第33話 いざ出発!

 スロー村でたヒロユキ達の馬車は立ち入りが禁止されている《クバル村》を迂回し、最終的に目的の山のふもとに到着した。


 「とりあえずここにキャンプを設置しますよ」


 リンは、馬車の中からテントの部品を取り出し、その手際の良さでテントを組み立てていく、拠点のテント内には、大きな転送魔方陣が広がっており、ここに荷物を置き、もう片方の転送魔皮紙に魔力を流すことで依頼中に必要な道具が瞬時に転送されてくる仕組みだ。


 


 「……手伝う」


 「いやいや!これは僕達の仕事ですのでいいですよ!」


 「……みんなでした方が早く終わる」


 「そ、そうですか?じゃぁお言葉に甘えて……杭打ちをしてもらってもいいですかね?」


 「……お安い御用」


 リンと一緒に組み立てている中、ショウは自分の矢を点検している……実際弓をこんなに近くで見るのは初めてなので少し興味がある。


 すると、視線を感じたのかショウが此方に話しかけてきた。


 「なんだ?弓を使うやつをみるのは初めてみたいな顔して」


 「……初めて」


 見抜かれたので正直に応える。


 「ま、まじか、少し話を聞いてたけど本当に初心者なんだな……ま、まぁ弓のことなら任せろ?持ってみるか?」


 そう言って弓を渡してきたので持ってみると見た目に反してかなり軽かった、装飾も赤い何かの魔物の甲殻を使っていて黒と赤のバランスの取れたかっこいい弓だ。


 「……軽いし、かっこいいな」


 その声にショウがピクッと反応すると__


 「そう思うか!そうだろ?そうだろ?弓の構造って知ってるか?」

 

 先程までの態度とは思えないほど情熱的に語り始めた。


 本当にすごい嬉しそうだ……この反応、ユキが母親の話をする時と同じ臭いがする……地雷踏んだか?


 「……弦をひいて矢を放つと矢が発射される」


 とりあえず持ってる弓でジェスチャーすると「はぁ……わかってねぇ」と言いマシンガントークが始まった。


 「ばっか、そんな基本を聞いてないんだよ、まず弦だが俺の弓は【レッドドラゴン】の素材から出来ていてな!矢を放ったら途中で矢筈が爆発して加速!その加速で貫通力を上げて敵を貫くんだ!」


 「……矢はず?」


 「矢筈ってのはこの【ブラックピーリップの羽】がついたここだ、さらにさらに弓自体は砂漠の【デルトニクス】の素材から作られていてその性能は折り紙付き!砂漠という過酷な状況で生活してるコイツらの素材はどんな温度変化や環境が変わっても適応して形が変わらなかったり__」


 出るわ出るわの自分の武器自慢の数々。


 かろうじて【レッドドラゴン】と【デルトニクス】は聞こえたが他が早口すぎて6割は考えが追いついていない。


 その様子を見ていたリンはため息をして。


 「またか……」


 と、一言……これは確実に地雷を踏んだのだろう。

 


 「……」


 ショウは弓と矢をキラキラした目で見ながら話を続けていた、その目は新しいゲームを買った兄さんみたいだ。


 ……あぁ、兄さん、今頃何をしているだろう、もしかして一緒にこの世界に来ていたりしないかな……会いたい。


 その後、時は流れ、リンがテントを整え終え、ゆっくりと立ち上がり、ショウと俺の方に歩み寄ってきた。


 「テントは終わりましたよ、ショウもそこらへんにして馬車から荷物を運ぶのを手伝ってよ、あんまり長く馬車を借りてると追加料金発生するんだから」


 その言葉を聞いて、ショウも我にかえる。


 ちなみに自分の家などがあるとそこから直接荷物を送れるのでかなり便利になるのだが、肝心の家が高いのと、家買うくらいならその代金を道具にまわした方が効率がいい。


 ……ユキは家が欲しい欲しい言ってたが……


 「ちっ!仕方ねーな!貧乏なのは勘弁だ!」


 さっきまで手入れをしていた大量の矢をテントに突っ込んでいく。


 ……ちなみに此方の荷物は少ない。


 ほとんどポケットに魔皮紙を入れてるからだ。テントに入れると言えば箸や歯磨きとか日用品と非常食等……


 「え!?」


 「……?」


 「い、いや、なんと言うか……」


 「……なんだ?」


 「その……そう言うものをテントに入れるのって僕達は無いから新鮮だなって……やっぱり女の子がパーティーだと気を使うんですね」


 「……」


 単純に俺が歯磨きとかしたいだけなんだけどな……



 荷物も運び終えて馬車を帰した後、三人でミーティングタイムに入った。

 

