漆
夜露に濡れる草木が生い茂る森の中に、その寺はひっそりと建っていた。
建立されたのは、今からおよそ三百年も前のこと。仏教が伝来してから数百年、この国でも仏教のさらに傍系ともいうべき宗派が数々生まれたが、その頃に建てられた寺のひとつという話らしい。
当時は有難い法を説く坊主や、それを有難く拝聴する信徒がいたのだろうが、それから三百年。仏教という教えを以てしても、異国から敵が押し寄せたり、幕府が倒れたり、また京の都で火の手が上がったりということで、当時ほど人々はそこに救いを求めなくなっていた。
そうして、この寺は人々の記憶から徐々に忘れられ、辺りに住まう人もいなくなり、結果廃寺として朽ちていったということらしい。
「それを密談場所として使っている、というわけですか」
「何ヶ所かそういう人が立ち寄らないような場所を抑えてるけど、ここが一番花咲城に近いんだよね。帰りにあんた、城に送り届けるのにも都合がいいし」
「え。別に、送って頂かずとも、ひとりで……」
「またぶっ倒れたいの? 懲りないねぇ」
若葉色の紗を脱ぎながら、
「結構、イイ性格してますよね」
「あんたが言うな、あんたが」
直鷹の瞼が半分ほど落ち、呆れたような感情を向けてくる。その拍子に、ツ、と流れ落ちる首筋の汗を手のひらで拭いながら、ふ、と肩口に辺りで鼻を鳴らした。
どうやら少年の熱気で温まったのか、肩へと担がれていた阿久里の残り香が宙へと溶けたらしい。
(変な人、よね……)
睫毛の先にいる少年を評するなら、まさに「変人」だと阿久里は思う。
見ず知らずどころか、立場を考えるならば敵対する家柄にある女を助けたかと思えば、かといって別に敬うでもなく、揶揄いの言の葉を口にする。
(別に、敬って欲しいわけでもないから、いいのだけれど)
「そんなわけで、
先ほどまでの戯言の空気を断ち切ったかのような声で、すでに先に廃寺へと辿り着いていた乳兄弟に向かって、直鷹は阿久里を示した。
最初は「榊殿」や「姫君」などと呼ばれていたが、呼び名以外の扱いがぞんざいであり、公の場でもないのに畏まられる事は面はゆく――有体にいえば、いまさら畏まられても気持ちが悪いので、やんわりと辞退した。その結果、ここへとたどり着くまでの間に彼からの呼び名は「榊」に定着したようだ。
恐らく幼名で呼ばれたのだろう於勝という少年はやや不服そうに眉根を寄せながら、埃まみれの板間へ気にすることなく正座する男装の少女へと、頭を低く下げてきた。
「榊の姫君ですね? 話は若より聞いております。御初にお目にかかります、
「こちらこそご挨拶が遅れまして申し訳ございません。
流れるように挨拶をし、床へと突いた指を再び膝へと上げると視界の端で軽く目を見張る直鷹の姿があった。何か変な事でも言っただろうか、と今の口上を脳裏で再度呟くが、今度こそ諱を零す事もなかったし、問題はなかったはずだ。
「何か?」
「いや、別に?」
直鷹は頬へと広がっていた笑みを解くと唇の角度を元に戻し、そのまま板間へと胡座を組んだ。紗の打掛がふわりと空気を含みながら埃にまみれた板間へと舞い、よく知る香のにおいが鼻腔を擽る。
「で、次の火付けはどこだった? ここに来るまでの間、そういった騒ぎは見かけなかったけど」
直鷹が、燭台の下へと花咲城下近辺の地図を置き、乳兄弟の少年へと訊ねた。地図には花咲城を囲むように三ヶ所に朱で印と日付が書かれている。
