第392話 魔王の怒り

 《ピラミッド内部 キール・ヒロユキ》


 くそ!どうなっている!


 「防戦一方だな、騎士と勇者よ」


 私達は魔王メイトに攻撃を仕掛けたは良いものの全くダメージを負わせていなかった。

 

 「............」


 これが魔王と普通の人間の力の差とでも言うのか!

  

 「そろそろ液の効果も切れる頃合いだ、話してもいいぞ?」


 魔王は余裕の表情で語りかけてくる......此方の考えも解っていると言うことだろう。

 

 「私のパーティーにもよくおしゃべりしながら戦う奴が居るが、そう言う奴ほど頭がおかしい性格をしている」


 この状況を考えるとアイツにとってはどんな時も余裕だったということなのか?いつから【神の加護】とやらが付いていたか知らないが......


 「やっと話したと思えば......言いたいことはそれだけか?」


 魔王は表情には出さないがその言葉からは苛立ちを隠しきれていない。

 なるほど、もう少しだな。


 「貴様ごときに話すことなど無い!」


 「ほう......我を'ごとき'と見下すか?魔王を..........................................名も名乗らぬ低級騎士よ、魂があの世に行けると思うなよ」


 来た!

 魔王メイトはもう表情にも隠しきれないほどに怒りを露にして一瞬で此方に移動してくる。


 「くッ!」


 相変わらずすごい力だ......反応できたが私は裏拳で殴られ飛ばされる。


 だが!これでいい!


 「......クルッポー」

 

 空中で受け身をとって着地する。 

 ヒロユキ殿も気付いたみたいだ。


 「低級騎士よ、威勢がいい言葉を放ったにしてはこの程度か?」


 「そっちこそ、先程からずっと私達に傷一つつけれてない、魔王と言うのはやはりその程度」


 「黙れ」

 

 「っ!」


 また反応できないほどのスピードで間合いを詰められた後、首を捕まれた後、壁に背中から激突する。


 「ーーーーーーー」


 「どうした?たかが一人の人間をまだ殺せないのか?魔王メイト」


 「ーーーーーーー!」


 言葉にならない獣の鳴き声とも言えるような咆哮で私を威圧する、明らかに先程までの冷静さがない。

 なるほど、確かに効いているな......

 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 《囮作戦前 馬車内》


 「と言うことで、アオイさんには囮になってもらった後、遅かれ早かれ戦争になると思うんです、なのでみなさんにこれを」


 アオイさんをやむを得なく囮に使い敵の本拠地に行く方法を見つける作戦を組んだ後、ユキさんは私達に一つの小瓶を渡してくれた。

 

 「これは?」


 「これはリラックスピルクルの香水です」


 リラックスピルクルの香水と言えばミクラルで大流行の香水だ......まぁ、こういうシャレたものは私は使ったことがないが......


 「僕、香水使ったこと無いんだけど......」


 「「え!?」」


 「?」


 私はアオイさんのその言葉に驚いて声を出してしまうと同じタイミングでユキさんも声を出した。

 確かに世の中には私のように香水を使わない人間だって存在する、それは男も女も関係ないだろう香水なんて使うのは自由なんだから......だが私が驚いたのはアオイさんが使ってないという事だった。


 「アオイさん今まで何の香水使ってるんだろうって思ってました......」


 ユキさんも私と同じ考えだったみたいだ。


 「うそ!?そんなに臭うかな僕!?」


 「悪い意味ではないですよ?甘い匂いです」


 「それって僕......糖尿病なんじゃ......」


 「そういう意味でもないです」


 ユキさんの言う通りだ、変な意味ではなくアオイさんの周りは甘い匂いが漂っている為、近くにいると身体が本能的に匂いの元......つまりアオイさんを探してそちらに向いてしまう。

 ちなみに、魔物にも匂いで脳にダメージを与え、幻覚を見せて捕食する種類が居て、私達騎士はその影響をなるべく受けないように訓練されてるのだが......それでも気を抜くとアオイさんを目で追ってしまっている。


 「しかし、どうしてこれを?」


 話を進めるために私がユキさんに聞くとユキさんはこちらを向き直して説明してくれる。


 「私の親友が魔族について秘密裏に研究していて、このリラックスピルクルの毒にはアヌビス族に2つ効果がある事に気付きました」

  

 「ふむ......魔族について研究......ですか」


 「はい」


 ユキさんはそれ以上聞かれたくないみたいだ。

 魔族の存在はここ最近解ったことで、それを前々から研究していたなどという人物に興味はあるが......これ以上は今は聞かないようにしよう。


 「それで、効果とは?」


 「一つは思考を狭めます」


 「思考を?」


 「単純に怒りやすくなるんです」


 「なるほど......」


 それに関しては私も身をもって経験している。

 何せ、怒りに任せて今まで尽くしていた王に反乱をここしたのだから......


 「後は怒らせる方法ですが思いっきり相手を蔑んで声に出して挑発してください」


 「了解した、そして、もう一つは?」








 「もう一つですが......」







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「お前は我を怒らせた......いや、お前'等'だ!この戦いが終わった後、人間は一人残らず我が直々に殺してやろう!」


 もっとだ......もっと怒れ!


 「ふん......それが今まで出来なかったと言うことはハッタリだろう?貴様にそんな力はない!魔王の力がどんなものかと思ったが私一人殺せないのに夢だけは大きいな!」


 私は壁に打ち付けられ首を掴まれ宙に浮いている私の状況で挑発は他から見たらかなり滑稽だが声を出して見下すように挑発する。

 【目撃護】のせいで魔力もどんどん減ってきて時間も魔力も無くなってきている......【氷の剣】も出せないほどだ。



だが、こうしていればきっと隙が出来るはず......そうすれば!


 

 「お前達は何も知らないくせにベラベラベラベラベラベラと......お前たちがこの地上にのさばっているのも魔神様のご意思によるもの!」


 魔王が私を押し込む力が強くなりパキパキと壁にヒビがはいりだす。


 「フッ......ならばそれこそ貴様は愚かだな............魔神の意思に背く行動をするのか?」


 その言葉が明らかに決め手になった。


 「ーーーーーーーーー」


 魔王メイトは、あまりの怒りに言葉などなく。

 ただ真っ直ぐその天秤の紋章が浮き出ている目で此方を見てきて拳を振り上げる。


 そのプレッシャーで精神が怯みそうになる。


 絶対にダメージはないと思っているがもしかしたらこの一撃はダメージが入るのではないかと思うほどのプレッシャー......


 代表騎士になりこのプレッシャーを感じたのは初めてだ。


 これが魔王の【怒り】というものなのか!



 だが!!!!



 「今です!」


 「......クルッポー」


 「ーーーーーーーーー!」

 

 ローブを着たヒロユキ殿がまったく同じ方法で魔王にベルドリ爪で攻撃する。

 普通ならば最初のように反応されていただろうだが今回は!



 「ッッグ!」



 ヒロユキの爪は魔王メイトの顔を斬りつけた!




 


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