第397話 勇者二人、脱落
《地下》
【地下シェルター簡易拠点】......この魔皮紙は土や砂の地面ならどこでも展開可能で魔皮紙を置いて少量の魔力を流すことで一瞬で大きな立方体の地下部屋を作り出す。
一見便利に見えるがテント型の拠点と違い何度も使えず使い捨てで空間を作り出すだけで家具や水などは無く、中に物をおいている状態で解くと物は地中に埋まったままになるのであまり使われていない。
「【光源】」
ユキが【光源】で周りを照らす。
「時間がありません、ざっくりでいいので戦況を確認します、まず外の兵士は私とユキナ、ルカお......ルカさんで片付けました、アオイさんとキールさん達は?」
シレッとユキがすごいことを言うが他の人も時間がないのは何となく解るのだろうすぐに話し出す。
「僕は竜巻から逃げた先のピラミッドで罠にハマってたけどそれを脱出したら例の天秤があって、今は交代してルカが壊し中じゃないかな」
「{それについては大丈夫なのじゃ}」
「{大丈夫大丈夫~}」
「ユキナ、先輩、通信、所有」
ユキナはそういって通信用魔皮紙を起動させモニターを出すとルカの顔とアールラビッツのあーたんが居た、彼女らも他の場所にシェルターを作って通信してるのだろう。
「{天秤の方は無事に破壊した、これで身体の方は戻ったはずなのじゃ}」
「本当ですか!ルカさん!」
ユキは嬉しそうに浮いているモニターに近寄る。
「{嘘は言っとらん}」
「思った以上の成果です!みんな死なずにそこまで出来てるなんて!」
「..................」
キールは黙る。
「後はキールさんとヒロユキさん、どうでしたか?あれ?あと身体が戻ってるはずですからヒロユキさんは元の姿なんですよね?久しぶりのそのたくましいお身体見せてください♪おーいヒロユキさーん!」
「............」
キールは何も言わず下を向いたまま......
「キールさん?」
「ユキさん......ヒロユキ殿は......」
「ヒロユキ殿は......魔王に殺されました」
「......え」
ユキの手から力が抜け、持っていた杖を落としてしまう。
そして当然、その言葉に多大なダメージを受けるのは一人では無かった。
「う......嘘......だよね?キール......さん」
実の兄である、アオイだ。
「............」
「っ!」
「く、悔やんでる暇もありません、ヒロユキさんの事は後で......」
「そ、そんな......ヒロ......」
「アオイさん?」
ユキは杖を拾いながらなんとか切り換えることが出来た。
いや、切り換えないともたないと判断したのだろう、歯をくいしばっていて杖を持つ手も力強い......だが、何よりも関わりが深いアオイにとってその報告は身体が引き裂かれ押し潰される様な感覚だった。
「い、いやだ......」
アオイの身体が【恐怖』で震え出す。
脳に浮かんだ言葉は
【死】
【異世界転生者は死なない・死んでもやり直す】......アオイは幸か不幸か前の世界で見ていたアニメや漫画の世界を信じてその考えで動いていた......だが、文章、絵、アニメとは違う。
今まで死を見てこなかったわけではない。
たが心の中、隅の隅では小さく【ここの世界の人だから】と思っていたのかもしれない、そうして納得させていたのかもしれない。
ヒロユキは死んだ。
自分と同じ境遇の者が......それがアオイにとって唯一の【恐怖』のトリガーになっていたのだ。
「はっ.....かっ......ひゅ......」
「アオイさん!?」
「{アオイ!}」
アオイの呼吸が次第に変になっていき、身体が一気に震え出しアオイは倒れてしまった。
「これを!」
キールが一枚の魔皮紙を取り出して起動しアオイの口をそれで覆う。
「アオイさん、ゆっくりとこれを通して呼吸を整えてください」
次第にアオイの呼吸は落ち着きを取り戻し、キールにもたれ掛かるように気を失った。
「............」
キールはゆっくりアオイを仰向けに地面に寝かせてユキ達に語りかける。
「これは、極度のストレスから来る症状です......私達は甘かった......アオイさんは最初から戦場慣れをしていない節がありました、その時に引き換えさせるべきだった」
戦場が【恐い』
死ぬのが【恐い』
殺すのが【恐い』
それは当たり前のことだ。
キールの言う通り、アオイはここに騙し騙しで来ていた所があった。
「..................ですが、悩んでいてもしょうがありません」
ユキは魔法使い帽子を深くかぶり言葉を出す。
「こうしてる間にも時間は過ぎていきます......正直に言います、ここから先は私達は手出しが出来ません、人数を増やせば増やすほどキールさんに負担がかかる、なので少数精鋭......勇者である二人とキールさんで魔王と戦ってもらうつもりでした......しかし、こうなってしまったのは仕方ありません、少しだけ......少しだけ時間をください!考えます!」
「っ!」
ユキはキールを見つめる。
その目は涙をこらえてるのが解る......そして涙目は一瞬だがキールの妻、『エリコ』の事を思い出させた。
「フッ......」
パァンとキールは自分の頬を叩く。
「キール......さん?」
「キーでいい、パーティーでは一瞬の時間でも命取りになることがある、「さん」や敬語なんて考えてる暇があればどう動けばいいか考えるべきだ」
「え?」
「私のパーティーの決まりでね、敬語が苦手な奴が約二人......いや、全員か、何でもない......私が一人で時間を稼ぐ」
キールは真っ直ぐとユキを見る。
「............はい!任せてください!必ず......必ずどうにかしてみせます!」
「フフッ」
「何かおかしいですか?」
「話しやすい口調でいいとも言ったつもりだったが」
「私はほとんどこの口調なのです......あ、そういえば」
ユキはある事を思い出す。
「?」
「いえ......そう言えばお母さんが昔......じゃぁ......改めて......」
ユキは少し頬を赤くしながら、それでもハッキリと言った。
「頑張ってきて!キー!......さん」
「フッ、行ってくる!」
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