阿久里は「あら?」と軽く睫毛を羽ばたかせた。まったく同じものではないが、こういったものをどこかで見た記憶がある。
(どこでだったかしら……)
あれは、確か――。
「いえ、若の言いつけ通りあの後、奴らを追ったんですけど……火付けをせずに屋敷に入っていきました」
「あ、戦の陣形図……!」
床へと置かれた地図へ視線を落としたまま、阿久里はふと思い出したように呟いた。いつぞや、屋敷を抜け出し、古い書庫置き場で見かけた図は恐らく榊家の先祖に当たる人の参加した戦だったのだろう。場所こそ違えど、こうして城を取り囲むように朱で印がつけられている辺り、よく似ている。
なんとなく心に引っかかったモヤが解消出来て、思わず笑みを食んでいると、周囲に無言が広がっていることに気づいた。ふ、と持ち上げた視線の先には、乳兄弟である主従が無言のまま視線を少女へと突き刺している。
少女は、「あ」と、口元を指で押さえた。
「…………あの、話の腰を折りました、か?」
「まぁ……折られたっていうか、話を聞かれていなかったというか」
「あの、申し訳御座いません。聞いていなかったわけではないのですが、つい思ったことがそのまま口からぺろっと……」
「榊ってさぁ、言葉遣いは丁寧だけど、思ったことは割とそのままいうっていうか……配慮って言葉が存在しない人だよね」
直鷹の瞼の上には、呆れの感情が貼り付いている。
けれどそれが全くイヤミなものに感じられないのは、きっと持ち上がった口角に自身への嫌悪がないからだろう。
「…………まさに、いまのあなたほどではないと思いますけれど……」
「いーや、意外と負けず嫌いだし、イヤミのひとつを浴びせるまで絶対引かないでしょ」
「まぁ、それは否定はしませんけれど」
「何ていうかさぁ、暖簾に腕押しどころか一人で暖簾相手に相撲しているような気分になるな……」
「あの、話……、進めて宜しいでしょうか……?」
恐る恐るといった体でかけられた声へと視線を向ければ、直鷹よりも一層呆れをその
もっとも、その不毛な争いに自分が含まれていることは、遥か高い場所へと置いておいた。
「あ、そうでしたね。申し訳ありません……牧野どの」
「姫さま、俺のことは恒昌と呼び捨て下さい」
「でー、どこの屋敷に入って行った?」
急に声音を落としながら黒髪の少年は乳兄弟へと訊ねる。先ほどまでの戯言めいた響きが一切感じられないそれに、何となく釈然としない想いを胸に宿しながら視線を彼へと向けた。直鷹は、似たような阿久里と恒昌の視線を感じているだろうに、さらりと無視すると再度燭台下の地図を見遣る。
「お気づきだとは思いますが……水尾本家のお屋敷です」
「だろうねー」
少年は短く答え、無骨な指を口元へと持っていく。
水尾本家の屋敷は、榊家の守護代を務める筆頭家老として花咲城の一番近くに大きく構えられている。花咲城と水尾本家の屋敷、その間にある朱印で記された火付けの現場。いくら夜間とはいえ、門戸には常に警備の者をそれなりに置いている水尾家近くを通り、いまは放置されているとはいえ榊家のものである空き家に放火するなど、単なるならず者に出来ることではない。
問題は、水尾家に出入りをする「誰か」なのか、それとも水尾本家が直接関わっているのか。
「そう言えばあの人、私の香が荷葉ってことに気づきましたよね」
阿久里は結い上げられている自身の髪を一房持つと、そう呟いた。一瞬の間を置いて、彼女からふわりと焚き染められた香が広がる。
――……荷葉、か……?
