第379話 ワガママ
《馬車置場》
「なるほど、そう言うことでしたか」
あれからユキさんに事情を説明してユキさんからも現状を説明してもらった。
「そそ、だからユキさんの所に来たんだけど」
「任せてください、元々我々のパーティーだけでも行く予定でした、そこに勇者がもう一人と国の代表騎士までいるなんて勝つ確率がかなりあがります」
ん?確率があがる?
「僕としてはありあまる戦力かと思ったんだけど......」
「そうですね、普通の人間相手ならこれだけの戦力で大丈夫でしょう、ですが相手は魔王。彼らを倒せるのはあなた達、勇者しか太刀打ちできないのです」
「う......」
そう言われると責任重いなぁ、アニメとかだと主人公が覚悟とか決めるんだろうけど実際の勇者の圧って半端ない......
「だからまずヒロユキさんの身体を元に戻すところからですね」
「その件なんだけど、何かあるかな?」
「はい、ヒロユキさんとその子供が乗らされた天秤、あれを壊せばみんな元通りになるかもしれません」
「なるほど、でも壊しても身体が戻らなかったら一生そのままなんじゃ......」
「......クルッポー」
「大丈夫です、出所は言えませんが私には確信があります」
「そ、そう?」
「はい!それでヒロユキさん達が言ってた魔王の能力ですが......【重力操作】で間違いないでしょう」
「重力操作としても人間には作用しないんじゃ」
「魔法だとそうですね」
「魔法だと?」
「アオイさんも体験したことあるんじゃないですか?魔王がそれぞれ持つ魔王の能力を」
「............そうだね」
確かに思い出すと俺の戦った魔王も何か能力を使っていた。
あの時、俺以外の世界が止まっていた......【時間停止】そんなチートみたいな能力を他の魔王も使えるとしたら。
「......クルッポー」
「その能力をどうにかする話なのですが、今回は本当に運がいい......というかそれも神の導きとやらですかね、代表騎士のキールさんが居ると聞きましたが......どちらへ?おトイレですか?」
「あ、キールさんなら用事があるから後でここに来るって言ってたから今はここに居な」
「遅れて申し訳ない、今来ました」
い。まで言おうとしたところで本当にちょうどよくキールさんが馬車置き場に来た......アニメかよ!
「あ、いえ、ほんとに今ちょうどキールさんの話をしていました、此方がヒロユキくんのパーティーのユキさんです」
「久しぶり、ユキさん」
「お久しぶりです、キールさん......お酒は飲めるようになりましたか?」
「フフッ、少々だけだ」
初対面ではないのは解ってたけどなんだろ、こう言うのを見ると今勇者のパーティー間で初対面がいるのって俺だけ?
「ゴ、ゴホン......そういや説明しなくても二人とも知ってたね、それでユキさん、能力の話なんだけど」
それを言うとキールさんが聞き返してくる。
「能力?」
「あ、キールさんには新情報と言うか改めて予想があってた感じですが、どうやら魔王は対象の重力を操るみたいです......それでユキさんが」
「キールさんの【目撃護】なら何とかなりますよね?」
え?キールさんも目撃系統使えるの?流石国の代表......勇者じゃなくて使えるのって本当にすごいことって言うのは習ってたし、みんなからしたらほぼ伝説の技に等しかったのに......
しかし、キールさんはユキさんの言葉に驚いた。
「どうして私が使えることを知ってるんだ」
「あ、えーっとあの......えと」
ユキさんは焦り出して何かを考えてそして
「ルコサさんと私は知り合い......と言うか変な関係でその時に聞きました」
oh......ここに来て知らない人の名前。
そして変な関係って......まさか愛人!?
こんな中学生くらいの子なのにそのルコサって人はロリコン過ぎないか!?
「そ、そうか......アイツか......」
「はい......アイツです......」
キールさんも知ってる人っぽくて苦虫を噛んだ様な顔をしながら納得して少し気まずい雰囲気が流れる。
えーっと、つまり、キールさんの知ってる人でルコサさんって言う人が居て。
そのルコサさんはユキさんの愛人と言うか変な関係で秘密にしてて。
キールさんの秘密をユキさんに話してるってこと?
