第374話 情報提供、そして

 「た、ただいまー......」


 「アオイ様ーおかえ......あれ?キール?」  

 買い物を終わらせて帰ると喋る大きな兎がお迎えしてくれた......ちなみに女の子の姿になられると嫌なのでこの姿のままでって頼んだらすごく恐がられながら「は、はい、わかりました」って言って言うこと聞いてくれたんだけど、俺そんなに恐がられることしたっけな?  


 「久しぶりだな、あーたん」  


 「うん!久しぶりー!」  


 「くぁー......くぁ!」

 

 「ん?なになにー?」  


 ユキがあーたんに話しかけてる。  


 キールさんの家からユキちゃんがなんかおかしいんだよね、ユキちゃんはキールさんに対して毛を逆立てて威嚇しながら歩いてた......一応あなたの父親みたいなんだけど......  


 「くぁ!くぁくぁ」

 

 「うんうん、わかった!」  

 

 「あーたん、ユキちゃんは何て?」  


 「えとね!「おかぁさんをいじめるなです!おじさん!」って言ってって言われましたー!」  

 「へ?」  


 いじめ?そんなこと......あ!もしかしてあの時、緊張で震えてたり肩掴まれたりコーヒーこぼしたりしてたの見てて勘違いした?  


 「お、おじさん......」  


 うわ、キールさんに大ダメージ入ってる......    

 「ユキちゃん僕は大丈夫だよ?」  


 「くぁー!くぁ!」


 「「おかぁさんは優しいですから!それとこのおじさんは近くにいると変な気持ちになって嫌になるから嫌です!」っだってー」


 「い、嫌......って」


 やめて!もうキールさんのライフは0よ!

 というか、実の父親なのにすごい嫌われようだな......これは真実を言うのはゆっくりしていった方がいいかな......


 「と、とにかく、キールさんに失礼な態度はだめだよ?めっ!」


 「くぁ......」


 今までより少し強く俺が注意するとユキちゃんは半ば納得がいかない返事で返して大人しくなった。


 「すいません、キールさん」

 

 「いや......気にすることない......それより話を聞こう」


 「はい」


 さっきとは逆に今度はこっちがコーヒーを準備し、イスに座ったキールに出し、ユキちゃんとあーたんにはミルクギューのミルクを底の深いお皿に入れてあげた。


 「まず、ユキちゃんと同じでここで怪我をして寝ている黒いベルドリはヒロユキくんです」


 「ふむ......そうか、ならまずは彼を起こさないとな」


 「?、どうして?」


 「私からも話があるからね、二人に聞いてもらった方がいい」


 そういってキールは魔皮紙を取り出してヒロユキに近づく。


 「一応、治療用の魔皮紙で回復してる最中ですけど......」


 俺の結構なお金を持っていった渾身の魔皮紙だ、どんな傷でも1日あれば完璧にビンビンに治るって言う優れもの!

  

 「私の持ってるこれの方が早い」


 「へ?」


 え?何そのボロボロな魔皮紙......って!?まじかよ......

  

 「......クルッポー」


 「い、一瞬で!?」


 「これで大丈夫だろう、さて、話を続けてくれ」


 「いやいや!待ってください!?なんですかそれ!?いいいい一瞬!?そんな魔法みたいな!」


 「如何にも魔法だが......口の悪い親友が治癒専門でな、個人的に作ってくれたんだ」


 「そんな!チートもチート!チーターや!」


 「くぁ!くぁ!」


 ユキちゃんは俺が声を荒げると加勢するように鳴く。


 「どうしたと言うんだ?アオイさんはもう少し落ち着きがある女性のイメージだったが......」


 「うぐ......」


 だ、だって!こちとら汗水垂らしてショーケース越しによだれ滴ながら買ったものを全否定されれば誰でも騒ぐよ!くそぅ!


 「くぁ!くぁー!くぁ!」


 まぁでも話し合いをしないと時間もないしな......

 

 「ユキちゃんごめん、落ち着いて、なんでもないから」


 「くぁ?」


 「うん、大丈夫......ちょっと取り乱しただけ......」


 「......クルッポー」


 「ヒロユキくんも何でここにキールさんが?ってなってるかもしれないけどちょっと聞いててね」


 キールさんはイスに座り直してコーヒーを飲む。


 「まず僕達の第一目標だけどユキちゃんとヒロユキくんの身体を元に戻すこと」


 「うむ」


 「......クルッポー」


 「それには魔王と戦わなければいけないみたいなんですけど......」


 俺はキールさんの方をチラッと見るがキールさんは【魔王】が居ると言う事に特に驚いた様子もなかった。

 ふむ、やっぱりリュウトくんの言ってた通り、お城の人達には話が通ってるみたいだな。


 「まずはその魔王の情報を共有しようと思うんですよ」


 「......クルッポー」


 「ヒロユキくんの喋ってることに関してはあーたんちゃんよろしく」


 「はーい」


 「私も知っていることを話そう」


 「まずは僕から行くね、と言っても僕の情報源はこの人なんだけど」


 俺はヒロユキのベッドの奥にいたぐるぐるまきにしてるヒロユキ(仮)の顔の部分だけ糸をとった。

 