確かに、あの時彼はそう言っていた。
「恒昌、わかるか?」
「いい香りだとはわかりますけど。俺には名前まではちょっと……」
「香の名前を当てるとなると、普段から香を聞くような生活をしている人間ですよね」
「つまり、水尾本家に出入りしているどこの馬ともしれないような人間ではなく、教養がそれなりにある人間――つまりは、水尾本家の誰かってことだな」
直鷹は、指を口元から地図へと移し、朱印をトン、トンと場所を確認するかのように指で弾いていく。空気が揺れ、少年の顔を照らす燭台上の蝋燭が不安定にゆらゆらと形を変えた。
「榊さー」
地図へと視線を落としていた直鷹が、阿久里へと睫毛を向ける。少年は琥珀色の瞳と自身のそれが重なり合うと、視線をそのままに指で地図をトン、と一度叩いた。
「さっき、これを陣形図みたいだっていったじゃない」
「はい、いいましたが……?」
「俺も、これは籠城戦の陣形図だと思う」
阿久里が驚きに目を大きく見開くと、少年は唇を吊り上げる。少女の反応に笑みを刷いたというよりは、まるで戦場において新たな作戦を思いついた軍略家のような、野生の獣が獲物を前にしてするかのようなそんな表情だった。
「はっきりいおうか? これは、榊家への水尾本家の謀叛の話だよ」
恒昌は、懐からより詳細な花咲城の地図と木製の陣模型を取り出すと、主たる少年へと手渡す。直鷹はそれを受け取ると、ザ、と地図をその場へと広げた。
先ほどまでのものと同様、朱印が刻まれた三ヶ所に陣模型が乾いた音を立てながら置かれていく。みるみるうちに、地図の上には花咲城を攻めようとする敵軍の姿が浮き出された。
阿久里の喉が、知らずコクと音を鳴らす。
(花咲城は――)
鳴海国現当主・榊鷹郷が建てたものではなく、彼の祖父の時代に建てられた城で、もとは
もともと曲輪としての建造だったため、堀や櫓などはもちろん存在したが、阿久里の父である鷹郷の「無粋だ」という一言でそれらを撤去したため、直鷹をもってして「危機感に欠けた」と称される城が出来上がった。
そのため、城下町からそのまま駆け上がればやや急な坂である以外何の守備工夫もなされていない
普段より危機感の薄い父親だとは思っていたが、こうして改めて城を見てみると如何に危険な場所に住んでいたのかがよくわかる。あの城で侵入者対策をしている箇所など、自分の屋敷周辺に撒かれた敷石くらいではないだろうか。
もっとも、この国で一番尊い家である守護大名家を奇襲しようとする輩など、そうそういるものではないし、その心配は本来杞憂ともいうべき類のものなのだろうが。
(あ、でも……そういえば)
自身の屋敷周辺にあるもうひとつの「名物」を思い出し、阿久里は睫毛を黒髪の少年へと向けた。
「あの……。肩裾模様の打掛にある花って、曼珠沙華ですよね?」
「あぁ、なんかさっきも言ってたね。曼珠沙華がどうだかって」
「あの日の明け方……にもなっていない夜明け前の話なのですけれど。お父さまが火事のことを私に告げに来たんです。曼珠沙華を現場で見たから、お前じゃないのかって」
直鷹が隣に座する乳兄弟へと視線を向けると、恒昌は眉毛の間に少し皺を刻みながら「知らない」と言うように、小さく首を振った。
「あんたの住まう屋敷に、曼珠沙華が咲いていたから?」
「ご存知なのですか?」
「二年前に花咲城にいったことあるっていったろ。その時、見かけたんだよ」
「あぁ、なるほど……。そうですね。火事の異名にもなっていますし、あの城で曼珠沙華っていったら私のことなので、仕方がないともいえなくもないんですけれど……」
阿久里が物心ついた時にはすでに、曼珠沙華の花が彼女の住まう屋敷を囲むように咲き乱れていた。誰かが意図的に植えたのか、それとも野生に群生しているものがたまたまそこに根付いたのか。
どちらにせよ、この狐の如き
「へぇ。
「そうなのですか?」
