第345話 出発前に言いたいこと

 《沼地》


 ここはアバレーの近くにある沼地。

 『山亀』が通ったあと、地盤が緩み出来た現在はアバレー管轄の狩り場である。


 「ここに拠点を構えるッチュ」

 

 チュー太郎は馬車から降りて歩いて五分くらいのところでテントを張ろうと言い出した。

 帰りの馬車が迎えに来るのもここなので近くにしたのだろう。


 「(みんな大体そんな感じだから冒険者の中では常識なんだろうな)」


 「ウッシ、はるかぁ」


 「トラララ」


 みんなテントの準備に取りかかろうとするがアオイが止める。


 「え、えと、テント張りとか雑用は僕に任せてください」


 「トラ?いいっていいって一人だとめんどくさいだろ?」


 「いえ、その他にもみなさん武器の手入れとかあると思いますし本当に任せて!」


 「そ、そうトラ?」


 アオイ以外の三人はお言葉に甘えてそれぞれ馬車から武器や装備を取り出していく。

 その間に


 「さて、っと......」


 アオイは指から【糸』を出す。


 「じゃ、頼んだよ」


 その【糸』は宙に浮いてアオイの思った通りに動いてくれる。

 杭に巻き付いて地面に埋めてくれたり。

 テントの中に入り込んで中から押さえてくれたり......

 気がつくとものの五分で立派なテントが完成していた。


 「よし!」


 しばらくして三人が武器と装備を着て出てきた。

 アオイは魔法使いのローブの装備なので最初から着ているが、三人はどうやら鉱石や甲殻類の甲殻から作った装備なので現地で着替えたのだろう。


 「おかえりなさい」


 「おー、本当に出来てるトララ」


 「噂通りッチュね」


 「ウッシ、妖精をあやつるって噂だったが本当だったのか」


 それぞれが予想以上にはやい仕事っぷりに感想を言う。


 「そういや、妖精って?」


 「ウッシ、小さな人間の形をして虫の羽で飛ぶ大昔の生き物ウッシ、でも性格は凶暴で群れで人間を襲ってその歯でゆっくりかみちぎられていくとか......」


 「こ、こわいね......それを僕が操ってるの?」


 「例えウッシ、そういう噂ウッシ」


 「(俺の元いた世界の妖精とかなり違うなぁ)」


 「まぁそんな事はいいっチュこれならすぐに出発できるッチュね、後は荷物とかを馬車から......」


 「あ、それもやっておきましたよー」


 「!?」


 三人は今出てきたばかりの馬車に急いで戻ると馬車に置いてきたはずの魔皮紙や回復瓶が無くなっていた。

 

 「ど、どうやったっチュ!?今ずっと会話してたッチュ」


 「あ、はは......秘密かな?」


 アオイは元々馬車の中で全部の荷物に細い糸をつけていた。

 それをテントに転送させたのだ。


 「じゃ、じゃぁ後は話ながら行くッチュ」


 「これだけ準備が早いとほんとうに楽ウッシなぁ」


 「ありがと♪」


 準備が想定より早すぎるくらい終わったのでそのまま歩きながら話すことにしたみたいだ。


 「えーっと、確かここにこうして」


 アオイがブーツに魔力を流して泥だらけの地面を歩く。

 すると不思議と泥から出たブーツは綺麗なままだった。

 

 「お!それは最近出た《ヌルクメルブーツ》トラ!?」


 「うん!そうだよ!」

 

 「こ、これは最近アバレーとグリードの共同開発した最新バージョンだトラァ!」


 「そ、そう?知らなかった」


 「(防具屋のおじさんにおすすめされたのがこれだったから買っただけなんだよなぁ)」

  

 トラ五郎は買いたてのブーツを見てハァハァと息をあらげてるところをチュー太郎に叩かれる。

 

 「いてっ!」


 「まったく、女性を見て興奮してる不審者に見えるッチュ!」


 「いってーな!そんなつもりはないトラ!」


 「(あぁ......ほんとうにこれ嫌い)」


 「あの一ついいですか」


 アオイは三人に透き通るような声で言った。




 



 「僕を女として見ないでください」










 


 

 

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