第435話 捕らえろ1

《エス視点》


 「殺さずに捕らえろ、か、甘いな相変わらず」


 一足先に異変に気付きアオイの元に向かおうとしたエスだったが、何かの気配を感じ止まっていた。


 「居るのは分かっている隠れてないで出てこい」


 エスは暗い森の中に話しかけるが返答する者はいない。

 代わりにこれが返答だと言わんばかりにエスに向かって矢が飛んできた。


 「……」


 エスはその矢を片手で取る。

 

 「そうか、まぁ、出て来たところで結果は変わらないからな……ただ、手が滑って殺されても文句を言うなよ」


 そのまま一瞬で弓を展開して持っていた矢を暗い森に放ち返す。

 

 「手応えはあったな、声を出さないのは流石だ、よく鍛えられている」


 エスの周りは未だに静かで風でなびく木々の音しかしない。


 「……」


 静かに次の攻撃は行われた。


 「ほう」


 エスに向かって四方八方森の中から【炎弾】が飛んできたのだ。


 「黒狼」


 エスはその場を動かずにそう言葉を出すと、影から黒い狼が出現し


 「ガルルルル……ガウ!」


 大きく吠えた。

 するとエスに放たれた【炎弾】は“見えない空気の壁”に阻まれ弾け消える。


 「ガルルルルルルル!」


 「いい加減出てきたらどうだ?それとも黒狼に引きずり回されたいか?」


 それでも森の中の者は誰も答えない、エスは痺れを切らした。


 「聞こえない様だな……」




















 


 

 

 







 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 


 













 「お前に言ってるんだよ」


 「っ!?」


 隠れていた獣人の1人はエスを目で捉えていたにも関わらず見失い、いきなり目の前に現れたエスに困惑する。


 「矢が当たってる時点で居場所がバレてるのくらい気づけ、まずは1人だ」

 

 ボゴ!っと獣人を蹴り飛ばす。

 

 蹴り飛ばされた獣人は何本も木を降りながら吹き飛び、最後は岩にぶつかり気を失った。


 「きさまぁぁぁあ!」


 それを見て怒りをあらわにしながら木の上から1人、飛び降りながらエスに向かって剣で攻撃してきた。


 「ふっ……やっと出てきたか」


 エスは簡単に攻撃を避ける。


 「単純な攻撃だな、殺意だけは褒めてやる」


 「うるさい!お前達が来なければ!」


 「ちっ」


 エスは舌打ちをしながら振われた剣を避けた後その相手の手を掴む。


 「俺達が来なくても魔王に支配されるだけのお前らに未来はない」


 そう言うとエスは手を持ったまま引いて獣人の顔面を殴る。

 石を岩に向かって力強く投げて当たった時の渇いた音が森に響き渡る……獣人の顔の骨が割れた音だ。


 そのままエスの前で獣人は鼻血を出しながら気を失った。


 「総員!突撃!」


 掛け声と共に森の中から4人獣人が出てきて体勢を低くしながらエスに向かってくる。

 獣人の身体能力は驚異的で普通ならば対処に遅れるが


 「遅い」


 エスが1人に照準を合わせ矢を放つ。


 「なんの!」


 全速力で真っ直ぐ来ていた1人の獣人は矢を避けきれず肩に刺さったがそのまま向かってくる。


 「本当によく鍛えられてるな」


 「息子の仇!」


 矢が刺さったまま大きなハンマーを両手で振り上げた所で


 「【爆矢】」


 刺さっていた矢の筈が爆発しそのまま矢が獣人を押し込み地面に肩ごと張り付けにされた。


 「ぐっ!」


 「地面で寝てろ」


 「ぐぁぁあ!」


 エスはそのまま3本の矢を獣人の両足ともう片方の肩に刺しこみ地面に固定した。


 「隙あり!」


 そうしてる間に他の獣人が攻撃してきたが


 「ガウ!」


 「な!こいつ!」


 黒狼がそれを許さずその獣人の腕に噛みつき


 「ガァァァアル!」


 「うお、うおおおああ?!」


 大型犬くらいの大きさからとは思えない力で噛み付いた獣人を振り回して投げた。


 「ぐぁ!」


 投げられた獣人の先にはエスに近付いていた獣人の1人に当たって一緒に弾かれる。


 「……」


 エスは宙を舞う2人を正確に矢を当てそのまま2人とも木にはりつけ状態になった。


 「残るは1人、お前だけだ」


 「くッ……」


 「お前は他とは違う、不利と思った瞬間に俺から距離をとった、行動としては正解だ、あのまま踏み込めば容赦なく俺はお前の足2つを切り落としていただろう」


 獣人は剣を構えてエスに向ける、だが殺意はあれど獣人の本能なのか身体は震えている。


 「わ、私はアバレー騎士10番隊副隊長、サブゴローだ!仲間と娘の仇!」


 名乗ったのは自分を鼓舞するためだろう、だがサブゴローの震えは止まらない。


 「……」


 「っ!!!」


 黙ってエスはサブゴローに歩いて近づく。


 「震えてるぞ」


 そして構えてる剣をソッと掴む。


 「う、うるさい!お前は娘の……嫁の……正義のために殺す!」


 「正義?」


 エスはサブゴローの剣をねじ曲げた。

 

 「ひぃ!?」


 「甘いんだよ、正義と言って自分を正当化する、自分のやってる事を客観的に見てみろ、本当に正義か?それすらも解らないから大切な娘や嫁を守れないんだ、むしろお前みたいな遺伝子が世の中に残らなくてよかったと思えるぞ」


 「き、きさまぁぁあ!」


 曲げられた剣を離してサブゴローはエスを殴ろうとするが簡単に止められる。


 「お前が正義と信じていた結果がこれだ」


 「っ!」


 「さぁ、どうしようもない状況だぞ?お前はどうするんだ?」


 「離せ!娘と嫁を奪ったお前は悪だ!悪は正義に倒されなきゃいけないんだ!」


 「話にならない」


 「ぐ、ぁぁぁぁあ!!!!腕がぁぁあ!」


 エスは弓を解体し漆黒の双剣でサブゴローの腕を2本とも切り落とした。

 

 「お前を殺せなくて残念だ」


 「!!」


 最後に心臓部に向けて強烈な一撃を与え副隊長のサブゴローは気絶した。

 倒れているサブゴローのなくなった両腕からは血が飛び出している。





 「守りたい者を失ってからじゃ遅いんだよ、何もかも……本当に大切な人を守りたいなら悪に落ちてでも守る覚悟を決めておけ」


 

 

 気絶しているサブゴローに回復魔皮紙を投げ死なない様にして通信魔皮紙を起動する。







 「{こっちは終わった、今からそちらに向かう}」

 


 






 エスは“大切な人”の所へ。










 

 

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