「年中あの打掛をお召になっていたら、そうも呼ばれますって」
「なるほど……。ところ変われば、ですね」
「でも曼珠沙華が咲く季節って……彼岸のころだから、秋口? こんな時期に見かけるのっておかしくないですか?」
恒昌が常日頃から曼珠沙華を纏う主へと視線を投げかけながら、大して興味のないだろう花の記憶を辿るように、視線を宙へと彷徨わせる。
「確か、夏の盛りが過ぎた秋口くらいに見かけた気がしますけど……で、いつの間にか花がなくなって……って、あれ? そもそも、この時期って曼珠沙華、ありますっけ? あれ??」
「ありません。花は秋口に咲きますが、冬は葉のみです。そしてその葉も冬が過ぎれば落ちてしまいますから」
「あー、そうなんだ……。だから冬場は見かけないんですね」
「火事現場で、曼珠沙華を見たものがいる――と。そんな話がお父さまの元へと上がってきていますけれど……普通に考えれば、犯人が流布した噂話なんでしょうね」
「でも、なんのためにそんな要領を得ない噂を流したんでしょうか……」
「もし何かしくじったときに『曼珠沙華』に責任を転嫁出来るようにって腹積もりだったんじゃないの。なんかその割には、随分と抽象的なふわふわした話だけど」
「確かに、責任転嫁するなら最初からもっとはっきりとした証拠を残せばいいのに……」
噂を流布出来るだけの人海戦術を駆使しているのならば、最初から誰にでもわかる証拠を残せばいいのに、それをしないのは確かに不自然だ。
「例えば、最初から火付け犯が特定できてしまうと、困ることでもあったのでしょうか……」
阿久里が唇に指を当てながら、ぽつりと疑問を落とせば、しばらく地図へと視線を落としたままにしていた直鷹がはっと顔を持ち上げた。
「あー、はいはい。なるほどね。それはあるかもな……」
どういうことかと顔を見合わせる阿久里と恒昌へと、少年は頬の位置を高くしたまま歯を見せる。
「犯人が早急に特定されてしまえば、いずれ花咲城下の管理を任されているだろう水尾本家にしろ犯人を捕らえなきゃならなくなる。でも火付けをしている張本人が水尾本家なんだから、それは都合が悪いって話だね」
「なるべく、火付けの期間を引き延ばしていたってことですか? でも、そこまでしながら、今日付け火をしなかったのは……?」
「多分……燃やすことだけが目的じゃないからな」
直鷹は地図の脇に置かれた陣模型をひとつ手に取ると、まるで子供の遊びのようにそれをポンポンと宙へと投げながら、事もなげに言い放つ。阿久里の柳眉がやや顰められたのを視界の片隅に確認すると、陣模型を投げていた手を止めた。
「さっきここに来る途中、榊が狼煙を上げるのかっていった時に気付いた程度だけど。多分、今回の火事は謀叛の準備を知らせる狼煙の役目――もしかしたら、計画は進んでいるんだと知らしめるって意味合いもあるんだと思う」
「まさか他に、共犯者がいると……?」
恒昌が目を丸くしながら主君の少年へと訊ねると、直鷹は「多分な」と短く答えた。
「でも火付けをしてまで、狼煙を上げる必要があったんですか?」
いかに火付けをしたのが空き家だとはいっても、腐っても守護大名家の出城ともいうべき建物である。それに、このご時世、勝手に住み着いている輩がいる可能性もないわけではない。
何より誰かに見られていたら、それこそ全てが水の泡だ。共犯者への合図のためにそこまでの危険を冒す必要があるのか。
眉を顰めながら訊ねる恒昌に、主たる少年は額にかかる前髪をやや乱暴に掻き上げながら、唇を一度舌で湿らせた。
「恐らく、狼煙だけが目的じゃないからね。むしろ火付けも狼煙も両方大本命」
そして手のひらにあった陣模型を無骨な指でつまむと、まるで将棋を指したかのように、小気味よい音をたてながら木製のそれを地図の上へと置く。
「で、俺の勘が正しければ、次の火付け場所はここ」
