第375話  眠れない夜の【来訪者』

 あたりも静まり返り深夜2時。


 小さな虫達の声を聞きながらキールは棚においてあった魔写真を取ってそれを見て呟く......


 「もう少しだからな......エリコ」


 魔写真にはキール、エリコ......そしてまだ赤ん坊の自分の娘の姿が写ってる。


 「......」


 あれからアオイ達と会議をして明日の朝出発することを決めた後、キールは自分の家に帰ったのだ。


 「結局、リフォーム前で無事だったのはこの魔写真だけか......」


 キールはその写真を縁からだして折り畳みポケットにいれる。

 

 「............」


 準備も終わり後は寝るだけだがどうも寝付けない。

 キールは家のドアを開けて家の前の地面に座り【光源】の魔皮紙に魔力を通して夜中の静けさに響く音を聞きながら何も考えずに光を見る。


 「こうしてると、昔を思い出して落ち着くな」


 クローバー村は最近大きくなった村とは言えまだまだ開発途中、人口も少なく明かりがある建物は24時間開いてるギルドだけだ。

 

 「......」


 ......



 ......











 ......










 何もせず、時間だけが過ぎていく。







 ......







 「......?」









 ふと、暗闇の奥の方から人の気配を感じた。

 そう珍しいものでもない、依頼を終わらせた冒険者がたまたま通りかかっただけだろう、気配を消す様子もなく白い狐の仮面を付けた【そいつ』はただ普通に歩いて来た。




 「キールさん、眠れないんですか?」


 美しく透き通った音色のような女の声は優しくキールに話しかける。


 「......」


 「【私』もなんです......隣、失礼しますね」


 「......」


 その美女はお尻が汚れるのも気にせずキールの隣にピッタリくっついて座る。

 外気温は低いがお互いに装備を来てるので常温に調節されてる、だからくっつく必要もない。


 「それにしても本当に助かります、キールさん程のお強い人が一緒にいってくれるなんて」


 「......いえいえ、そんな【勇者】のあなたに言われるなんて此方こそ光栄です」


 キールはニッコリとして答える。

 褒められて嬉しそうに。


 「そんな事ないですよ、キールさんのこの鍛え上げられた肉体、素敵です」


 アオイはキールの腕を掴んで自分の胸に挟まらせ褒める。


 「......」


 「ところで、どうしてこんなことしてるんですか?」


 そのままアオイはキールに寄りかかり一緒にフワフワ浮いてる【光源】を仮面越しに見つめる。

 

 「こうすると思い出すんです、昔、親友達とパーティーで依頼に行ってた時の事を」


 「......へぇ」


 「精神統一とは違いますがね」


 「本当に仲が良かったんですね、惚れ惚れしちゃう」


 「えぇ......本当に」


 「......」


 「......」


 二人で光を見つめる......端から見るとラブラブな夫婦のように......

 そしてキールは次の言葉を重く、殺気を込めて、聞こえるようにゆっくりと放った。
























 「貴様が【アオイ』か。」















 【ありゃ?バレちゃってた?』








 アオイはキールを離して立ち上がり仮面を取った。

 仮面の下は黒く、下品だがそれすらも美しく感じる笑顔がキールを見る。


 【キャハッ!初めまして、国の代表騎士キール様♪わたくしアオイと申します♪いぇい』


 キールの前でクルッとまわって最後はピースにウィンクをして美しく下品で可愛い笑顔でキールに自己紹介をした。


 「ご託はいい、何の様だ」


 【私からはいつから気付いてたのか知りたいんだけどなぁ?わざわざ普通に来たのに』


 「話す気はない、消えろ」


 【えー?ひどくないー?どうせその様子じゃ知ってるんでしょ色々と』


 「そういうお前も知ってるみたいな口調だな」


 【もちろん♪ちゃ~~~~んと【話を見ました】』


 「チッ、それで?」


 【もぅ、あれって『お母さん』がしたことだから私関係ないのにぃ............そういやあなたの娘がなんで私の事をおかぁさんって言ってるの気にならない?聞きたい?聞きたい?』


 「......」  


 キールが【光源】を閉まったので光がなくなり、そして周りが冷気に包まれ始める。

 

 【はぁ、解った。解ったからその変な力ここで使わないでよね?......今回ちょっとぉ♪お願いをしに来たのよ♪』


 「ほぅ?」


 キールは興味を持ったのでもう少し話を聞くことにした。


 「そんなもの、いつものように『呪い』をかければいいだろう」


 【ま、そうなんだけどねぇ、こっちもこっちで色々あるんだよねぇ♪だから~アオイちゃんからのお、ね、が、いよ♪』


 甘い声で投げキッスを【アオイ』はキールに飛ばす。


 「どこまでもふざけたやつだ、私が貴様のお願いとやらを聞くわけないだろう」


 【だよねぇ♪う~ん、じゃぁこう言うのはどう?このお願いを聞かなかったらあなたの娘は大好きな大好きなおかぁさんから腕二本と足の二本を痛く痛くへし折られそのまま切断してそれから』


 「」


 【ほいさ♪』


 話の途中だが沸点を超えたキールが目にも止まらぬ早さで【アオイ』の首を氷の剣で本気で切り落としにかかったが、あっさりと二本のか弱い指の間に挟まれ止まった。


 【すごいでしょ?【白刃取り】って言うんだって?魔力も使わない技ってやつ?普通なら天才が何十年も努力に努力を重ねて習得に時間のかかるこの技だけど【勇者】の力って本当にすごいよねぇ♪それを見てイメージするだけで一瞬で出来ちゃう!それにその先を編み出すのも勇者の力♪』


 パキッと乾いた音が一瞬鳴るとキールの氷の剣は真っ二つに折れてしまった。

 

 「......」

 

 しかし一瞬でまたキールの手に氷の剣が復元される。


 【なるほどねぇ♪それ【武器召喚】で出した神の武器でしょ?他にも何か能力隠してるみたいだけどまぁ話を聞いててね♪』


 「......」


 【お願い聞いてくれなかったらさっき話したみたいに娘がすごーいことになるよ?でもお願い聞いてくれたらこれから先、私達はあの子にひどいことしないし寧ろピンチになりそうなところを見たら助けちゃう♪どう?悪くないでしょ?』


 「..................」


 キールは「またか」と思う。

 この状況、まさに同じ状況を前にも作られたのだ。

 

 「貴様は信用できん」


 【そういうと思って♪信用させちゃう♪』


 アオイは天を仰ぎ見て【話しかける】





 





ーーーーーーーーーーーーーーーー

 ねぇ、神様、見てるんでしょ?

 神に誓って約束します♪ 

ーーーーーーーーーーーーーーーー







 キールの目の前に【神からの魔法陣】が現れ。









 契約が成立した。






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