 「これは!」


 「......クルッポー」


 「うん、これは正真正銘本物のヒロユキくんの身体で今は魔法で眠らせてるけど中には今回の魔王の幹部、確か【ヌルス】って名前の魔族が入ってるんだ」

 

 「確かアオイさんは【入れ換わってる】と言ってたな......そういうことか」


 キールさんはその説明だけで色々と理解してくれたようだ。

 うんうん、話が早くて助かる。


 「そこで僕は【魅了』を使って色々聞き出したんだけど」


 「【魅了』で?」


 「え?はい......どうしました?」


 「い、いや何でも無いんだ話を続けてくれ」


 キールさんは「もうそこまで力を......」と少し呟いていたが俺は気にせず話を進めた。


 「どうやら、彼らの拠点はかなり遠い所にあるみたいなんだ、確か名前を【ライブラグス】と言ってました」


 「【ライブラグス】、聞いたことないな......だがそれぞれ報告にあった【ジェミラード】【スコーピオル】【キャンサーコロッセス】と同じように魔族や魔物が住んでいる場所か」


 「はい、そして魔王の名前は【メイト】と言ってました」


 「......クルッポー」


 「肝心なそこへの行き方ですがどうやら彼らはミクラル王国の人に溶け込んで標的を転移させてるみたいなんですよ、僕が【ヌルス】はどうやって転移させるか聞いてみましたがどうやら彼は幹部なのでそういう下っぱのする仕事は受け持ってないらしく、用があるときは部下の方からヌルスにコンタクトしてくるみたいです」


 「つまり、行き方が不明か」


 「はい......ただ自分と入れ換わってる身体の事は全員把握できるみたいで今回ヒロユキくんはそれで見つけました、その時に一緒にユキちゃんが居たって感じですね」


 「......クルッポー」


 「くぁ!」


 「その他には【人魚】の事を知ってたり」


 「【人魚】?確かそれはリュウトが」


 「はい、僕はその......冒険者としてアバレーに住んでてリュウトくんの噂を聞いて見つけて......その時はリュウトくんとヌルスが戦っていたんです」


 「......クルッポー......」


 「なるほど、それがメイトの狙いだったのか、部下を勇者の身体に入れて勇者と戦わせ、最悪どちらが死んでも結果的に魔王が有利になると」


 そ、そうだったんだ......俺普通に現状を伝えただけだったんだけど。

 

 「それとリュウトくんからヒロユキくんに伝言を預かってるよ、「そっちは任せたからこっちは任せろ」ってね」


 「......クルッポー」


 「青春だな、ヒロユキ殿とリュウトは」


 青春?青春なのか?俺の知ってる青春とはかなりかけ離れてる気が......異世界ジョークかな?


 「それともう一人からも伝言を......」


 「もう一人?リュウトのパーティーの人からですか?アオイさん」

 

 「いや、ジュンパクさんからですね」


 「ジュンパク殿?どうして」


 「ヌルスに付いてきてたみたいです、えと「アニキ!リュウトの坊主と久しぶりに大海原にいってくるね!もし無事に帰ったら結婚して!」って言ってたけど......どういう関係?」


 「......クルッポー......」


 「大海原とは?」


 「どうやら、【人魚】の拠点、【アトランティスク】は遥か海の底にあるようなんですよ、それで入り口に心当たりがあるジュンパクさんが残ったみたいです」


 「ふむ、そうですか......」


 「それで、逆に魔物の言葉が解るって言うあーたんちゃんが此方に来たってわけです」


 「えっへん!マスターのため!あーたんえらい!」


 「なるほど」


 「僕からはこれくらいかな、次にヒロユキくん頼んでいい?」


 「......クルッポー」


 「えとね、「わかった」って!」


 「うん、あーたんも少し長くなるかもだけど通訳よろしくね?」


 「はいー!」


 「......クルッポー(俺はミクラル王国の国王に呼ばれてみんなの話を聞いた後、久しぶりに店でみんなで何か食べようとユキが提案したので付いていった)」


 「うん」


 あれ?珍しいな?確か我が弟はお酒に弱いはず。


 「......クルッポー(その時に酔ってしまってその場で寝込んでた)」


 うん、やっぱりね、相変わらずで安心したよ。


 「......クルッポー(そして目が覚めたら見知らぬ砂漠の土地に居た)」


 「砂漠の土地って言うのがヌルスの言ってた【ライブラグス】ってとこかな?」


 「......クルッポー(たぶんそう、そのまま道なりに真っ直ぐ行ってたら途中でこのユキに会ってまた道なり進んでいたら大きなピラミッドがあった)」


 「へぇ、砂漠にピラミッドねぇ」


 「ピラミッド?なんだいそれは?」


 キールさんは初めて聞く単語って感じで聞いてきた、確かにピラミッドは謎が多いって言うし元々居た世界だけのものなのかな?


