第415話 感情を食べられる感覚

 「そ、そんな……」


 心臓の鼓動が速くなる。


 どうして?どうしてだ!


 目の前に居る立派な立て髪を生やしたオスライオンの獣人はかつて俺が奴隷教育時代に仲間だった奴隷No.33番さんだ。


 そして、その人は……





 俺がこの手で殺してしまった人。





 ヒロスケを失って絶望して何も考えなくなったあの日、俺は仲間の2人を殺している。


 それは俺の中に居るもう1人の『俺』がやったのではない。




 「あ……」


 

 ふと33番さんと目が合う。



 〝蛇に睨まれたカエル″

 あれは恐怖で身体が動かなくなると言うが今俺が思う限り当てはまるのはその言葉だった。



 「……」


 「……」



 時間にして数秒だろう。

 だが俺にとってその数秒は時間が止まったように長かった。



 「アイ、この方達は?」


 「キング様、この方達はここまで来た冒険者の方々です、魔王様の命令で私が出向きました」


 

 その言葉で我に帰る。


 【魔王】……アイさんの口からその言葉が出たのだ。

 何を考えてるんだ俺!冷静に考えろ、今までの傾向からして魔族は人間に化けてるのをそれこそさっきまで思っていただろ!

 つまりはこの33番さんも偽物。


 「そうか、ここまで来るとは対したものだ旅で疲れただろう、今日はゆっくりと泊まって休憩するといい」


 33番……キングさんは笑顔で言ってくる……。

 その笑顔は優しく、奴隷教育時代に泣いていたり寂しい気持ちになっていた時に向けてきてくれた暖かい笑顔……。


 「う……ぐ……」


 「どうした?何か私は悪いことを言ってしまったか?」


 「どうしたのじゃアオイ?」


 「ですぞ!?」


 分かっているのに……偽物だと分かっているのに涙が出てしまう。


 「ご、ごめんね、何でもない、何でもないよ」


 くそ、止まれ……止まれよ涙、必死に止めようとしてるのに止まらない。


 「……ごめんなさい、ちょっと席を外します!」


 「アオイ!?」


 「我が君!」


 俺はその場からみんなを置いて逃げ出した。

 

 「くそ、くそ……!」


 走りながら何とか考えをまとめようとするがまとまらない。

 思い出すのはあの日の記憶……隣の牢屋に居て落ちていく2人の光景。


 走りすぎる俺を村の子供達が見てくる。








 「はぁ……はぁ……」


 

 





 気がつくと俺は村の入り口まで戻っていた。

 


 

 「はぁ……ふぅ……」



 走り続けて疲れたのか解らないが深呼吸をするくらいには落ち着いた。

 しかし、どうも落ち着きすぎている気がする、頭の中がスッキリしてるのだ、もう今は涙も出ず、罪悪感などが取れ、ハッキリとアレは偽物だと判断できている。


 「今まで意識した事なかったけど、もしかしてこれが『感情を食べられている』って事なのかな」



 俺の中の『俺』が言っていた。

 負の感情をエネルギーに変換してると……それが本当ならこの感覚は食べられた後。


 「たしかに、よくよく考えたら負の感情なんて無くなったらそれに関して振り返ったりしないから盲点だったな」


 「それで、これからどうするのじゃ?」


 「うん、とりあえずあの家に……ってルカ!?それにムラサメさんも!?」


 「何なのじゃ?」


 「そんなに驚かれてどうしましたですぞ?我が君」


 「い、いつからそこに2人とも居たの?」


 「最初からなのじゃ、魔法を使って走るならまだしも今のお主は魔法を使わなければ普通の人間ほどしかスピードも出ないのじゃ、それに追いつくのは簡単なのじゃ」


 「私はいつでも我が君におつきしてますですぞ」


 「黙るのじゃ変態、お前はアオイの涙が地面に落ちる瞬間無言で小さな瓶に入れていたのじゃ!」


 「プギャ!?なななななな!?」


 2人のやり取りが面白くて少し笑ってしまう。


 「フフッ、2人ともありがとう、なんかちょっと元気出たよ」


 そうだ、ここは敵の村。

 俺がこんな所でくじけてちゃ魔王なんかに立ち向かえない!


 「2人とも、変な行動してごめんね、これからの行動なんだけど……」







 さて、まずは情報だな。






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