それで今キールさんはその人の変な関係の人がヒロユキのパーティーメンバーの知り合いだったって知った......うわ!めっちゃ気まずいじゃん!そりゃこうなる!
「え、えと、その話は置いといてキールさんの【目撃護】?で魔王の能力に対抗しようってことで良いかな?ユキさん」
「は、はい、改めて出来ますか?」
「私の【目撃護】は自分で出すときは魔力をかなり消費するからタイムリミットがある、それで良いなら君達に受けるダメージを全て無効にすることが出来る。つまりイエスです」
わぁ、すごい解る。
俺も【目撃縛】は自分から出せなくてふとしたときに感覚が来るんだよな......わかりみが深い......ってあれ?
「自分で発動出来るんですか?【目撃】を」
「あぁ、出来ますよ、アオイさん」
すげええええぇ!この人それなら勇者よりもう強くない?魔王討伐この人でいいじゃん?
「そう言うことで、能力は解決、後はこれから行く場所ですがヒロユキさんや私達が居た食事場に行きましょう、ここに今回の魔族であるアヌビス族が居ます」
「わんわんお......」
「?、何か言いましたか?アオイさん」
「あ、いや、何でもないよ続けてユキさん」
あぶね、心の声が出てた。
「作戦なんですが、それは馬車の中で話します、それと必要なものも馬車でお互いに転送させて魔皮紙を補充しときましょう」
「うん、わかった」
「了解しました」
「......クルッポー」
ユキさんが仕切ってからは話がどんどん進む、それほどこの子はしっかりしてるのだろう、ヒロユキがこんなになってもちゃんと情報もあつめてどう動くか考えている。
ヒロユキ......我が弟ながらいい相棒を持ったな......ルコサって人と変な関係らしいけど......
「くぁ!」
「ユキちゃんもついてくるの?」
「くぁ!」
話が終わった頃にみんな動き出したので寝ていたユキちゃんとあーたんさんは気配を察して起きる。
あー......手続きは終わってたからユキちゃんはここに居て欲しかったんだけど......まさか起きるとは......
「えーっと......」
「くぁ?」
仕方ない、ここは心を鬼にして言うぞ!
「ユキちゃん、今回は本当に危険だからここに居てほしいんだよね」
「くぁ......」
ユキちゃんは寂しそうな顔をして此方を見つめてくる。
「大丈夫!きっと帰ってくるから!ね?」
「くぁ........................くぁ......」
「ユ、ユキちゃん?」
ユキちゃんは低く鳴いた後に何かを決心したように俺の横を通りすぎて馬車の入り口に乗って此方を見て鳴く。
「ユキちゃん......」
「くぁ!くぁ!」
「んぅ?わかったー!」
ユキちゃんはあーたんさんに此方を見ながら何かを言ったのか馬車の引くところにいたあーたんさんが話し出す。
「くぁ!くぁ!(前もそういっておかぁさんはユキから離れていった!)」
う......前、と言うのは俺がアバレーで龍牙道場に行く前にユキちゃんと別れたあの日だろう。
あれから次に起きたときには何年か経っていた。
「くぁー......くぁくぁ!くぁくぁくぁくぁくぁ!(さびしかった......さびしくてさびしくてでも我慢した!それでやっとあえた!おかぁさんに!)」
「う、うん......そうだね、ごめんね......」
謝るしかできない......アバレーで冒険者をしてた時も忘れた事は無かった。
だけど、会うのが恐くて行けなかったのだ、こう言われるのも解ってて......何より、俺の中の女性恐怖症がユキちゃんに反応してしまう事が恐くて一歩踏み出せずにいた。
今回会ったのもたまたまだが、その心配が頭から離れたことは無かった。
ユキちゃんも話さないから忘れてくれてるかと思ったけど、覚えていたんだ......
