第30話 寒い登山!

 

 山道を歩き出したのはいいが、周りには背の高い森が茂り、太陽の光が幾分か遮られ、不気味さが広がる。


 特に何か居るわけでもないけど後ろから気配を感じるのでヒロスケとにぴったりくっついていた。


 人間が熊と出くわすだけでも命が危ないと考えるのに、ここではそれを遥かに凌駕する魔物たちが居る……そんなものが出てきたら俺にどうしろって言うんや!

 

 「ヒロスケ、魔物に会った時は頼むよ、お前のチートパワーで!」


 「クォー」


 大体こういう時の異世界アニメ定番と言えば味方がチートで「お前……そんなに強かったのか」って、驚く場面だよね……よし!驚く準備しとこう。


 「でも、まだ魔物に会ってないのは運がいいんだけど……死骸はいっぱいあるんだよね」


 木々の間には魔物の遺体が散らばり、それらはすでに腐敗し、悪臭を放っている。


 「いやー……軽くホラーだよね」


 初めは「オェ」と見るだけで、なんだか気持ち悪くなったり、吐き気を催したりしながら、なんとか足を進めていたが、段々とその光景に慣れてきてる自分の方が気持ち悪く感じる……いや〜人間って怖いね。


 「クォー……」


 「勘弁してほしいよね、死体とか……あの日を思い出しちゃうよ」


 あの日って言っても女の子の日じゃないよ?

 

 俺の異世界人生がまるっと変わった馬車での出来事。


 さっきまで生命を宿し、自在に動いていた人間が、あんな有様に変わる光景は、軽くトラウマになってる……元の世界に戻ったなら、人を殺すゲームとか出来ないなこりゃ……


 「あんなのはごめんって奴だね」


 「クォ?」


 「それはそうと、日が沈む前に寝床を確保しないと!」


 今は何時だろうか?時計を持っていないからわからない。

 外はちょっと温かいようだけど、ずっと地下にいたから、生活リズムが崩れてる。




 ____そのまま“山道”を通っていると綺麗な泉に出た。




 「ヒロスケ!水だよ水!やったね!」


 「クォー!」


 美しい泉が目の前に広がり、その清らかな水に魅了されるようにヒロスケが走っていき、清冽な水をくちばしですくい、その爽やかな味わいに感動しガブ飲み始めた。


 「うんうん、美味しい?」


 「クォ!」


 うん、有毒性のある水じゃないみたいだね、毒味おっけー……いや、たまたまヒロスケが先に飲んだからね?決して待ってた訳じゃないよ?

 

 「よーし!じゃぁ僕もいただきます!喉カラカラだよー」


 アオイは繊細な手つきで水を掬い上げ、彼女の指先は、まるで優美なバラの花びらが風に舞うような美しい動きを見せ、水面に触れる瞬間、その指は優雅に水をすくいあげる。


 そして、口に含んだ水を一口飲む瞬間、彼女の美しさが一層際立ち、泉のそばでは水のせせらぎが穏やかに響き、この絶世の美女と自然が調和する幻想的な瞬間が広がっていってるように見えてるのだが__




 うまい!テーレッテレー!




 本人は何も気にせず頭の中で某ネルネルお菓子のCMを思い浮かべていた。



 「水だけなのにすごく美味しく感じるね」


 「クォー」


 渇いた喉を潤すため、まるで砂漠の旅人が水を発見したみたいに2人でがぶ飲みしてると泉の水面から、何かが水しぶきを立てて「ザバーン!」と現れる音が響いた。


 「ブァバ!?な、なに!?」


 顔を上げて前を見ると__



 「35番じゃないカロか!こんな所で何してるカロ?」




 丸裸のトカゲさんがいた。






 「オエエエエェ!」



 

 「な、どうしたカロ!何か悪いものでも食べたカロ?」


 「ち、ちょっと色々とね」


 トカゲの下半身汁をちょっとね……


 「気をつけるカロよ、食べられるキノコと食べられないキノコは知ってないと区別がわからないカロから」


 「ある意味キノコ汁を……って、それより32番さんもこんな所で何してるの?」


 「看守に連れられて檻から出たらここだったカロ、そして魔皮紙を渡されてメルキノコを取ってこいと言われたカロ」


 つまり、全く俺と同じ境遇って事か?


 「あ、僕もだよ……でも、どうせなら僕も同じ所に転移させてくれれば良かったのにね?」


 「そこは孤独を感じさせて恐がらせてるとか、かもしれないカロ、あいつらの事だから何か意図があって別々の場所に転移させた可能性カロ、まぁ、そんな事考えても仕方ないカロ」


 それが狙いなら確かに効果的だったな。


 「ただ問題があるカロ」


 「?」


 「水がある場所じゃ無いとサカムサを移動できないカロ」


 泉の透明な水面から、泳ぐ魚のヒレが時折見えるが、あれはヒロスケ達と同じくトカゲさんが育ててるウーリーシャークの物だろう。

 

 「そっか……水ないと無理だもんね」


 「そうカロ、どうしようか泳いで考えてたカロ」


 「うーん、確かになぁ」


 2人で話をしていたその時、まるでお腹が答えるように、お腹はぐうっと大きな音を響かせ、その音の恥ずかしさで顔を赤らめさせた。


 仲間に会って安心したからかな?お腹すいた……


 それを聞いてトカゲさんはカロカロ笑って


 「お腹すいてるカロ?それならさっきサカムサが魚魔物を取ってきてくれたカロ」


 と、嬉しい情報をくれた!

 サカムサナーイス!


 「ほんと!?お魚なんてほんと久しぶりに食べ__」


 「はいカロ」



 ぐちょ



 「はい……?」


 さ、魚?

 あぁ、なるほど、魚“魔物”ね……はいはい。


 ……ってなわけあるかぁ!


 目の前に置かれたのは目が飛び出てなんかデロデロした魚?というか何かの腐りかけの死骸だった。


 「つ、ついでにこの魔物の名前とかあるの?」


 「んー、これは見たことないカロ、だけどさっき食べて大丈夫そうだったから大丈夫カロ」


 それってまだお腹に来てないだけでは!?


 ん?待てよ?食べたって事は?……まさか!


 「どうやって食べたの?」


 「ん?普通に火であぶって」


 「火!火の魔法つかえるの?」


 「出来るカロ」


 「ほんとに!?すこしまってて!」


 俺はがんばってそこら辺にあった枝を集めた。


 ほんとに頑張った!この為に!


 「こ、これに火をつけれる?」


 「つけれるカロ」


 トカゲさんの手から火が放たれ、枝に触れると、火花がボッと立ち上り、パチパチと小さな炎が枝に飛び移る!


 「やった!火!確保おおぉ!」


 「ど、どうしたカロ」 


 「今君は僕の命を救った」


 とりあえず今日の夜は凍え死ななくて済むぞ!


 この魚は焼いてみよう、焼いたらなんでも食べれるよね?



 指で触れた瞬間、表面はぬるりとして、泉の清冽な水で洗い流そうとするものの、その不気味な感触は排除できなくて断念……仕方なく、綺麗な枝を2本口からぶっ指して焚き火にあてて焼くと見た目の割に焼いた魚の芳醇な香りが広がりだした……じゅるり……ええ匂いするやんけ。






 「いっただっきまーす!」








 …………意外とイケる!!







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