 「えとですね、ピラミッドって言うのはこういう形の石を積み重ねて大きな四角すいの建物で」


 なんとかジェスチャーを交えて説明したらなんとなく理解してくれた。


 「......クルッポー......(そこで俺は【メイト】と対戦した、その結果......)」


 その先は言わなくても今の姿を見ればわかった、だが俺達が聞きたいのはそれじゃない。


 「うん、負けたんだね?ボロボロに」


 「......」


 「だけど、そんなの気にしなくていいよ、生きていれば次にチャンスは来るし、大事なのは次にどうするか......男なら負けたときの事は考えないものだぞってねハハ」


 「......クルッポー!?(その言葉は!?)」


 「?、え?なに?」


 「......クルッポー(なんでもない)」


 「そう?ところでメイトはどんな攻撃をしてた?そこら辺によって対策が変わってくるかもしれないし使う魔皮紙が揃えれるかもしれないから」


 ヒロユキはそれを聞くと少し考えて鳴き出す。

 ところであーたんがさっきから訳してくれてるけどその鳩みたいな鳴き声一つにそんなに意味込められてるのほんとかよ......魔物の言葉って分からぬ。


 「......クルッポー(確か奴に俺は浮かせられてそのまま手も足もでなかった)」


 「浮かせられた......うーん、それは厄介かもね」


 物を浮かせて動かす機能なら今の俺の装備にも含まれてる、といってもその機能には限界荷重があって自分より重いものだと途端に魔力消費が激しくなるもので、普通の人間だと自分の体重の2倍で魔力切れを起こす。

 なにより、その魔法は人間には効かないようになっているのだ。


 例えば人間を倉庫に閉じ込めてその魔法で運ぼうとしても魔法が人間を感知して動かない、これは意図的ではなくこの魔法の特徴らしい。


 だから魔王がヒロユキを浮かせたのは


 「何かの能力......かな?」


 「......クルッポー(わからない、後はこの姿になって生きるのに必死だった)」


 「うん、わかった、あーたんも長々とありがとね?」


 「はいー!あーたん頑張ったから食べないでくださいね」


 「僕をなんと思ってるんだろ......」


 ちなみにユキちゃんは話が長くつまらないのかもう寝ていた。

 外も暗くなっていて窓には俺のだいっきらいな女の顔が写ってる。

 さて、と......ここまで話して一番今日俺が頑張らないと行けないところが来たな......


 「キールさん」


 「?」


 俺はキールさんの前まで行き土下座する。

 サラサラと長い邪魔な髪が重力で下に落ちる感覚がしてアバレーで奴隷ディーラーしていた頃を思い出す。

 あの時は本心からの土下座じゃなかったけど今回は本心だ。


 俺は心の底から言葉を出す。

 






 「僕たちと一緒に魔王を倒しに行ってくれませんか!」






 そう、パーティー勧誘だ。

 正直リュウト君にも付いてきて欲しかった、心細い、自分一人で倒せるか不安で不安で仕方ない。

 この前こそ魔王を一人倒したがあれも今考えるとたまたまが重なって倒したようなものと言うか怒りでもうどうにでもなれ死ぬなら死んでやる!ただ俺が死ぬならお前も道連れだ!って感じだった。

 

 でも今回で色々知ってしまい詰まるところ死なずに魔王を倒さなければいけない。

 今までとは勝手が違うのだ、知ってしまった以上慎重に行かなければならない......何よりみんなが生きてることを知って沸々と出てきたこの感情。



 死にたくないという【恐怖』。



 死ねばみんなに会える。

 から

 死んだらみんなと会えなくなる。



 になってしまったのだ、だから少しでも勝てるのなら!

 この目の前にいる最高戦力を逃したくない!

 もしも断られるなら【魅了』を使う覚悟もしていた。

 だがあの魔法は1モーション必ず挟むのだ、そのモーションをこの人は見逃すわけがない......だからこそ!頼むしかない!



 「頭をあげてください、アオイさん」


 「......」


 俺は頭をあげない、良い返事を聞くまではこのおでこをあげない!


 しかし、俺の心配は杞憂に終わった。










 「私からの話というのは君達のパーティーに入れてくれという話だったのだから」












 こうして、グリードの最高騎士キールが一時的に魔王メイト討伐パーティーに加わった。















 「よかったぁ......」









 






 

 



 


 


 

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