第192話 出来た!できたよ!やった!

 《龍牙道場》


 「今日も1日修行に各自励むように」


 その師範の言葉を聞き続けて何日か経過。


 未だに何も取得できていない……流石に心が折れそうだよ、こう……バッキリと……


 「正直気合いで何とかなると思ってました……」


 不思議と尻尾も垂れ下がる。

 

 「あぁ……いつもの光景だ」


 「そうでもなかろう。」


 「ぬわぁ!?し、師匠!?」


 いつの間に後ろにいたの!?


 「苦戦してるようじゃな」


 「……はい」


 「どれ、見ておく、やってみよ」


 「はい」


 俺は魔力を足裏にイメージするがやはり水の中に足を付けると水に入る。


 「て、感じなんですけど……」


 「ふむ、此方に来てみよ」


 「はい」


 師匠の目の前に行くと隣に座れと指示されたので座る。

 お尻に湿った土がついてる感覚がするのはちょっと嫌だけど……


 「綺麗じゃろ?」


 「?、そうですね?」


 「どんな風に見える?」


 どんな風?うーん……


 「泉は深い綺麗な青だけど、近くで見るとすごく透明です」


 「ホッホッホ、ここはまだ私が目が見えていた頃に見つけた場所である」


 「え?じゃぁ今見えてないんですか?」


 「うむ、しかし、視界は見えないが見えるのだ」


 「……」


 どう言うこっちゃ?


 「では、泉の反対側には何が見える?」


 「え?」


 俺は目をこらしてよく見る。

 泉の大きさはかなりの物で反対側など遠すぎて見えない。


 「見えません」


 「見えておるじゃろ?言ってみい」


 「えぇ……うーん、目がいい魔物があっちから見てて僕を狙ってるとか?アハハ」


 「正解じゃ」


 「うぇえ!?!?」


 「嘘じゃ」


 「えぇ……」


 「何故、出来ないと思う?」


 「僕は魔力が少なくて魔力操作も出来ないから?」


 「違う、それを言うなら門下生の中にも魔力が少ないやつもおる……先程の問い、見えていないのに答えを導きだしたな?」


 「?、導き出したと言うより笑える話というか冗談と言うか……ハハ」


 「それじゃ」


 「へぃ?」


 「見えていないが見えている、それが大事なのじゃ」


 「は、はぁ……?」


 「では問う、魔力の操作は見えているか?」


 「いえ」


 「だが魔力を操作しろと言われる、お前はそう言われて何かをイメージしたはずじゃ」


 「ま、まぁはい」


 「魔皮紙や魔方陣ならば魔力を近づけるだけで自動的に吸いとってくれるがここでの修行は魔力をイメージし、形を作る、それには虚構の現実が必要なのじゃ」


 「虚構の現実……」


 「遠くに魔物が居ると思ったが居ない、だがお前は儂が居ると言った時に信じたはずじゃそれが虚構の現実」


 「!」


 「やってみよ」


 「はい!」


 俺は泉の前に立って目を閉じる。


 そして____


 「え……あ!うお、おおお!」


 少しだが足がその場で浮いてる!

 そして空中で滑って尻餅をついてしまった!

 例えるならローラースケートの感覚!足の先に何かついてる様な感じだ!このまま泉に行けば水の上を渡れるって事か!


 「ホッホッホ、やれば出来るじゃないか」


 「はい!ありがとうございます!」


 「うむ、小さな一歩だがお前にとっては大きな一歩だ、これから先も頑張るのじゃぞ」


 「はい!」


 師匠はそういって戻っていった。



 ……というか!出来た!この達成感!伝えたい!いやほんとまじで!

 




 「よーし!頑張るぞ!おー!!!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 《アオイの居る泉の向こう側》

 


 「ホッホッホ、励んでおる励んでおる」


 アオイと別れた師範はこっそりと他のドアから転移してアオイを観察していた。


 「しかし、あの魔力の流れ……


 師範の目は見えないがその代わり人の目に見えないものを感じるように鍛えられている。

 その1つとして“魔力の流れ”が見えるのだが……


 「まだまだ儂も修行が足りぬということか」



 アオイの一瞬出した不可解な現象。

 その力に本人が気付くのはまだまだ先の話だ。





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