第244話 エスの正体!


 「がっは……」


 山亀は俺の数メートル先に倒れてきて飛び散る泥と共に吹き飛ばされ世界樹の根に背中を強打する。


 「いったぁ……つぅ……」


 激痛が襲ってきてる中、我慢して立ち上がる。


 「み、みんな?」


 さっきまでみんなが居た場所は山亀が存在している……


 「そんな……まさか……リュウトくん?アカ姉さん?……ヒロ?」


 俺が大きな声で呼ばなかったのは結果が確定しているからだろう……だが、心の中では認めたくなかったから小さな声で呟く様に出た今にも消えそうな呼びかけの声だった……


 「うそだ……うそだ!!!」


 涙が出てきてその場で泣き崩れそうになるが時間は止まってくれない。


 「ひっ!?」


 山亀は進行を止め、身体から夥しい数の緑のツタが、触手のように俺に迫ってきていた。


 「に、逃げないと」


 俺は震える全身を抑えて山亀に背を向けて走り出す。



 途中でこけそうになるが必死に必死に……


 「駄目だ!追い付かれる!」


 だが俺はアニメや漫画の主人公みたいに早く走れたりはしない。

 むしろ普通の人よりも遅い速度だ。


 

 無情にもすぐに追いついた触手は俺の片足に巻きついた。



 「うぁ!ぷへっ!」


 

 その衝撃で前のめりになってこけて顔面から泥に入ってしまう。

 だが、不思議なことに顔や髪は泥まみれにならない。



 触手は俺の身体に絡み付いていき持ち上がられた!



 「くそ!離せ!」


 触手から解放されるため叩いたり暴れたりするが振りほどけない!


 「だ、だめだ!」


 触手に必死で見ていなかったが山亀がその大きな口を開けて待っていた……え?うそ?食べられる?


 「や、やめ____」





 その瞬間!







 「やらせない!」





 漆黒の短剣が空から回転しながら落ちてきて触手を切り裂いた……あの剣は!




 「うわ、うわぁぁあおちるうぅ!」



 浮遊感を味わいながら落ちていくが地面に衝突せず、代わりに優しくお姫様抱っこされた……その正体は!




 「無事か?アオイ」




 漆黒の黒騎士こと“エス”さんだ!


 

 うわぁぁぁぁあ!死んでなくて良かったよおおおお!あと助けてくれてありがとううう!本当に死ぬかと思った!


 と言うことは他の人ももしかして!



 「ありがとう……他のみんなは?」


 「………………わからない、俺は世界樹に行ったが一緒にいた獣人とはぐれて一人で迷っていたら外に出てしまった」


 そう上手くは行かないみたいだ……


 「そっか……」


 「…………」


 エスは俺をおろした後武器を構えてある者を呼ぶ。


 「『黒狼』」


 「え!?この魔物は!」


 すると、エスの影からいつしか俺を襲った魔物が出てきた。


 「『黒狼』はどういうわけか俺の言うことを聞く」


 「ガァルルル」


 「アオイを魔物から守れ」


 『黒狼』と呼ばれたその魔物は俺を見た瞬間威嚇していたがエスの言葉を聞いて黙り、頷いた。

 

 「エスはどうするの?」


 「…………転移の魔皮紙を発動させるのにもかなりの魔力が必要だ、今はそこまで俺に残ってない、残りの魔力で発動できる魔皮紙はこれだけだ」


 エスは血のように真っ赤な魔皮紙を取り出した。


 「それは?」


 「これを発動させると一時的に力を何百倍、何千倍にも強化できる、だが代償は…………俺の魂だ」


 え?それって


 「死ぬ気……なの?」


 「…………」


 それは……だめだ!


 「っ__」


 「……」


 気がつくと俺は言葉より先にエスの腕を掴んだ。

 

 「…………一緒に逃げよ?なんとか2人で助かる方法はあるはずだよ」


 「…………」


 エスは黙っていたが、次に口を開いた時は普段の恐い雰囲気ではなく……“俺が聞いたことのある声”で優しい口調だった。


 「………………あなたは相変わらずですね、“あの時”もベルドリと一緒に俺を助けてくれた」


 「……え?あの時?」


 そういって、エスは頭の装備を外すとその顔は。

 















 「…………リン?」












 「お久しぶりです、アオイさん」


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