地図上に示されたのは、花咲城の搦手近くの森の中。城の搦手という場所柄故か、辺りには何も目立ったものはなく、そのまま国境の山へと繋がる森だった。
ある、ひとつの建物を除けば――。
阿久里は地図の中にある小さな記述を見つけ、思わず前かがみに見下ろす。さらり、と癖のない
「って……ここは」
「そ、
顔は地図を見下ろしたままやや上目遣いに睨むように、けれど唇の端は持ち上げながら直鷹は阿久里に笑う。阿久里が地図へと前かがみになっていたせいで、想像以上に少年の顔が近く、ふっと零れた直鷹の笑みが少女の前髪を揺らした。
阿久里から香ったのか、それとも彼への移り香か。
不意に、香が辺りへ広がった。
黒曜石の瞳と、琥珀色のそれが近い場所で交わり合う。
あまりに近い距離に、阿久里の表情が一気に凍りついた。どこをどう見ればいいのかわからない瞳がぎこちなく直鷹から逸らされる。
(なんでかしら)
あの夜の闇のように黒い瞳を意識すると、途端に思考が白く染まる。
息の仕方を、思わず忘れそうになる。
(どちらが上で)
どちらが下なのか、わからなくなるほどに。
他者とは触れ合わない生活を長く送っていたせいで、こうして実際にぶしつけに距離を詰めてくる人間との関わり方がよくわからない。
わからないから、苦しくなるのか。
けれど、もっとわからないのは、こうして距離を詰められることを苦しいと思うのに、嫌だとは思わないということだ。
(だから)
どうしていいのか、困るのだ。
阿久里がゆるゆると直鷹から逃げるように視線を反らすと、堂内に巨大な影を落とす如来の姿が不意に飛び込んできた。
(って、え。まさか……)
少女が再び彼を見遣ると、少女の混乱ぶりなど気にもしないかのように入口の格子戸へと視線を向けている。防寒のためか、それとも蝋燭の灯りが漏れないようにするためか、内側より戸が閉められているため外の様子は窺うことが出来ない。
しかし、直鷹だけではなく乳兄弟の少年も頬をすっと引き締め、いつでも動けるよう中腰の状態になっていた。恐らく、阿久里が気づかないだけで、外には「何か」の気配があるのだろう。
「あの……まさか、とは思いますが……」
阿久里は格子戸と仏像の姿を交互に見ながら、少年たちへと声をかけた。常識的に考えて、仏像がおわす聖域である寺を焼こうなどとは正気の沙汰ではない。阿久里は別段、信心深い
直鷹は、一度阿久里へと視線を向けると悪戯をしかけた子供のような笑みを浮かべる。
「恒昌」
そして阿久里の問いには答えることなく、短く乳兄弟の少年を呼んだ。恒昌は視線だけ主へと向け頷くと、そのまま燭台にある蝋燭に軽く息をかけ、吹き消す。焦げるような匂いが鼻腔へと届いたのとほぼ同時に、直鷹は紗の打掛を阿久里の頭から被せ、そのまま少女を肩へと担いだ。
「……あ、の。言ってくだされば、自分で歩けますが」
少年は阿久里からの言葉には返事をしないまま、暗闇に包まれた堂内を勝手知ったるように歩を進め、中央奧に座する如来の脇で少女の痩躯を再び板間へと降ろす。しかし阿久里の肩は打掛越しに少年の無骨な指がしっかりと押さえ込み、入口の格子戸から死角となるような位置へと座らせた。
「いま、外にいるのですか?」
吐息に僅かばかりの音を乗せ、阿久里は訊ねた。暗闇の中、直鷹の顔は確認出来ないが、恐らくこちらを向いたのだろう。
「さて、ね」
直鷹は外連味たっぷりといった声音で返事をする。やや高めの若い男子特有の声が、鼓膜に響くより先に肌に触れることに、阿久里は身を固くした。
「まぁここまで来たからには、一連托生。見捨てないから、安心しとけって」
少女が身体を強ばらせた理由を火付けへの恐怖と受け取ったらしい少年は、鼻先に苦笑を滲ませながら、肩へとやっていた己の手のひらを打掛を被った少女の頭へとポンと置く。
ほぼ同時に、堂内の格子戸が開かれた。
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