第317話 生死の選択

 男は『女神』と言った......


 女神......その単語は俺にとっては切っても切れない縁。

 この世界に来たときに殺されそうになった理由だ......つまり


 「(女神だから殺すってこと!?またこのパターンかよ!)」


 つくづくこの世界の女神は嫌われてるなぁって思う......でも何でなんだろ?明らかに誰かが居るはずなのにルカ達はなにも言わない。


 「仕方ない、殺そうかと思ったが情報を聞き出すか」


 「(情報?)」


 【誰か】はそれを言うと静寂がなくなる、まるで時が動き出したかのように。


 「それは魔王様が」


 「ほう?俺が何だ?」


 「!?」


 「のじゃ!?」


 「そう驚くな、すひまると言ったか?前にもこんな事があっただろう」


 「魔王様!!?」


 押し入れに隠れて聞いていたらまるで今気付いたかのように二人とも驚いてる声が聞こえる......もしかして本当に?


 「き、貴様!いつから居たのじゃ!」


 「ふん、ついさっきだ、それにしても、魔力で強化された超高層ビルを二つも破壊とは、よくもやってくれたな」


 「貴様らがしつこく追い回すのが悪いのじゃ、吸血鬼などそこら辺の魔物に喰われるだけの食料が良くもまぁここまで立派になったものじゃの」


 「ほぅ?まるで我らを昔から知ってるような口ぶりだな?その変な話し方さえ無ければ普通なものを」


 「うるさいのじゃ、こっちも好きでこうなってるんじゃないのじゃ」


 え?その語尾って癖じゃないの?


 「それで......正直に答えろ、『女神』はどこに居る」


 薄いふすまの壁越しに凄まじい殺気を感じる......こ、こわい。

 するとその殺気で隣で寝ていたセミマルが起きてしまい。


 「......むにゃ......おねえちゃん?......じゃない!」


 「(や、やばい!)」


 「わーーーー!」


 セミマルは驚いて押し入れから出ていってしまう。

 反対方向からセミマルが出たので俺の姿はルカとすひまるに丸見えになったが幸いにももう一人の【誰か】にはギリギリ見えていない......片方のふすまが空きっぱなしになり先程よりよく声が聞こえだした。


 「セ、セミマル!?」


 「おねーちゃん!おねーちゃん!」


 「............」


 すひまるちゃんが焦ってセミマルを抱き抱え落ち着かせようとしていてさっきまでの殺気が消える。

 水を刺されたと言うやつだろう。


 「セ、セミマル、大丈夫だから静かにして?」


 「おねーちゃん!おねーちゃん!あのね!さっきね!」


 「セミマル、後で聞くから!......ね?」


 「う、ぅん......」


 「その下級吸血鬼はお前の家族か?」


 「は、はい......」


 「親は?」


 「わ、わたしは親は知りません......物心ついた時には弟と捨てられていて......」


 「そうか、すひまる」


 「は、はい!なんでしょう魔王様」


 魔王!?

 今すひまるちゃんはハッキリと魔王と言った!

 つつつつつつまり、今このふすま一枚の先には魔王が居ると言うこと!?

 どういうシチュエーションだよ!


 「お前は運良く人間の身体を手にいれただけで、身分は下級吸血鬼だ、しかし、今回の働きは素晴らしかった。」


 「は、はい......ありがとうございます」


 「そこで褒美として俺から直々にすひまるとその家族を上級吸血鬼に位をあげてやろうと思う」


 「ほ、ほんとうですか!あ、ありがとうございます!」


 「ありがとうございますー!」


 すひまるの嬉しくて泣きそうで震える声をしながらお礼を言って、セミマルは姉の真似をしてお礼を言った。


 「では、上級吸血鬼になるお前に最後の質問だ......『女神』はどこに行った?」


 「!?」


 「(!?)」

 

 ま、まずい!今俺の姿はすひまるちゃんに丸見えだ。


 「っ!【クリスタルブレード】!」


 「おっと、お前は黙っていろ」


 ルカが咄嗟に剣を出して俺からは見えていないが魔王に攻撃をしようとしたがルカは不自然な格好で止まってしまった。


 「こ、これは......」


 「気にするな、今こいつは時間が止まっているのだ」


 ハッキリと言った。

 オタク要素のある俺にはすぐに理解できる、魔王は何らかの方法で【時間を止めれる】のだ。

 

 「それで、先程の質問の答えを聞かせてもらう」

 

 「............」


 ど、どうする!ここでバラされると何も俺は対抗する力を持っていない!

 【武器召喚】をしようとしたがあれから出来たことがないのだ!

 そして、今手元には魔皮紙も何もない!


 





 そして、すひまるちゃんは言った。















 「わかりません」











  と。



 

 


 

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