第381話 嫌な感情もこれ一本

 「......ん」


 「......」


 「......さん!」


 眠い......小さな女の声がする......


 「......てください!」


 あぁ......本当に女の声って目覚ましよりも甲高くて......不快だ......


 「起きてください!アオイさん!」


 「ぬぅ......」


 「成功しましたよ!アオイさん!流石です!」


 あ、不快とかの前に色々思い出した......


 「着いたんだね......【ライブラグス】」


 天高くまでそびえ立つ石の壁が俺たちを挟むように両側にあり地面にはさらさらの砂......そして空には暑苦しく光る太陽があった。


 「はい、着きました」


 「うん、僕どうなってた?」


 立ち上がって自然に土を払いながら気付かれないようにユキさんから距離をとる。

 みんな無事に来たようだ。

 

 「はい、あの時、店員が部屋を離れた後、アオイさんは一瞬で消えました......転移魔法かと思われます」


 「特にそんな魔法陣とか魔皮紙は無かったけど」


 「どうやらイスの中に隠されていたみたいです、他にも外のタイルの下やトイレの中にも仕掛けられてました」 


 「そんなに見つけたの!?一体どうやって......」


 「アオイさんが消えた後、すぐにあの店に行き店員の入っていった部屋へ行きました、そこには見た目が人間でしたがその部屋に濃度の濃いアレを使って話していくうちに全部はいてくれましたよ」


 「本当に効くんだ、【リラックスピルクル】......」


 リラックスピルクルはミクラル王国のミルノ町の近くの島にある花で危険を察知すると目を痺れさせるくらい強烈な臭いを放つ液を纏う。

 それが一つの集団で咲いているため何も対策なしに行くと脳が臭いにやられて酸欠やめまいを起こしたり脳に後遺症が残ったりする。


 そんな花をミクラルで研究して加工、作られたのがこの魔皮紙だ。

 名前の通り匂いを嗅ぐと脳がリラックス状態に入るらしいが、アヌビス族は逆効果らしい。


 要するに冷静な判断が出来なくなる。

 

 「さて、それでヒロユキさん、ここに見覚えはありますか?」


 「......クルッポー」


 「間違いない様だね、じゃぁこのどちらかの道にピラミッドが......」


 「どうやら、急いだ方が良さそうですよ、ヒロユキ殿、ユキさん、あーたん、アオイさん」


 「?」


 キールさんが一方の道を見て言ったのでヒロユキとあーたん以外すぐにそれぞれ偵察に便利な魔皮紙を展開させ確認する......ちなみに俺のはイヤホン型偵察魔法の物で最近ミクラルで作られた魔皮紙だ。


 これを装着して集中するとかなり遠くの音が鮮明に聞こえる。

 

 「あー......ほんとだね」

  

 「すぐにバレましたね、違法でここに来ると通知でも来るんですかね?」


 「パスポート取っとけば良かったねライブラグス行きの」


 「......クルッポー」


 「いっぱいいる~」


 片耳イヤホンに聞こえてきたのは走ってくる大量の足跡と「侵入者」という声。

 状況からして俺たちの事だろう。


 「ところで相談なんだけど、一旦あっちに逃げて見るのはどうかな?」


 「......クルッポー」


 「その案はいいかもしれませんね、どちらかの道を調査するのは決まっているのでここで無駄に体力や魔力を消費するよりも一度引いて見るのもありです、どうですか?キールさん」


 「構わない」


 「では決まりですね!逃げましょう!」


 「はーい」


 「......クルッポー」


 そうと決まった瞬間一瞬でキールさんとユキさんは走りだし魔法でどんどん加速していき3秒後には百メートルくらい離れていた。


 「わー!はやーい!あーたんも負けないよー!」


 続けてあーたんも魔法なしでかなり早く走っていった。


 「みんなはや!?」


 「......クルッポー」


 遅れてヒロユキも走り出した。

 魔物になってるおかげで移動速度が人間の比じゃないくらい早い。


 「僕ちょっと時間かかるんだって!」


 「スーッ......ハーッ......ほいさ!」


 俺は深呼吸して呼吸を整え集中し一気に魔力を解放して【獣人化】した......この状態だと普通の時より身体能力がかなり上がるんだよね。

 それに足につけてる装備はキールさん達みたいな高級装備じゃないから普通の状態だと持久力が......って!そんな事思ってる場合じゃなかった!


