第53話 恋とは何か男とは何か

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32番 トカゲ

33番 ライオン

34番 ネコミミ

35番 アオイ

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 檻はどんどんどんどん上がっていきます。


 よくよく考えるとボタンが出て来た瞬間に押していればもしかしたら助かってたのかもしれませんがもう遅いでしょう……


 下を見ると高すぎて目がまわり、もしもここから落ちたらと考えると……


 「......」


 「......」


 お互いにずっと黙ってます。

 それもそうですよね……死にたくないですよね……



 もしも檻に入ってるのが一人だけならまだ気が楽でした。




 自分が死ねば良いのだから……





 しかし、私の檻にはペタリと座っている35番さん。

  



 ……………彼女は殺したくない……



 それから沈黙はしばらく続き、ついに33番さんは立派な牙を持ったその口を開きました。

 

 「お互いに黙っていても仕方ないだろう」


 「カロ......」


 「マスターは本気だ......押さなければどちらも落とす可能性の方が大きい」


 「ここには他にも奴隷がたくさん居る、ここで四人死んでも痛くも痒くもないだろうカロ」


 「それはみんな解って居るな?」


 みんなで助かりたい……でもそれが無理な相談なのでしょう……

 

 「はい……解ってます」


 「......」


 35番さんは答えません、話を聞いているのか聞いていないのかも分かりません。


 「......よし」


 「カロ、でもそうなると、どちらが落ちるか、になるカロ」


 「............」


 「32番、相談なんだが」


 「それは聞きたくないカロ」


 「まだ何もいってないだろ?」


 「黙るカロ、お前の言うことはわかるカロ、だが、その感情に付き合わされるのがごめんカロ」


 「貴様!それでも男か!」


 「男も女も関係ないカロ!」

 

 私達はまだ何も言ってないのに向こうの檻で喧嘩が始まる。


 「落ち着くカロ!お前少しおかしいカロ!」


 「俺は35番のためなら死ねる!」


 「なら!それを止めるのがこっちの役目カロ!」


 「あの!話し合いを!」


 「34番、止めるな!もうこれは俺達の勝負だ!」


 おかしい、33番さんは狂気といっていいほど死にたがっている。

 

 「な、なんでそんなに」


 「これが恋の力だ!男は恋をし!恋で死ぬ!俺の命が尽きても35番が生きるなら!」


 「いい加減にするカロ!」


 「何をする!」


 32番さんは堪忍袋が切れたのか33番の太い首に巻き付きしめつけました!


 「これでも元海賊、細くても力はあるカロよ、それに人殺しだってした事あるカロ」


 「そうか、俺もお前もそういう運命なのかもな!俺は奴隷になる前はアバレー王国の騎士団長だった!お前みたいなのもたくさん捕まえて来たからな!」

  

 33番さんは32番さんを振り払って距離をとりました。


 「どっちも今は奴隷に落ちてるカロ、同じ穴の狢カロ!」


 どちらも動きがヒートアップしていく。


 止めたくても私はなにもすることが出来ません……


 「男としてお前は思わないのか!か弱い女二人のために死ねる名誉と!」

 

 「何が名誉カロ!どうせ35番しかみてないカロお前は!」


 「そうだ!俺は惚れた女のためには死ぬ覚悟もある!」


 「話にならないカロ!もう終わらせるカロ!」


 「させん!」


 32番さんがものすごいスピードでボタンに向かいますがそれを33番さんが危機一髪止めます。


 32番さんは......私たちを殺すつもり......なの?


 「34番!早く押せぇ!」


 暴れる32番を押さえながら此方に訴えますが......私には......


 「で、でも......」


 「こいつは本気で押すつもりだ!今俺が止めてるのもやっとだ」


 「私には押すことが出来ません!」


 今まで一緒に......一緒に過ごしてきた仲間を!私は殺せません!


 「離すカロ!あいつらは『女神』カロ!誘惑して殺されるように仕組まれてるカロ!」


 「黙れ!俺は騙されてない!35番!聞こえるか!」


 「......」


 「最後にもう一度俺を............俺のままで死なせてくれ!......頼む!」


 「......」


 35番さんは名前を呼ばれて振り向きはしたがそのままじっと見ているだけでした。

 

 「くそっ!34番!」


 「む、無理です!私には!




 「押せえええええええええ」


 「押すなぁぁぁああ」











 「__どうでもいい」










 「え!?」





 35番さんが何かを言うと、フラフラと立ち上がり迷いなくスイッチを__



 押した。



 「!?」



 私はすぐに35番さんをボタンから突き放した。

 35番さんは私から突き飛ばされて倒れるがもう遅かった......

 

 ガチャンという大きな音と共に向こう側の檻が止まり。


 




  

 

 「......ありがとう。」


 「この女神があああああぁぁぁぁ!!!!!」






 その言葉を最後に相手の檻は奈落の底へ落ちていった。







 「......ハッハハハ......女神......俺が......僕が......『私』が......」


 涙を流しながら静かに泣く35番さん......





 







 全てが一瞬で終わり。


 私はその場で立っている事しかできませんでした......










 

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