第408話 アオイのオススメの店
《アバレー王国》
「さて、と」
月も完全に出てしまった深夜。
俺はアバレーで有名な《うまかっちん》という居酒屋の前に来ていた。
普段この店は閉店ギリギリまで人が並んでいる程人気な居酒屋で予約ですら1ヶ月待つと言うほどの良店だ。
「えーっと、確か」
俺はガラガラの引き戸の横にあるポストに手を突っ込んでグーチョキチョキパーグーと手を動かすと
「誰かと思えば、久しぶりだな」
「覚えててくれましたか!」
扉の鍵を開けて出てきたのは黒人で狼の耳を持ち顔にデカイ傷がある獣人。
「お前の顔を忘れる奴なんて世の中の男にはいねーよ」
「フフッ、それは嬉しいような悲しいような」
女として俺は見られてるって自覚はあるけど面と向かって言われると変な感情になる。
「それよりどうした?師匠の話だとお前はもうここを卒業したと聞いたが?」
そう、ここは居酒屋ではなく、《龍牙道場》と言う強さを求めるもの達が辿り着く場所なのだ。
居酒屋というのはカモフラージュのためにしているのだが......むしろカモフラージュの方が儲かっていて今はこの様に閉店してからではないと門下生は帰れないみたいだ。
ちなみにこのやり方は門下生が外に出て店が閉まっている時に入る秘密のやり方だ。
「いやー今回は師匠よりここに様があってですね」
「店に?お前まさか」
「はい、お店の料理を」
「ダメだ!それはここが有名になってからお前以外にもかなり来ている、だから断るようにしているんだ、お客で来るならお客で来い!」
「あはは。そうですよね」
やっぱり俺以外にも考えてる人いたか......でも俺もう言っちゃってるしなぁ。
よし!こうなったら
「じゃぁ調理場と場所を貸してください材料は自分の冒険者時代のがあるので!」
作ってもらえにゃいなら自分で作る!
「..................」
うわ、考えてる。
これダメなパターンだ。
「やっぱり無理です......よね」
「っ!!」(しょんぼりしてるアオイが可愛く見えてる)
くっ!予約とかする時間なかったもん!
ここはとりあえず帰るしか......
「それくらいなら良かろう」
なぬ!
「ホンとですか!ありがとうございます!助かります助かりました!」
「俺の料理を目的ではなく自分で料理をするなら構わん、しかし、使った後の片付けまでちゃんとするんだぞ」
「はい!」
ほんと助かったぁ。
まぁ門番さんの料理が食べれないのは残念だけどもう時間もない。
「ほら、入れ」
「はーい」
うわ、懐かしいなぁ、当時のままだ。
中は小さい居酒屋みたいになっていてカウンターに六人ほど、そしてその後ろに3席くらいの畳の席しかない。
儲かってるはずなのに増築してないのは色々と秘密があるからだろう。
「ここはまだ繋がってるんですか?」
「あぁ、世の中にはどんな理由であれ強さを求めて来る奴は絶えないからな」
そのうち某アニメみたいに何でもありの地下闘技場みたいなの開き出すんじゃない?そのセリフ。
「じゃぁ厨房お借りします」
「おうよ」
さて、と、調理場調理場は......おぉ、すごい、綺麗に整頓されてて全部ピカピカに洗われてる。
「本当に料理が好きなんだなぁ」
って、うっとりしてる場合じゃない。
えーっと、転送魔皮紙っと。
「《メルピグのロース肉》をベースに作るか、あとは《グルミン》からとれる油にパン粉になんか薄力粉みたいな奴と《ベルドリ》の卵、あとはフライパンフライパン......あ、これ使いますね?」
俺は壁にかかっていた少し厚底のフライパンを使うことにした。
「良いが何を作るんだ?」
「とんかつです」
「とんかつ?」
あ、そっか、この世界、揚げ物の概念が唐揚げくらいしかなかったから知らないのか。
ちなみにどっか探せばあるのかもしれないが少なくともこの反応的にここの門番さんは知らないみたい。
「まぁまぁ見ててください、ここを貸してくれるお礼に門番さんの分も作りますので」
「お、おう?」
アオイちゃんの30分クッキング~たらたったたたって奴。
まずは3つのボールに卵、薄力粉、パン粉を入れてフライパンに
「油をドボドボドボ~♪」
それからお肉に切り込みをいれて
「塩コショウをパッパッペッ♪」
お肉を柔らかくするために
「叩く!せーの!......オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!」
ぐわぁ、手にグルコサミンがぁ!いやなんだっけ?えーっとプルコギみたいな名前の奴......あ、乳酸菌がぁぁあ!
少し前までこんなことなかったのに......筋力落ちたなぁ。
「ぜぇ......ぜぇ......」
後はこのお肉に薄力粉を薄くつけて卵を
「お前......手がめちゃくちゃ震えてるぞ、大丈夫か?」
「大丈夫です......料理は魂を込めて作るものなので......ぜぇ......ぜぇ」
「解る!解るぞ」
なんか解られたけどいいか。
卵をつけてパン粉をつけ!
「行きます!」
「お前!まさか!」
揚げる!
「うおおおおぉ!この音この音!」
「ど、どうしてお前!この調理法を知ってるんだ!」
「へ?あ!いや!ちょっと待っててください料理は時間と色を見て判断してるので!」
今構ってる暇はない!......何これ勇者っぽいこといった!
「ここだぁ!」
キッチンペーパーはないのでボールの上に網を乗せた所にとんかつを置く。
「出来上がりました!何か言う前に食べてみてください」
「なるほど、確かに料理はまず食べてからと言うことか!」
そう!料理は見るものでも匂いを嗅ぐものでもない!食べるものだからね!
あとはこれを包丁で横に切って皿に盛って......
「出来上がりをどうぞ!」
「うむ、いただきます!」
門番こと、うまかっちんの店長は箸でとんかつのひときれを持ったあとに眺めそして口に運ぶ。
ここまで聞こえた一撃めのサクッという音......これは成功してるに違いない!
「こ、これは!......う」
「......」
「うますぎるぅぅぅぅうううううるるるる!なんだこれは!なんだ......これはぁぁぁあ!!!」
うお、普段あんまり感情を出さない店長がめちゃくちゃになってる。
「お粗末!」
「お、俺は幸せ者だ......人生で二回もこんな気分を......味わえるなんて」
「ち、ちょっと、店長、泣くほどなんて」
「お前も料理人なら解るだろう!この気持ち!」
確かに、解ってしまう。
この世界に来て俺は数えきれないほどの味を体験した。
その時に何も感じないわけではない、むしろおしっこが出そうになるほど危なかったくらいのものもある。
「ごめん、僕が間違ってた......泣いていい......泣いていい!」
「うぉんうぉんうぉんうぉんうぉん」
どんな泣き方だ......まぁでも心の底からのなんだからそうなるか。
そう思ってみていたら扉の方から
「すいません、開いてますか?アオイから聞いて来たんですけど」
と、聞き覚えのある青年の声が聞こえてきた。
「うそ、もうそんな時間なのか......はーい」
とんかつ待って泣き崩れてる門番を無視してガラガラ戸を開ける。
来てるのはさっきの人たちではなく、少し前から読んでいる......
「やぁ、リュウトくん、ヒロユキくん♪」
「よっ」
「......来たぞ」
勇者二人だ。
数年ぶりの【勇者会議】が開かれた。
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