第373話 夫婦

 【これは、アオイ達勇者が召喚される前の話】


 《クバル村》


 まだ日も出てきて間もない頃、彼女は目を覚ます。


 「ん。」

 

 肩までの金髪の髪は寝癖でボサボサになっていて寝ぼけ眼になりながらもフラフラと歩いていき家の壁にあるスイッチに魔力を通す。


 すると家の窓のカーテンが全て自動で開き朝日が入ってきて家の中を明るくする。


 「ふぁ~あ......にゃむにゃむにゃむ......起きないと」


 彼女......エリコは洗面台で顔を洗い台所へ向かう。


 「よし!今日は気合いをいれなきゃね♪なんたって今日は」


 魔法カレンダーには今日の日付の所にマーカーがあるのをまた確認する。

 エリコはその日を何度も何度何日も何日も前から確認していた。


 「キールが帰ってくる日だからね♪」


 そう、今日はキールが休暇で帰ってくる日、エリコは楽しみで楽しみで楽しみで仕方なかった。


 「ふん♪ふふーん♪」


 鼻唄混じりに着替えをすませてまだぐっすり寝ている娘のユキを置いて家を出る。


 「おはようございます♪」


 「おはよう、エリコさん」


 近くに住んでいるおじさんは朝早くから起きて屋根に登り積もった雪を魔法で掻き出してる。

 

 「おはようじゃ、エリコさん」


 「おはよう神父さん♪」


 少し歩くと神父のおじいさんも朝早くから教会の前で掃除をしている。


 「やぁ、おはよーエリコ」


 「おはよう♪ルコサ♪」

 

 また少し歩いてると最近来ているルコサも居た、珍しく早起きをしている。


 「どこにいくんだい?」


 「ふふ、今日はあの人が帰ってくるのよ♪るんるん♪」


 「あの人?あぁ、キー君か今日なんだ?」


 「そうよ♪ルコサも会う?」


 「うーん、やめとくよ、まだその時じゃないし」


 ルコサはそう言いながら片手をフリフリさせて教会の方に歩いていった。


 「その時じゃない?あの人はホントに不思議な人だなぁ」


 エリコはそのまま気にせず新鮮な『ウーリーシャーク』を買いにるんるんと雪道をスキップしていくのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「ゴホン......ただいま」


 「!、おかえり!キール!」

 

 キールがドアを開けて声を出すとその声に反応したエリコがすぐに来てキールに抱きつく。


 「おかえり!おかえりおかえり!キール!」


 「あぁ!元気にしてたか?」


 「えへへ、してたよー!」


 キールが頭を撫でるとエリコは本当に嬉しそうにしてスリスリとキールに甘える。


 「はぁ、キールの匂いだぁ」


 「汗臭くないといいが......」


 「キールの匂いは汗もいい匂い!スンスン」


 「あ、はは......」


 もちろん、キールもちゃんと帰る前に入念に魔法で匂い消しなど行っているが、体臭というのは全部消えることはない。


 「んーチュッ」


 「ん!?」


 「えへへ、いきなりだからびっくりしたかな?キスしちゃった」


 「そそそそそういうことはよよよよよるだけにしろ......」


 「フフ、軽くキスしただけじゃん?それとも何かなー?もうそんな気に?」


 「う、うるさい!」


 「キールったら顔真っ赤ねぇかわい♪ほらほら入って!改めておかえり」


 「う.....た、ただいま。エリコ」


 キールが家に入ると扉が魔法で勝手に閉まり部屋が暖かくなる。


 「エリコじゃないが懐かしい匂いだな」

 

 家の懐かしい匂いに浸りながらキールはまず第一に向かった場所、それは。


 「ただいま、ユキ」


 産まれたばかりの自分の娘の場所だった。

 

 「ぐっすり寝てるでしょ?起きるまでまだ触っちゃだめよ?その赤ちゃんベッドは中からの声と音は聞こえるけど外からの音と声は遮断してるから、触ったらびっくりしちゃって起きちゃう」


 「残念だ」 


 「そんなに残念がる事じゃないでしょ?だって今日は1日居るんだから♪」


 「そうだな、声が聞けるのを楽しみにしてるよ」

  

 「そうそう♪じゃぁ一緒にごはん食べましょ?私、がんばりました」


 「久しぶりだな、エリコの美味しい料理は」


 キールとエリコは楽しい話をしながら料理を食べる。

 途中でユキが起きてしまい泣き出したのすら娘の元気な泣き声を聞けて幸せを感じる。






 幸せな時間。

 幸せな日常。






 今のキールにはもう一生帰ってこない時間。

 




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