第398話 どちらが現実

 《????》


 「あれ......?」


  

 そこは、どこにでもある小さな居酒屋。


 仕事終わりのサラリーマン達がお酒を飲んで賑わう中、小さな二人用の席で桂匡カツラタダシは座っていた。


 「確か......僕は......ボク?なんか変なの」


 タダシ自身の一人称に違和感を覚え何か思い出そうとしたとき。


 『失礼します、ご注文の日本酒あつかん2合です。』


 「あ......はい」


 金髪で綺麗で可愛い青い目の店員さんが注文したお酒を持ってきて机に置いてくれた。


 「ありがとうございます」


 『はい♪では、ごゆっくり』


 そのまま店員は奥に戻っていった......


 「(外人さんかな?不思議とあの人には嫌悪感が無かったな......あんなに綺麗で可愛いと絶対に嫌悪するはずなのに)」


 そんな事を考えながら匡は目の前のお酒を注ごうとすると


 「......兄さん?」


 「あれ?ヒロ?」


 タダシの弟、ヒロユキがいつの間にか机の横に居た。


 「............」


 「............」


 お互いに見合う。

 何か引っ掛かりを感じているのだ。


 「まぁ、座りな?」


 「......う、うん」


 そのまま向かいにヒロユキは座る。


 「何か飲む?」


 「......お酒以外で」


 「つれないねぇ、すいませーん」


 店員を呼ぶと先程来た金髪の店員ではなく普通の大学生の男の人の店員がきたのでタダシは半ばすこしガッカリしながらも弟のコーラを注文する。


 「......兄さん」


 ヒロユキはタダシが持っていた日本酒に気付き手をさしのべる。


 「お、ありがと」


 トクトクトク......とおちょこギリギリまでタダシはヒロユキに日本酒を注いでもらい。


 「お先に失礼するぜ」


 クイッと一気に飲み干した。


 「くぁーウマイ!」


 「......フフッ」


 程なくしてヒロユキのコーラが来た。


 「お、乾杯するのに俺のおちょこが空だなぁ?」


 「......はいはい」


 「ひゅー気が利く」


 もう一度タダシは注いで貰う。


 「それじゃぁ、とりあえず乾杯!」


 「......乾杯」


 二人で乾杯してタダシはもう一度おちょこの中のお酒を飲み干し、ヒロユキは喉が乾いていたのか半分ほどジョッキのコーラを飲んだ。


 「いやー......やっぱりお酒はいいね!心が晴れやかになる」


 「......ならない」


 「まぁお前は弱いしなハッハッハ」


 「......」


 「?、浮かない顔してるな?なんかあったか?」


 「......!?」


 ほとんど顔色を変えていないヒロユキだが長年見てきたタダシはその少しの表情で読み取ることが出来た。


 「......いや......なんでも......」


 「バッカおめ、なんでも無いことを話すのが兄弟、そして本当に何でもない事なら笑い飛ばすのが俺なんだよ、なんだ?言ってみ?ハッハッハ」


 タダシはもう違和感など無くなり今自分が居酒屋で兄弟と飲んでるのを楽しくなっていた。


 「......おかしな事を言うかもだけど」


 「おう!」


 「......死んだ夢を見たんだ」


 「ほーう?死んだ夢?そんなもん俺も見たことあるぞ?崖から落ちる夢とかエイリアンに頭貫かれる夢とか」


 「......それがかなりリアルでさ、一瞬で何かに潰されたんだ」


 「ふーん、そりゃ大変だな」

 

 「......うん」


 「でも、夢で死んだとしても今ヒロは生きてんじゃん?」


 「......そうだけど」


 「なら良いんじゃないか?現実で死んでないんなら」

  

 「......うん......現実......現実?」


 「どした?」


 「......現実!」


 「うぉ!?」


 ヒロユキは何かを思い出した様にガタッと席を立ってタダシを見る。


 「......兄さん......!」


 「お、おう、兄さんだぞ?」


 「......兄さん......兄さん兄さん!」


 「うぇえ!?どした!?」


 そう思ったら次はヒロユキは涙を流しだした。

 周りの目がチラチラとヒロユキとタダシの席を見ている。


 「お、おま飲みすぎだってハハハ」


 とりあえずタダシは周りに飲みすぎて泣いていると思わせるように大きな声でアピールしながらヒロユキに「とりあえず座れ」と目で訴えるが。


 「......兄さん!」


 「うぉ」


 そのままヒロユキは移動して座ってるタダシに抱きついた。


 「......兄さん......兄さん」


 「あ、はは......本当にどうしたんだ......ヒロ?」


 ヒロユキはしばらくその体勢で泣き、その間タダシは何も言わなかった。


 「......ありがとう兄さん」


 「お、おぅ、落ち着いたか?」


 「......あぁ」


 「お前、どうしたんだよ?」


 「......少しね......兄さん」


 「ん?」


 「......俺はまだ死ねない」


 「お、おう、なんかアニメみたいなセリフだな」


 「......うん」


 タダシがそんな事を言うとヒロユキの奥で他のお客の会計を終えたさっきの金髪の女性が化粧が気になるのか【手鏡】を持って自分の顔を見ていた。


 そして、【何気なしに何かを考えたわけでなくふとタダシは鏡の事について話した】


 「アニメと言えば、鏡の中に魂を吸い込ませる敵とか鏡は霊が宿るとか言うよな?昔からだから鏡が俺恐くてさ」


 「............それだ!」


 「へ?」


 「......兄さん、それだよ!」


 「お、おぅ、なんか解決したなら良かった、それじゃぁまだ酒もあるし飲み直しを......」


 「......ごめん、これ以上はここに居れない」


 「そうか?じゃぁ俺もお会計をするかな?すいませーんお会計を」


 『はーい』


 タダシが呼んだ、金髪の女性を見てヒロユキは目を見開く。


 「(お、やっぱり気になるか、こんなに可愛いもんな、テレビに出ててもおかしくないような......)」


 「......アオイ!」


 『キャッ♪』 


 「え?お知り合い?」


 ヒロユキが名前を呼びアオイと呼ばれた金髪の女性の肩をガシッと掴む。


 「......アオイ!俺はまだ生きている!」


 「店員さんに夢の話してどうするんだって、本当にどうした!ヒロ!店員さんすいません、こいつ酔ってるみたいで」


 『いえいえ、構いません♪』


 店員さんは綺麗な笑顔で返し。









 その笑顔のまま、タダシに言った。











 『むしろ、あなたの方が早く目を覚ましてください』












 【......え?』








 気が付くとタダシ周りに居た人間は誰も居なくなり......



 


 【そうだった......俺は......』






 残ったのは先程までヒロユキに肩を掴まれていた











 【自分』だった。











 

 


 



 

 

 

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