「くーぁ......くぁ!(だから絶対にユキはついていく!なにを言われてもついていく!)」
「............」
俺は黙ってしまった。
キールさんも娘の決心にどう声をかけたらいいか解らなくて黙っていてヒロユキもどう言うか俺の出方を見てるみたいだ。
しかし、その静寂は意外な人物に絶ちきられた。
「何ですか?それ?」
苛立ちまじりの口調で話したのは何も関係ないはずのユキさんだった。
「くぁ?」
「あなた、本当にそんなワガママが許されると思ってるんですか!」
ユキさんはここ一番大きい声で怒鳴り付ける。
「くぁ!?」
「解らないんですか?あなたの今してる行動でここに居るみんなを困らせてることに!」
「く、くぁ!くぁ......くぁ!(う、うるさい、ユキは......ユキは!)」
「そうやっていつもいつも周りに迷惑をかけて、ふざけるのも大概にしてください!」
本当にユキさんが何故かヒートアップしてるので止めないと!
「あ、あのユキさん?」
「アオイさんは黙っててください!」
「は、はいぃ!」
やめてくれよぉ......女性恐怖症の俺は女子から怒鳴られると不快感より恐怖が来るんだよ......
黙っとこ......恐い。
俺が言われたのを見て、キールさんやヒロユキもその圧に驚いていた。
さらにあーたんもこれ以上ヒートアップさせないように翻訳するのをやめて黙ってしまった。
「くぁ!」
「おかぁさんをいじめるな!そう言ってるんですよね?本当にその意見も自分勝手!これもあなたが原因を作り出したんですよ!解ってますか?」
「く......」
「良いですか?ハッキリ言います。あなたが居たらそれだけで邪魔なんですよ、何もできなくて迷惑だけかける人が!」
「くぁ!」
「邪魔ですよ!隅っこに居ても遠くから見ていてもあなたは邪魔!邪魔邪魔邪魔邪魔!」
「くぁ!くぁー!」
ユキちゃんがたまらず馬車から勢いよくユキさんにベルドリの足で攻撃しようとした。
だけどそんなものはここにいる誰もが予想していた通りユキさんに軽く避けられいなされる。
「く、くぁ」
「痛いですか?泣きそうですか?わかりますか?あなたはなーーーーーんにも出来ない弱い人間なんです!」
なぜかユキさんは怒鳴りながら涙を流す。
「あなたは自分の行動を考えた事がありますか!自分の行動によって親友を失い!自分の行動のせいで仲間をピンチに導き!自分の代わりに身体をズタズタにされる好きな人!おかぁさんに甘えて!お父さんに甘やかされ!挙げ句の果てには自分一人だけ生きている!それもこれも全部全部全部全部全部全部全部全部弱いからです!」
「く、くぁ!」
「いいえ!あなたは弱いんです!だからここに居てせめてみんなを困らせないで......」
「くぁ!?く......ぁ......」
最後にユキさんは同じ名前であるユキちゃんを眠らせた。
その姿は苦しく泣いていた......
「............」
「............」
「............」
「............クルッポー」
ヒロユキはみんなが黙ってる中、ひとこと鳴いてあーたんさんの横に行く。
翻訳しなくても解る「行こう」と行ったのだ。
そのまま何も言わずに俺たちはユキちゃんを置いて馬車に乗るとゆっくりと動き出す。
「............」
「............」
「すまなかった」
キールさんが沈黙を破って謝ると、俺と反対側に座って外を見ていたユキさんが応える。
「どうしてキールさんが謝るんですか」
「本来、ああ言うことを言うのは父である私の役目、それをユキさんが」
「それなら気にしないでくださいあなたの娘さんはきっと大丈夫です」
「どうしてそう言い切れるのですか?」
「他でもない、あなたの娘だからです......そして......」
ユキさんは窓から目を此方に向けて見てくる。
「?」
「いえ、何でもありません......さ!時間はありません作戦は私が考えました、後は必要な魔皮紙を補充しながら話します!」
「うん、解った」
「了解した」
確かに心を切り換えないと行けない。
俺達と魔王【メイト】との勝負はまだ始まってもいないのだから。
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