第276話 【アビ】

 ミクラル城

  

 ミクラル代表騎士のナオミは仕事を休んで自分の部屋で剣を研いでいた。

 基本、代表騎士の仕事はモンスター関連なのだが数年前、『ブルゼ』によりナルノ町が壊滅されその復興に関してが多い。

 だが、ナオミは次の《ナルノ町》町長がモグリなので苦にはならず夜通しで働いていたのだが......モグリにバレて「早く休まんか!」と怒られたのだ。

 ナオミは小さな頃、親から奴隷商に売られそうになっている所を偶然その時奴隷を買っていたモグリに見つかり「直接売ってくれれば良い値で買う」とナオミの親に交渉してモグリに買われたので奴隷特有の番号もつけられずに済んでいる。


 「ま、それ以上に身体は傷ものになっちゃったがねぇ......」


 ナオミの身体にはこれまで戦って傷付いた跡がある。

 もっとも、治そうと思えば治せるのだがいちいちそんなことをしているとキリがないくらい傷をまた作る。

 しかし、最近好きな人が出来たナオミは取り敢えず身だしなみだけでも変えようかと考えていた時、【緊急通信用魔皮紙】が起動する。


 {大変です!ナオミ様!}


 「なんだい?騒がしいね」


 通信相手はこの国の騎士だ、かなり慌てている。


 {《モルノ町》周辺にて大量のモンスターが接近中!その数は現在3000匹をこえています!}


 「なんだって!?」


 モンスター3000匹......さらにまだ確認していると言うことはそれ以上だ。

 なんのモンスターかは解らないがその数では町に張ってるギルド結界でも耐えられないだろう。


 「すぐ準備して向かう!町のみんなを違う町に避難させ騎士団を《モルノ町》へ......」


 そこまで言うと魔皮紙の通信は切れ、別の人物が通信をしてきた。

 

 {ナオミ殿、今のは誤報だ}


 「!?、アレン国王!」


 通信を割って入ったのはこの国の王だった。

 アレン国王は変身魔法が出来る人間ゆえ、見た目は一定周期に変えているのだが、ナオミみたいな代表騎士には解るようにしている。


 故に、現在通信をしている人物が本物の国王であることはナオミにはわかっていた。


 「どういうことですか?あたしにはあの騎士が嘘をついている様には見えなかったがね......」


 {あぁ、嘘ではない、言い方が悪かったな......つい先程、ギルドより連絡がありモンスターのルートは町ではないらしい}


 「なるほど、それで訂正しに来たわけだね、しかし、それほどのモンスターの大群は一体どこへ?」


 {そ、それは今調査中みたいだが、取り敢えずは町は無事みたいなのだ、だからワシの権限で国から騎士たちは出さぬ}


 ナオミはそれを聞き何か違和感を覚えた。が


 「そうかい......じゃぁ、あたしゃ今日は休みだからこれで切るよ、お望みなら今からお風呂に入ろうと思ったから脱ぐのでもみていくかい?」


 {そうか、休みを満喫するといい}


 魔皮紙は魔力がなくなったのか力なく机の上に落ちる。

 ナオミの中にある違和感......

 

 「あれは......何か隠してるねぇ......《モルノ町》か」


 そう呟き、ナオミは変装をして城を出てギルドに向かうのであった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 


 ナオミとの通信を切り、アレン国王は一人【国王の間】で険しいかおをして座っていた。

 なぜなら......


 「国の王であるワシが一つの町を見殺しに......」


 そう、誤報など嘘だ、現在もギルドからは通信が来ているのだが、王の権限を使いこの城に来る通信を一時的に切っている。

 この城の設備に関してはこの部屋から国王自身が操作可能になっている。

 いざとなれば、部屋の配置なども変えて敵国がせめてきても対応できるような作りだ。

 しかし、ミクラルには各国の観光客も多く、それがまた人質のように機能しているので本当のいざというとき用だが。


 


 そして、どこからともなく声が国王だけに聞こえてくる。



 「これだけ人間が居るのなら少しくらいどうと言うこともないだろう」


 「......【アビ】か」


 「良くやった」


 「言われた通りにした、それにしても本当なのか?我が国に『女神』が居ると言うのは」


 「そうだ、先日から気配を感じていたが確信がなくてな、俺の使徒を送ったがどうやら違うやつに殺されたみたいだ」


 「!?、それは聞いておらぬぞ!」


 「黙れ、俺がお前に言う必要があるか?人間風情が」


 「くっ......」


 「では引き続き、俺の邪魔をしないように立ち回れ、邪魔をするようなら......解ってるな?」


 「わ、わかりました......」



 それだけ聞こえると【アビ】の声は聞こえなくなった。




 「............『女神』、なぜ現れたのだ......お前が現れなければこんなことには......」

 



 国王達が【勇者】の存在、そして『女神』の

存在を知るのは次の《王国会議》である。








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