 「みんな待ってよー!」


 俺も足装備に魔力を通しながら走り出す。


 ユキさんとキールさんはもう見えなくなっていた。

 後ろの軍隊からは音的にどんどん離れていってる。


 「......クルッポー」


 「やっとヒロユキ君に追い付いた......一緒に走ろ?このスピードならなんだかんだ後ろと距離離してるみたいだからさ」


 「......クルッポー」


 ヒロユキはそのまま走り続ける。

 どんな感覚なんだろ?魔物ってめっちゃ疲れるのかな?


 サラサラの砂の上を走っていくが行けども行けども同じ景色だ......本当にこれ自分が走ってるのか気になる。


 「前もこんな感じだったの?」


 「......クルッポー」


 ヒロユキは頷く。


 「そっかぁ......ところでさ、この戦いが終わったらみんなでまたの飲まない?」


 「......クルッポー」


 「どっちだろ?とりあえずリュウトくんにもその事を話したら是非ともって言ってたから来てね、場所はアバレーでオススメの所があるんだけど」


 「......クルッポー......」


 「あ、ユキさん達だ」


 俺の飲み会の勧誘の話を持ちかけてたらかなり奥の方でユキさん達が止まっていた。

 その先は下り坂になっているのかここからでは壁しか見えない......ユキさんが此方に気付いて速度を落としてゆっくり来てと合図をしてる。


 「......クルッポー」


 「うん、何か見つけたみたいだね」


 合図の通りに徐々にスピード落としていきユキさん達の所まで来たけど......あぁ、なるほど......


 「追い込まれたってことかな?これ」


 「......クルッポー」


 一方通行の道が終わり遠くまで見える......そこには一つと聞いて居たピラミッドは何個もあってそのどのピラミッドの上にも周りにも白い砂漠の砂を埋め尽くす程の黒い物体。

 何百万ってレベルの話じゃないぞ!?


 「黒い耳、黒い尻尾、獣の顔、そして毛のない真黒い肌......間違いありません、あれがアヌビス族です」

 

 いやー......帰りたい......

 ごめん、有り余る戦力とか言ってたけど舐めてた......

 こんなの一個の国の戦争にたった五人で挑むみたいなもんじゃん......ムリゲー。


 「だが、やらなければならない、引き返すにも帰りかたが私達には解っていないからな」


 「キールさんの言う通りです、このために準備もしてきたんですから」


 「......クルッポー」


 「それと、これをどうぞ、アオイさん」


 「これは?」


 俺が見るからに恐縮して居たのを見てかどうかユキさんが魔皮紙からひょうたん型の水筒をくれた。


 「一気に飲んでください、落ち着きますよ」


 「?、うん」


 俺は受け取って中の液を一気に飲む。


 これは......お酒!?


 「あ、あのこれ」


 「いいから飲んでください」


 「解った......ん......ん......」


 ひょうたんなので吸い付くように飲む......飲む......


 「ぷはっ............」


 「落ち着きましたか?滅多に手に入らないレア物の不思議な液体です」


 「解ってるねぇ、ユキさん」


 ふへ......気がつくとさっきまでの不安や恐怖が無くなっていた......つまり


 「完璧だよ」


 「不思議な液体だったですよね?」


 「うん!不思議な液体だね♪」


 「では行きますよみなさん......開戦です。」


  

 


 「......クルッポー」


 「了解した」


 「はーい」


 「うん!」




 さぁ!二人目の魔王攻略戦!

 開戦じゃぁぁぁあごらぁぁぁあ!!!




 

 

 

  

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