタルを抱く。
クリスタルは氷の様に冷たい。
「いやぁぁああああああああああああああああああああ!」
「……」
「いや!いや嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嘘だ夢だ!マレ子が!私のマレ子が死んだなんて!」
母はクリスタルを抱き抱え泣き叫び願う。
これは夢だと、本当の事ではないと。
そしてそれを見ていたルカにやけくそに魔法で攻撃を連発する。
「殺してやる!殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!この悪!女神!世界最悪の女神!死ね!お前の様な女神はこの世の中にいなくなるべきなんだ」
ルカに攻撃は全く効いてない。
「しね……しね……」
最後は魔力が尽きたのか女獣人は砂を投げつけていた。
「気は済んだのじゃ?」
「なんで、なんで笑っていられるのよ!あんたは人の娘を誘拐して殺したのよ!」
「何を言うてるのじゃ?まず、ワシはそいつを殺しておらん、勝手に死んだのじゃ、ここまで運ぶのにあんな骨のなくなったぶよぶよの肉塊を持つ気にならんのでその形にしてるだけなのじゃ」
「嘘よ!私の大切な仲間もみんな!」
「死んでおらんのじゃ、ボスの命令で殺してはいけないことになってるのでのじゃの」
「じゃぁ何で私だけ……」
絶望の顔でルカを見上げてるところをルカはキスするのではないかと言うくらい顔を近づけ言う。
「お前が、ワシと言う遥か上の存在にちょっかいをかけたからなのじゃ」
「な、なにをいって」
「お前なのじゃろう?ワシにあんな物を飲ませる様に娘を使ったのは」
「あ、あれは魔王様が」
ルカはおもむろにクリスタルの剣を1本生成し無抵抗の女獣人の片腕に刺す。
「ぎゃぁぁぁあ!」
「さっきからお前の言葉を聞いてるとイライラしてくるのじゃ、ワシはあの液体を飲んだ、お前はあの液体をワシに飲ませた、これはワシへの攻撃なのじゃ、ならなぜ仕返しされると思っていなかったのじゃ?」
「そ、それは」
「ん?なんなのじゃ?言ってみろ?」
「わ、私達は正義を行なっているのよ!悪を倒す為の行動なら仕方ないじゃない!」
ルカはそれを聞いて呆れも怒りもしなかった。
なぜなら……
「正解なのじゃ」
「え?」
ニッコリとルカは笑う。
「ワシは生きているだけで天災、世界から見たら危害しかない『悪』なのじゃから」
パチンとルカが指を鳴らすと獣人が片腕を刺されても離さなかった“娘の形を変えられたクリスタルが粉々に砕け散った”
「そんな!!!!!!い……」
女獣人が叫ぼうとしたが最後まで言う事なかった……他の騎士達と同じように宝石となったのだ。
「愚かなのじゃ、災害には立ち向かって行くものではなくその場で隠れて過ぎるのを待っていれば良かったものを……」
ルカは転送魔皮紙から服を取り出し着る。
「正義も悪もモンスターであるワシ達には関係ない、生きているか、死んで喰われるか、それだけなのじゃ」
そしてルカは通信魔皮紙を繋いだ。
「{村の獣人は全員捕らえたのじゃ、すぐにそちらに向かうのじゃ}」
ルカは“自分の主人の元へ向かった”
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