第372話 親娘


 「......」


 「......」


 キールはアオイを家の中に入れて部屋を暖かくし、コーヒーを二つ入れてアオイの前に出す。

 アオイは仮面をとっていて美しく可愛い顔が剥き出しの状態である。


 「あ、ありがとうございます」

 

 「遠慮せずに......それにしてもビックリしたよ、消息不明の人が私の家の前に居たとは」


 アオイはキールの前で緊張してコーヒーが喉を通らなかった......なぜなら


 「ま、まさかキールさんにまた会えると思いませんでしたたたたた」


 「コーヒーが溢れてますよ」


 冒険者の事を勉強して、冒険者を職とするアオイからしたら《代表騎士》の肩書きがどれだけすごいか理解しているからである。


 「()」


 「コーヒーにミルクが入ってた方が良かったか?」


 「大丈夫です!自分で出せるので!」


 「......」


 アオイは「ミルクの魔皮紙を持ってきてる」と言う意味だったのだがアオイの心情は穏やかではなかった......


 「あ!いえ!ここここれ!」


 「あぁ、【ミルクギュー】の魔皮紙か、了解した」


 「......」


 「......」


 「話の続きだが、なぜここに?」


 「あ、あの、えと......僕のベルドリが気になってるみたいで」


 「ベルドリ?あぁ、あの子か?」


 相も変わらず窓から此方をみているピンクのベルドリ......心なしか寂しそうな目をしている。

 流石に家に魔物は入れれないとキールは断ったのだ。

 そのままアオイは断れず家の中に招待されたのでさっさと話しておわろうとしてるのだが......


 「(コーヒーなんか出されちゃったよ......めっちゃ話す気じゃん......)」


 「はい......」


 「私の家の中は見ての通り、何もないのだが」


 キールの言う通り、家にあるのは最低限の調理器具や木のイスや机、あとは魔写真などだが、金庫や武器などは無く、一般の家。

 とてもじゃないが《代表騎士》とは思えない家だ。


 「うーん、なんででしょうね?」


 「まぁ、いい、私にとっては幸運の鳥だな......」


 キールはコーヒーを一杯飲んで問う。


 「ユキは......どこにいる?」


 「......え?」


 アオイはその言葉に驚愕する。

  

 「他にも聞きたいことは山ほど君にはあるが、ユキ......私の娘はどこだ?君とアバレーで会ったときに抱いていたあの子だ!」


 「ち!ちょっ!」


 キールは熱くなりアオイの肩をつかみ、アオイは机に置いてたコーヒーをこぼした。


 「......」


 「......」


 コーヒーを入れてたカップがそのまま転がって落ちてカシャンと音をたてる。


 「すまない......私としたことが取り乱した」

 

 「いえ......(ど、どうしよ......素直に言うべきなのかな?一応居るんだけど本人......)」


 キールは魔法でコーヒーの汚れをおとしながら呟く。


 「もっとも......あの子は私の事など覚えてないだろうけどな」


 「え?」


 「私は職業柄、家に帰ることはほとんどなくてね、妻の出産にすら立ち会うこともできなかった」


 「......」


 「それでも、たまに帰ったら妻が明るく迎えてくれて......私はそれだけで幸せだった......いや、それは違うな、私はそう言い聞かせて甘えていた」


 「......」


 「私の妻は......もういない」


 「......」


 「だから、せめて娘だけは......ユキだけは......」


 アオイは覚悟を決めてゆっくりと告げる。


 「ユキちゃんは今......」


 真実を


 「そこにいます」


 アオイは窓の方を指差す。

 その先にはピンクのベルドリがまだ此方をみていた。


 「どういうことだ?」


 「詳しいことは長くなるのですが結果的に言うと【魔王】の力で魂が入れ換わってしまって......あれがユキちゃんです」



 

 アオイは申し訳なさそうに言う......

















 キールの鼓動が早くなる。














 「そ、そんなことが」














 息も荒くなる......今まで自分より何倍も大きく、危険な魔物を前にしても動揺しない国の最強騎士がその一言で。







 








 普通の人が聞いたら「バカな事を言ってる」と足蹴りしただろう、だが既に【神の使徒】として動いているキールはその言葉が本当だと信じれる。


 何より、今この状況でアオイが嘘をつく理由がない。



 つまり



 

 


 



 「ユ、ユキ!ユキ!」



 キールは慌ててドアに向かって走ってバタン!と勢いよくドアを開けた。

 

 そして!


 「くぁ!!」


 「ユ!ぐほぁ!」







 出てきた瞬間思いっきりキールはユキちゃんの鳥足からドロップキックをもらった......








 

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