第320話 真実のガラス玉

 《巨大都市スコーピオル中央城》


 「はぁぁっ!......のじゃ!?」


 「ククク、どうした?何もないところで剣を振るって」


 「ど、どう言うことなのじゃ、こ、ここは!?」


 ルカの居場所はもうボロ部屋ではなく、最初に転移してきた部屋だった。

 そして片眼鏡をした細身の魔王アビは王専用のイスに座ってルカを見下ろし笑っている。


 「......他の奴はどうしたのじゃ」


 現在、部屋に居るのはルカとアビだけだった。


 「少し貴様に聞きたいことがあってな、邪魔が居ては話しにくいだろう?紅茶は飲むか?」


 ルカの横には白い机とイスそして、紅茶がいつの間にか用意されていた。

 

 「......魔眼か」


 「ご名答、知ってたか......貴様、やはり人間ではないな?」


 「どうじゃか」


 「とぼけるな」


 アビは小さなナイフをルカに向かって殺す気で投げるがルカはそれをなんなく避ける。


 「この暗闇の中、なんの魔法も使わないで今の攻撃が避けれる人間なんて存在しない、居たとしても伝説の【勇者】くらいだろう、まぁ、そんな奴はこの世界に存在するのか怪しいが」


 「ほーう?確かにお互いに話すことがありそうなのじゃ」


 ルカは用意されたイスにドカっと座り紅茶を一気に飲み干す。


 「ほれ、ワシにおかわりをついでくれんかのじゃ?」


 「よかろう」


 アビは一瞬でルカの側まで移動し、ティーポットを持って魔力を流し、ルカのコップに注ぐ。


 「いちいち魔眼を使わなくても良いじゃろう」 


 「俺は慎重なんでな、敵が前に居るのに出し惜しみはしない」


 「貴様の魔眼への対処が出来ない限りワシに勝ち目はないのじゃがの」


 アビもルカの対面に座り自分のコップを持つ。


 「さて、俺の予想ではお互いに情報が不足している事が多いと思っている、しかし、俺が拷問をしてもお前は情報を吐かないだろう......そこで提案なのだが」


 アビは机の上にコトッとガラス玉を置く。


 「これはなんなのじゃ?」


 「これは【フォーセルド】と言う魔道具で、これに魔力を流しながら発言して嘘だったら赤く光る」


 「なるほど、なのじゃ」


 「お互いにこれを使って情報交換しようではないか、損はないはずだろ?」


 「ふむ......良いじゃろう、ではどちらから行くのじゃ?」


 紅茶一気に飲んでコップを机に置きガラス玉に手を添える、ルカはまったく動揺していない。

 


 「俺から提案したんだ、何でも聞いてみるがいい」


 そういってアビもガラス玉に片手を添える。


 「では此方からの質問なのじゃ、なぜ『女神』を殺そうとするのじゃ」


 「知れたことを、『女神』はこの世界にとって絶対の悪である、だから殺す、排除する」


 ルカはチラッと見てガラス玉が反応していないのを確認する。


 「なるほど、聞き方を詳しく聞かないと逃げられるのじゃ」


 「では次は俺だ、貴様の本当の姿は何者だ?」


 「人間なのじゃ」


 ルカが発言するとガラス玉が赤く光だす。

 それを見てアビは少し笑って。


 「フフ、確かに確認していなかったな......安心しろ、魔道具は本物だ、ちゃんと俺にも反応する」


 「どうじゃか」


 「では見ておけ俺は下級吸血鬼である」


 アビがそれを言うと先程と同じようにガラス玉が赤く光だす。


 「......」


 「確認はもういいか?では答えていただこう」


 「............ワシは【クリスタルドラゴン』なのじゃ」


 「な!?」


 アビはガラス玉を見る......ガラス玉はまったく光っていない、つまりルカは本当の事を言ってるのだ。


 「......いや、『女神』が居るのなら納得がいく、それで我らの事も知っていて人間離れしたその力か、なぜそんな姿に......」


 「それは質問なのじゃ?次はワシの番なのじゃ」


 「ちっ......」


 アビは次の質問を待つ。


 「うーむ......そうじゃのぅ、では、お主の【魔眼】の能力はなんなのじゃ?」


 「我が【魔眼スコーピオ】の能力は【時を止める】能力、対象は人物でも良いし世界でも良い。」


 「ほう、嘘はついてないようなのじゃ、良いのか?自分の能力を暴露しても」


 「我が能力を知ったところで攻略など不可能、冥土の土産にでも持っていけ太古のドラゴンよ」


 「調子に乗るなよ風船風情が人間の真似事なんざしよってなのじゃ」


 「それはお互い様だろう、そんな姿で言われても威厳も何もないな......ではそろそろ聞いておこうか『女神』の居場所を教えろ、どこへ隠した?」


 ルカはニヤリとして答える。


 「知らない、なのじゃ」


 「!?」


 ガラス玉も光らない。

 それは真実だ、あの時、魔王にルカの時を止められていて気がつくとここに居た。

 つまり、【今の場所は知らない】のだ。


 「ちっ」


 アビも予想が外れていた。

 あの時、【スコーピオ】を発動させすひまるの部屋に『女神』がいない時点でどこかに隠していると思っての質問だった。


 「残念じゃッたのぅ、では次じゃ。【勇者】は恐いか?なのじゃ」


 アビはなぜその質問をここでしてきたのか解らなかったが、こう答えるしかなかった。


 「恐い」


 ガラス玉は光らない。

 それを見てルカは笑みをこぼす。

 

 「ほう、そうかそうか、恐いのか。なのじゃ」


 「何がおかしい?古来より我ら魔王にとって【勇者】とは天敵、その圧倒的力の前では魔王の我らですら部下たちを率いて全身全霊全力の本気で相手をする、しかしそれすらも凌駕すると言われる【勇者】、恐くないわけがない。......だがそれは大昔の話だ、だが今は存在しない。」


 「本当に、そう思うのじゃ?」


 「何を言って......」


 その時だった。





 《巨大都市スコーピオル》明かりのない暗闇の都市。





 その都市にあるはずのない【太陽】が出現した。


 

 



 ルカが壊した壁からその【太陽】の光がさしこむ。





 「な、なんだこの光は!?」 


 「間に合ったみたいなのじゃ」


 「貴様!何をした!」


 ルカはわざとガラス玉を持って答える。


 「゛ワシ゛は何もしていないのじゃ」


 ガラス玉は光らない。

 そして、それをアビが確認したのをみてガラス玉を壁に投げて割る。


 「さて......では、紅茶のおかわりを貰おうか、なのじゃ♪」


 ルカはゆっくりと自分でティーポットから紅茶をコップに注ぎ、一口飲み、コップを置き。

 

 


 







 「さぁ、【魔王】対【勇者】の開戦なのじゃ」














 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る