 「さて、これが今回のこの山の地図」


 山の地図の中には矢印が1つ記載されていて持ち主が動くとその矢印も同時に動く……つまり自分達の位置だ。


 「僕達の最終目標は【メルキノコ】……これは山頂付近のここに生息する『メルピグ』っていう魔物の体内に寄生して宿主の栄養をもらって成長する寄生植物ってやつです」


 「……ふむ」


 「ついでにメルピグにしか寄生しないから大丈夫、僕たち人間には害はありません、メルピグは雑食で、なんでも食べるんですけど、この山には《クバル草》と言う栄養満点の植物が生えていまして、この山のメルピグは冬眠に備えてそのクバル草を一杯食べに行きます、なので【メルキノコ】事態も他の地域より成長するのでここら辺では名物なんですよ」


 「……そう言えば山頂“付近”なのは何故?」


 「うーん、ちょっとややこしくなるんですが……この山は《クバル村》の所有地で、つい最近、ある事件があって村自体が無くなりました。」


 「……ふむふむ」


 「クバル村が所有していた頃、山頂は立ち入り禁止になっていまして……でもそれを制限する村が無くなったので今回から山頂の立ち入りが解禁されました、なので今までの情報だと山頂“付近”って事になるんです」


 「……なるほど」


 そして、そこからリンは少し申し訳なさそうに話す。


 「……それで冒険者の間で「山頂にはクバル草がいっぱいあるんじゃないか?」とか「今までなぜ立ち入り禁止にしてきた?」とか色々と噂が噂を呼んで、この依頼に来る冒険者が殺到、あまりに多いのでギルドが抽選で依頼を受け付けれる人を決めました……それに当たったのが……」


 「……俺達か」


 「はい……しかも、この時期のこの依頼は元々すごい人気だったのですごい確率ですよ!その……僕たちも立候補したんですがハズレちゃいまして……そんな時、ユキさんが僕達に声をかけてくれました!条件付きなら一緒でいいって!」


 「……そう言うことか」


 ……色々と納得だ。


 最近ユキが「私の運は絶好調です!」とドヤ顔で此方に言っていたのはこの事だったのか……俺は無視してたけど。

 ん?そう言えば。


 「……ギルドは山頂を調べなかったの?」


 「はい、調べようとはしてる見たいですけど国自体から許可がまだ下りないらしく、山頂に行くことをしなければこの依頼は普段通りでいい見たいです」


 「……」


 「?、どうかしました?」


 「……山頂に行くのか?」


 「そ、それは……」


 山頂へ行くのを禁止されていた壁は無くなった。


 ギルドも許可待ちの状態で今が1番グレーゾーンなのだろう、もしも山頂に何かあるなら独り占めのチャンスという事だ。


 「場合によっては……恐らく」


 「……分かった」


 「その、僕が言うのもあれですが良いんですか?これはヒロユキさんの依頼ですし」


 「……きっと俺たち以外がこの依頼を受けても行っていただろう、危険と判断すれば逃げる、見るくらいならいいだろう」


 「はい!分かりました!」


 「解ってるじゃねーか!ヒロユキ!」


 リンもショウも喜んでいる。


 この依頼自体はゴールド冒険者でも受けれる低ランク依頼だ、しかも毎年ある依頼と言うことはギルドがそれほど危険と判断していないのだろう。

 

 それに、元々山頂はクバル村が管理していたと言うことは“管理できていた”と言うことだ。


 地図も山頂以外は解読されているし危険性は少ない。


 「それでまず、ルートなんですが、俺達はこの川の近くを目印に登っていこうと思います、川には凶暴な魔物が居る可能性があるけど、そこは俺達が頑張って攻略しましょう、本当に危険なのが、この森とこの泉、森に入ると道を作り替えられて泉に誘導させられます」


 「……道を作り替える?」



 「はい、正確には【ウッドリーワンド】という木の植物魔物が付近に生息してるんですが、人間を惑わせ、強力な魔物の元へ誘いこんで死体を栄養に成長するんです」


 「……恐ろしいな」


 元の世界でもハエを取る植物とかも居たのでそれの部類か。


 「はい、攻略法としては“山道なんてない”と思うことです」


 「……気を付ける」


 「はい、だけどそいつの習性を逆に利用すると危険な魔物の場所を迂回できるって事なんですよ」


 「……ほう」


 「ここに来る前に集めた情報では、この泉にかなり強い魔物が居るらしいんですよ。そいつは夜行性で昼間は岩影に隠れてるんですけど夜になると姿を表し泉に集まってる魔物を食うって情報です、ウッドリーワンドが道を作るのは恐らくここで間違いないでしょう」


 「……つまり、泉の近くにいかなければ大丈夫?」


 「そう言うこと!色々調べていたのでバッチリです!」


 ……そんなに調べてるのに抽選が外れたときはショックだっただろうな。



 「では!行きましょう!」




 そういって俺達三人は鎧を着て出発した。


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