第401話 魔王メイト 討伐完了

 「......久しぶりだな、魔王」


 そう言ってヒロユキは砂漠に着地する。

 メイトもヒロユキの近くに降りてくるがヒロユキはメイトを見ずに背中を向けながら話す。


 「お前はあの時死んだはずだ」


 「......俺もそう思った、だが死んだ兄さんがヒントをくれたんだ」


 「兄がヒント?」


 「......そうだ、相変わらず居酒屋でお酒を飲んでいて楽しそうで、死んだことも感じさせないくらいいつも通りで」


 「兄のことではない、ヒントの事だ」


 「......兄さんの素晴らしさを解らん奴に話す事などない」


 ヒロユキはそう言いながら【武器召喚】された日本刀を横に投げ放棄する。


 「どういうつもりだ?」


 「......1つ聞く、天秤を俺達は破壊した、今頃身体は戻っている頃だろう......だが、入れ換わった先で死んでいた場合、どうなっている?」


 「ふん、自分の事は話さないのにそちらは聞くのか?まぁいい、いずれ解ることだ」


 「......」


 「死んだものが、生き返るわけないだろう」


 その言葉を聞いた瞬間ヒロユキの殺気が強くなる。

 魔力ではない、威圧するような殺気でもない。

 ただ、静かに......心臓を掴まれるような殺気。


 「......さっき俺が捨てた刀は良く斬れるんだ」


 「?、それがどうした」


 「......」


 「!?」


 ヒロユキは振り向き様にメイトの犬鼻を掴んだが、掴まれた瞬間メイトは咄嗟にヒロユキの手から脱出し距離をとる。

 しかし、メイトの鼻にはリラックスピルクルの臭いがこびりついていた。

 

 「この臭いは!まさか!」


 「......安心しろ、お前を殺すために使ったんじゃない、お前に俺と同じ気持ちになってもらうために使わせてもらった」


 「くそ!」


 メイトは必至に臭いを取ろうとするが人間の身体と違い本体は嗅覚も何倍にもなっているので取れない。

 

 「......どういうつもり?と聞いたな?」


 「あ?」


 既に苛立っているメイトにヒロユキは追い討ちをかけた。


 「......あれを使うと一瞬で勝負がつくから捨てたんだ」

 

 「っ!!!」


 その言葉は魔王に対しての侮辱。


 強大な力を持っている魔王の事を自分より格下に見ていると言う最大限の舐めた意思表示だったのだ。


 「ならばやってみろ!勇者ぁ!」


 メイトが怒りに任せて拳を突きだし攻撃する、その速度は音速を超え、重く鋭い一撃になりヒロユキの身体を粉砕するはずだった。


 「......」


 「な、なに!」


 だがヒロユキはそれに反応し、片手で受け止めたのだ。


 「......フン」


 そして受け止めたメイトの拳を握力だけで潰した。


 「ぐ!がぁぁぁあ!手が!」


 解放されたメイトの拳は血と折れた骨が皮を破り突き出ている。

 

 「クッ!」


 メイトは魔法を使って自分の手を再生する。


 「......この程度か?」


 「くそがぁ!死ね!」


 メイトが魔眼に魔力を込めヒロユキを潰そうとするが【目撃護】でまったく効いていない。


 「くそ!」


 「......これが人間の力だ」


 「ならば砂に埋もれて窒息して死ぬがいい!」


 次にメイトはその場から飛んで砂の大きな波を作り出しヒロユキを飲み込ませた。


 「フン、所詮攻撃が効かないだけ、身動き取れず息が出来なければどうにもならんだろう」


 メイトは誰もいない砂地に降り勝利を確信する。

 だが

 

 「......どうした?終わりか?」


 「!?」

 

 いつの間にかメイトの後ろにヒロユキは立っていた。

 

 「な!?」


 「......」


 ヒロユキは手を振り上げメイトの肩に向けて手刀を当てる。

 するとそれだけでメイトの腕が鎧ごと斬れた。


 「ぐぁぁぁあ!!!腕が!」


 片腕になったメイトは叫ぶ。



 「......腕も治せるんだろ?」


 「ぐ、く!」


 メイトは腕を魔力で再生する。


 「......次はなんだ?」


 「っ!」


 少しの間しか戦っていないがメイトは理解してしまった......圧倒的力の差を......この先、ヒロユキにどんな攻撃をしても、どんな魔法を使っても敵わないと脳が言っている。


 「こ、こんなはずでは......」


 そしてメイトの脳裏によぎるのはキールの'弱いから足掻く'という言葉だった。


 「が、ぁぁぁあ!!全ては魔神様の為に!」


 圧倒的な力を前にプライドも何もかも捨てメイトは空高く飛び上がる。


 「我も......'足掻かせて'もらう!」


 全魔力を使いメイトは魔眼を解放した!


 「......っ!」


 「フハハハハハハ!これはお前達人間が考えた魔法などではない!本物のブラックホールだ!このまま成長していけばこの星ごと飲み込む!」


 黒い球体は周りのありとあらゆるものを吸い込んでどんどん大きくなっていく。

 

 「......往生際の悪い」


 ヒロユキが腕を横に突きだすと砂に埋もれていた日本刀がヒロユキの手に戻ってくる。


 「そんな小さな刀で何ができる!あきらめてお前達全員死を受け入れるがいい!」





 ヒロユキは腰を低くして構え......そして、【新たな神の魔法】を唱える。
















 「......【神・斬】」















 ヒロユキが刀を一振りすると、ブラックホールと魔王メイトは一片も残らずこの世から消滅した。

 

























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