第391話 全力!

 「て......天秤天秤天秤天秤!」


 子供に勉強勉強って言いたくないですよね?ってふざけてる場合じゃない!

 なんとか無限直線迷路を抜けた俺がたどり着いたのは魔法の松明によって明るく照らされてる大きな部屋。

 そのほとんどが中央にそびえたつ黄金の大きな一つの天秤に埋め尽くされている。


 「つ、通信は!」


 慌ててまた通信用魔皮紙に魔力を通すが全く反応しない。

 

 「ダメか......」


 周りに誰か居る気配もなく、自分の声しか聞こえないくらい音も何も聞こえない。

 

 「とにかく、誰かに知らせて壊さないと」


 入り口の方を見ると先ほどの暗い通路では無くなっていて道も壁の松明で奥までよく見える。

 そして、奥には青いクリスタルが塞いでいるのもよく見えた......。

 それに、今出たところであの竜巻を止めるすべを俺は持ってない。


 「............うーーん、やるしかないか」


 この状況、俺がこれを壊せと言われてる気がする。


 「そうだよね、みんなのお荷物って思われないって証明するには......丁度良き!」


 やってやろうじゃねーか!

 俺はその場で天秤に向かって構え集中する。


 目を閉じて身体の中の魔力を操作し拳に込め続け息を整え......


 「はぁぁぁ!【地割れ】えええぇ!」


 ドゴオオオオオオオンと静寂のピラミッド内を音が反響し砂ぼこりが立つ。


 「........................」


 手応えは......ない。

 天秤は全く無傷だった。


 「どうしよ、一応本気で壊しに言ったんだけどな......」


 この技、外で本気でした時は大きな岩も軽々と砕いた程の威力あるんだけど......まぁ、その時「アニメみたいなのが現実になった!やべぇ!」って言いながら岩壊しまくってたらしばらくアバレーのギルドで大型の危険な新種の魔物が居る可能性があるとか言って立ち入り禁止になって他の冒険者に迷惑かけた話があるがそんな話はどうでもいい!


 嘘だろ!全くびくともしない!


 「そ、そうだ、あの細いところなら」

 

 天秤の胴体部分は上にいくに連れてくびれみたいになっている、もしかしたらあの細いところならポッキリいけるんじゃないかな?


 「よ、よし......」


 俺はもう一度同じように助走の距離をとって構えそして


 「はぁぁぁ!【空歩】!【地割れ】!」 


 空中を3歩ステップするかの様に飛んで細いくびれ部分に渾身の一撃をくらわすが......


 「全然だめだぁ!」


 落ちながら殴ったところを見たが全く傷も入っていなかった。

 そのまま空中で回転し猫の様に地面に着地する。


 「うーーーーむ、どうしよ」


 その場にあぐらをかいて座り込む......え?女なのにはしたない?いや、俺は体が女だけど元は男だから!


 「慌てない慌てない一休み一休みとか言うんだろうけど正直慌てないといつ気付かれるか解らないしなぁ」

 

 多分だけど、今こうしてここに居ながらちょっかいかけれてるのは外で何かあってるからだろう、じゃないとこんな大事なものを敵に触らせるわけない。

 俺ならこれでもかと言うほどここは注意しながら見るしな。


 「よし【武器召喚】!これを壊したいんだけどどうすれば?」


 俺はまた【糸』を出して状況を変えようとするが


 「あれ?」


 さっきとは違い全く反応しなかった。

 

 「どういうこと?さっきはこれで行けたのに......」


 もしかしてこれも【目撃縛】と同じで何か条件が揃わないといけないのか?それともゲームみたいにリキャスト時間があってそれまでダメとか?

 

 頭の中で操作すると一応その通りに動いてくれるが先ほどの様な感じは無かった。


 つまり、

 

 「なるほど、【糸』に頼らずともなんとかなるって事だね!了解!」


 ポジティブに捉えよう!つまり、頑張れと言うことだな!うん!


 「やってやるよ!'君が泣くまで殴るのをやめない作戦'だ!」


 

 魔皮紙関連は試したがこの中では何も使えなくなっている。

 

 頼れるのは己の拳のみだ!やってやるよ!







 「みんな、待っててね」







 俺はそれから何度も何度も天秤を殴り続けた。









 




 

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