第340話 何も知らない国王

 「魔族?」


 「そう......魔族じゃ」


 愛染の女王はゆっくりと聞き取りやすく言葉を述べる。


 「魔族......魔王様が造り出した生命体じゃ、彼等はそれぞれ魔物のような特徴を持っておる」


 「特徴?あなたみたいな耳や尻尾ですか?」


 愛染の女王はそう言われて耳をピクッと動かす。


 「我らのこの耳と尻尾とは違う、これは先祖様が力を授かるときに【動物】と言うものをベースにされているらしいがそれとは違う」


 「と言うと、魔族は?」


 「妾の国を納めてくれていた魔王様は【ジェミニ】様達......【ミラ】様と【かえで】様その魔族達は鏡の世界に居た」


 「鏡の世界?」


 「鏡......?」


 「そうじゃ......そして餌は妾の国民の鏡の中の妾達......」


 「ど、どういうことですか?」


 「文字通りの意味じゃ、妾の国を管理してくれる代わりに妾達は生け贄を出さなければいけない......餌じゃ」


 「い、生け贄」


 「そう、それが妾達、人間の国王と魔王様との間の契約。生け贄を捧げる代わりに妾達を滅ぼさないでいただいていた」  


 「し、しかし、生け贄を捧げていたら誰か魔王様の存在に気付くのでは?」


 「......生け贄は妾達ではなく、鏡の妾達じゃ」


 「???」


 「小娘......お前は鏡の中の自分から助けを求められたことはあるか?......鏡に写った自分の顔、身体が同じ動きをせず何かから怯え。

一回、瞬きをすると目の前の鏡の自分は意識をもって目の前の自分に助けを求め。

二回瞬きをすると鏡の自分が血を流し惨い姿になり。

三回瞬きをするともう鏡の自分はいない......」


 「そ、それは......」


 「獣人で鏡に写らない奴などかなりいる......妾も含めてな......」


 「......」


 鏡の中の自分......

 

 「しかし、妾達はまったく傷ついておらん、だからまだマシじゃの」


 「そうなると、ミクラルも......私達の国も......」


 「無論、それぞれの魔族に献上しておった」


 私はお父様の方を向くとお父様は無言で頷いた......私は事実を確かめなければ......私の知らないうちに何が生け贄になっていたのか......


 「グ、グリードは?」


 お父様はまたゆっくりと答えてくれる。


 「グリードの魔王様は【キャンサー】様......魔族は身体を持たない生命体だった」


 「身体を持たない?」


 「そう、その魔族に身体を持たせるために生け贄を捧げるはずだったが」

  

 「......」


 「【キャンサー】様は慈悲深く、私にある契約を持ちかけてそれを飲めば【キャンサー】様だけの生け贄で許して貰えると」


 「契約とは?」


 「..........................................【キャンサー】様の指定した人を生け贄に捧げるのだ、それが誰であろうと」


 「そ、その一人だけの犠牲なら......」


 「..................サクラよ......ヨルの事は覚えているか?」


 ?

 お父様はいきなりなぜ私の《母親》の名前をだしたのだ?


 「はい、お母様は私が大きくなるまで育てていただきました......私が王女として仕事が出来る歳になったら私と同じように......病で......」


 お母様の事は今でも覚えている。

 私が子供の頃、辛いときも、泣いてる時も、楽しい時も、いつもお母様が近くにいてくれた。

 今でもお母様の笑顔を撮った魔写真のペンダントは城に大切に保管してある。

 ............ある日、病で倒れ数日後には......


 

 


 お母様の葬式は城で行われた。




 あの時の悲しみは今でも......



 


 「ヨルはお前を産んですぐに生け贄になった」




 ..............................え



 「お、お父様......?」


 「【キャンサー】様が指定したのは我が嫁のヨルだった......ヨルは妊娠中でせめてお前を産んでからと」


 「うそ......うそよ、お母様は......生きて......」


 「お前の記憶にある母親。それこそが身体を手に入れた【キャンサー】様なのだ」


 「っ!!!」


 私のなかに吐き気が込み上げてくる。

 あのお母様はお母様じゃなかった?

 記憶の中のお母様の笑顔がなんなのか解らなくなる。

 

 「どうして!!!!どうしてそれを承諾したんですか!」


 「......国のためだ、一人の犠牲と国民の命!比べるまでもない!ヨルも仕方ないと!」


 お父様はたって私を上から怒鳴ってくる!

 

 「違う!違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!そんなんだから!そんなんだから貴方は私に!」


 今私の足が動くなら!この人を思いっきり叩いてた......だって!


 「なんで貴方は昔から家族を大切にしないのよ!」


 「か、家族を?」


 「そうよ!あなたは国のため国のためで私やお母様を......」


 お母様......お母様はお母様じゃないけど......けど!


 「それは違うぞ、サクラ女王よ」


 「アレン国王?」


 「座れカバルト、みっともないぞ」


 「......」


 お父様は座る。


 「こいつはな、サクラ女王......ひとつ前の王国会議で【キャンサー】様から次の生け贄の要求があったんだ、それはサクラ女王......あなただ」


 「!?」


 「【キャンサー】様は我々の前で言ってたからな。」


 「............」


 「お......お父様?」


 「解るな?サクラ女王、こいつはお前のために【勇者召喚】を行ったんだ。」


 「すまない、サクラ......」

 

 「ーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


 わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない!!!


 私のため?


 私にはわからない!なにも知らないんだもの!

 わからないよ!


 お父様は私のために【勇者】を?

 魔王を倒すため?

 魔王ってなに?

 国王ってなに?

 魔族ってなに?

 国ってなに?

 【勇者】ってなに?


 

 何も!何もわからない!

 私はお父様を......お父様を!



 ..................................................................................................................................................................................................................................................................................................................................................................................................................ヒドイハナシヨネェ....................................



 

 「引き継ぎは終わったようじゃの」


 「サクラ......」

































 『............えぇ、終わったわ。』

























 

 








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