第31話 スロー村!
《スロー村》
山々に囲まれた、賑やかな雪の降る村だ。
季節を問わず、雪は村を覆い、屋根や木々は雪の重みに耐えている。
寒い中でも村人たちは厚着で身を包み、それぞれの役割に励んでいた。
「今回の依頼内容は《メルキノコの採取》です!」
そんな中でも、ユキは活気にあふれ、元気な声を発していた。
彼女の笑顔と明るい姿勢は、まるで村そのものに生命を吹き込むかの様に見える。
「…………」
「反応なしですか!?」
アオイと一緒に召喚された、【勇者】ヒロユキは、ユキと一緒にグリード王国の北に位置するスロー村へ、依頼を受けに来ていた。
国の中ならギルドで依頼を受ければその場で転移魔法陣に乗り、依頼主が居る町や村まで転移できる。
ちなみに違う国へ行く場合はギルドに申請を通してその国のギルドの許可が出るまで待たなければ行けない。
「……メルキノコって?」
「【メルキノコ】とは『メルピグ』の背中に寄生してるキノコです、最近冬が近付いて来ましたから、『メルピグ』が冬眠する前に一杯餌を食べて栄養を蓄えてるんです!おいしいですよ!ジュルリ」
ユキは、今から作る料理のイメージを膨らませ、その美味しそうな料理を思い浮かべ、よだれを垂らす。
「……ユキ、よだれ」
「おっと、つい、興奮してしまいました」
思わずでたよだれをローブの袖で拭き、気を取り直す。
こんなちんちくりんだが、異世界に来たヒロユキをちゃんとお世話している。
ヒロユキもユキの強さを認めていて言うことを聞きながら依頼を確実にこなしていた。
「……今回は危険?」
「『メルピグ』は今のヒロユキさんならそんなに危険じゃないでしょう、そうだ!」
ユキは閃いた!と感じで手をポンッと叩く。
「今回はヒロユキさんと誰か仲間を募集して連れて行ってください!」
「……」
「何ですか、その思いっきり嫌そうな顔は」
「……無理」
「無理じゃありません、それに日頃私が居るから安心して【武器召喚】できないのではないか?と考えます」
【武器召喚】……それが今のヒロユキの目標である。
【武器召喚】とは、この世界の神級魔法で、才能も有り努力もした人がたどり着く境地。
【勇者】は、その中でも特別な武器が召喚されるらしく、現在いない魔王が復活をしても太刀打ちできる程の武器らしい。
ちなみにユキもまだ会得していない。
「……別にユキが居ても居なくてもやることは変わらない」
「むっ!」
「……もしもユキが居ないせいで死んだらどうする?」
「それなら大丈夫です!危なくなったらこれに魔力を込めてください」
そう言ってユキは一枚の魔皮紙を出しヒロユキに渡す。
「……これは?」
「その魔皮紙には魔力を込めると私にSOSが来るようになっています!」
「……」
「とりあえず!その信号を頼りに私はすぐに向かいます、私は中級の転移魔法が使えるのでかなり早く到着すると思いますので!それまで耐えていてください」
「……わかった」
その説明を聞いてヒロユキは魔皮紙をポケットに入れる。
「ではギルドの中に入って、そこら辺に居るパーティーに声かけてきてください」
「……断る」
ここでヒロユキ断固拒否。
「ここまで来てなんで拒絶するんですか!」
「……面倒、1人で行く」
元々ヒロユキは他人に話しかけるのは苦手な性格なのだ、無理もない。
「キーッ!もういいです!私が捕まえてくるのでそこで待っててください!」
「……捕まえるって……あ」
ユキはヒロユキを無視してズカズカとスロー村のギルドの奥へ入って行った。
「……毎回怒ってるな」
ちなみに、ヒロユキは前にユキがこういう風に怒ってどこか行った時、そのまま置いて帰った事があり……その日の夜に本気でユキに怒られた事があるので、近くにあった長椅子に腰かけて待つことにした。
するとヒロユキの横に“シルクハットのうさんくさいおじさん”が座った。
「まいど、あら、これは初めてのお客さんですね?」
「……?」
「その様子だとたまたま座りましたね?あー運命、あなたはすごいチャンスに出会えました」
「……チャンス?」
「私は奴隷商人です、これの意味が解りますか?」
「……奴隷を売ってる人」
「そうです!今は在庫が少ないですがもう少し待てば極上の奴隷があがりますよフヒヒ、近々“ここ”で説明会があるのでどうぞ」
そう言ってスッと場所が書かれた魔皮紙をヒロユキに渡すがそれを受け取らず。
「……興味ない」
断った……それと同時にユキが用事を終わらせて帰ってきた。
「……そこで何してるんですか?」
氷のような冷酷さが、眼に滲み出ている。
「おや?お連れさんですか?あなたにも説明しましょう」
「いいえ結構です、『女神の翼』さん」
「ほーう?なぜ私たちの事を?」
「私情によりふかーい関係があったので、調べさせてもらってます、ここで会うなんて奇遇ですね」
ユキはそこで笑顔を見せてるが明らかに様子が変だ。
深い関係とユキは言ったが初耳だったのできっと会う前の事だろうとヒロユキは黙っている。
「……」
「どうやら、お嬢さん達はお客じゃないようですね、今日はおさらばさせて頂きます」
「良い判断ですね、これ以上私を怒らせたら焼き殺す所でした」
「怖いねぇお嬢さん、ではご武運を」
そういってシルクハットは立ち去って行った。
「……」
「……ユキ」
シルクハットが見えなくなるまでユキはその後ろ姿を見ていた。
「大丈夫です!さぁ用意が出来たのであっちの待合室に行ってきてください、二人捕まえてきましたから」
「……わかった」
そういってヒロユキは何も聞かず、ギルドの中に入っていった。
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