第9話  活動動機

 ブルーローズ三人の卒寮は四日間引き延ばされた。

 研究員たちが三人の話を聞きたがったからであり、三人が落ち着くまで話を聞ける状態ではなかったのもある。

 俺は部屋で一人、C世界のパソコンで招田先輩が投稿していた曲を探していた。


「あった」


 おこた蜜柑Pという投稿アカウントを見つけて、投稿作品一覧を見てみる。全部で十七曲、黒塗りの画面に歌詞が浮かんでは消えるだけ。

 ヘッドフォンを被って聞いてみる。


「やっぱり上手いな」


 上手いけど、ブルーローズの演奏を聴いている身からすると物足りない。

 歌詞のセンス、言葉選びの癖が微妙に違う。

 招田先輩のギターの音の丸みがDTMの電子音では表現できていない。

 強弱がはっきりした仲葉先輩のドラムが恋しくなる。

 ベースに至っては人と電子音声の違いが如実に出ている。鬼原井先輩の全体をフォローしながら輪郭をはっきりさせていく低音とは次元が違う。


 招田先輩が作っただけあって様々なエフェクトを駆使して実際の演奏に近づけてはいるけれど、生演奏とはやはり違う。

 招田先輩に頼まれて複製した文化祭用のDTM曲を再生してみる。やはり、生演奏とは質が違う。こればかりは仕方がないのだとしても……。


「もうブルーローズの演奏は聞けないのか」


 本人たちには不本意な形での解散だ。

 ここ最近は毎日サクラソウに響いていた演奏ももう聞こえない。

 それどころか、サクラソウは静まり返っていた。

 こんなに日に必ず動き出す笠鳥先輩や戸枯先輩も部屋にこもっているようだ。


 遍在者のジレンマについてはすでに研究員から寮生に周知されている。

 俺が知る限りでも、あの仮説は理にかなっていた。


 C世界出生でB世界遍在の三依先輩はネリネ会の会員として、B世界出生の七掛や古宇田先輩と長く活動していた。

 A世界出生でB世界遍在の屋邊先輩はB世界のボス猫ニャムさんとずっと一緒だった。

 ブルーローズの三人は言わずもがな。


 俺よりも多くの別れを経験している寮生たちはなおの事、実体験として仮説の正しさを理解しているだろう。

 だから、みんなどうすればいいのか分からなくなった。


 部屋に閉じ籠っていても気が滅入るだけだと、俺は薄手のジャケットを羽織って部屋を出た。

 もう日は落ちているが、散歩にでも行って気分を変えたい。

 変わるかは、分からないが。


 玄関で靴を履いていると、部屋から七掛が出てきた。

 目があった七掛は困ったような顔をして廊下を見回してから歩いて来る。


「七掛も散歩か?」

「……そう」


 いつもより目の下のクマがはっきりしている。疲れてるな。多分、心の方が。


「一緒に行くか?」


 提案しては見たものの、七掛は首を横に振った。まだジレンマについて整理できないのだろう。

 七掛が靴を履くまで待って、一緒にサクラソウを出る。門で二手に分かれる直前、七掛が静まり返ったサクラソウを振り返った。


「……ネリネ会に所属したのはこんな空気を守るためではない。ネリネ会の存在意義すらなくなった」


 仲良くなるほど遍在者ではいられなくなって別れの時期が早まるのなら、嵐が過ぎるのを待つように誰とも関わらずに生活するのも一つの正解なのか。

 もしも、かつての屋邊先輩のようにみんながそれを正解として選ぶのなら、同窓会をする意味がなくなる。

 同窓会を行うために活動していたネリネ会の存在意義も、七掛が言うように無くなってしまう。


「……温室は女子が管理することになった」


 現在、サクラソウの女子は七掛、戸枯先輩、由岐中ちゃんの三人。ちょうど閉鎖環形が作れる形だから、温室も全世界分の管理ができる。

 けれど、あの温室の存在意義は百日草や日日草を卒寮生に贈るというもの。花の意味を考えればネリネ会同様、存在意義は薄れていくかもしれない。


「七掛は、もう花を贈ったのか?」

「贈った。花瓶が一杯になっているから、酷く豪華」

「あぁ、酷いよな」


 七掛と別れて山道を下る。

 中腹にあるお堂への階段を上りきり、財布を取り出そうとした時、先客を見つけた。


「仲葉先輩?」

「……榎舟君」


 泣きはらした目をこちらに向けた仲葉先輩は恥ずかしそうにはにかんで、顔を伏せた。


「榎舟君もお参りですか?」

「そんなところです。ちょっと気持ちの整理をつけに」

「気持ちの整理、ですか」


 仲葉先輩はお堂の広縁に腰かけると、隣をポンポンと手で叩いた。

 座れ、という意味だろう。

 大人しく指示に従って仲葉先輩の隣に座る。

 仲葉先輩は俺が座るのを見届けてから、階段の方を眺めつつ口を開いた。


「泣きはらしたこんな顔で言っても説得力がないかもしれませんけど、私は楽しかったんですよ」


 三依先輩も言ってたな。


「慧ちゃんにバンドに誘われた時は、ちょっとおかしい人なのかな、とも思いましたけど」

「あの人がとびきりおかしい人なのは間違ってないと思いますけど、どう誘われたんですか?」


 仲葉先輩は苦笑気味に鬼原井先輩の声真似をする。


「人の歩く速度は一定。大きな胸が揺れる速度も一定。したがって、巨乳はリズム感がいい。ドラムをやってみない?」

「最低だ、あの人」


 もっとマシな誘い文句がいくらでもあるだろうになんて言葉選びのセンスだよ。

 仲葉先輩も否定しなかった。流石に最低な誘い文句だと思っているらしい。


「でも、実際にドラムを叩くのは楽しかったですし、まだ誰も知らない凛ちゃんの曲を三人で形造っていくのは面白かった。もしも、また遍在者になってそこに慧ちゃんや凛ちゃんがいたら、必ずまたバンドを組みますねぇ」

「また一般人に戻るとしても、ですか?」

「覚悟はしていましたもの。別の世界に生きていて、本来なら出会うはずもなかった。いつか必ず一般人になって解散することになると分かってもいた。それでも、私はバンドを組みました。同じことですよ」


 仲葉先輩が立ち上がる。


「文化祭は残念でしたけど、楽しかったのは本当ですから。帰りましょうか?」

「……俺はもう少し散歩します」

「あんまり遅くなったらダメですよ?」


 階段を下りていく仲葉先輩を見送って、俺は賽銭箱に五円玉を入れる。

 ご縁がありますように。

 そう願って、友達が出来て、その結果がこれ――


「素直に感謝できないなぁ」


 恨む気にもならないからここに来たんだけど。

 俺は立ち上がり、お堂を背に階段を下りる。

 いまから帰ろうとすると仲葉先輩に追いついてしまうそうだ。なんとなく一緒に帰るのが気まずくて時間をずらしたんだけど。


 いま海に行くと鬼原井先輩と鉢合わせそうなんだよなぁ。

 ……行くか。

 海に近づくにつれて弦楽器の音が聞こえてくる。

 けれど、ベースではなくギターだ。


「鬼原井先輩がいるかと思っていたんですけど、招田先輩とは予想外です」

「残念だったね。慧ならたぶん、相真君の部屋の前で放置プレイは好きじゃないとか呟いてベースを鳴らしてるよ」

「うわぁ、想像できる」

「まぁ、座りなよ。師匠に付き合う前に私と話しても罰は当たらないさ」

「さっきお堂に行ってきたので、どの道罰は当たらないと思いますよ」

「そっか。私も後で行こうかな。良縁をありがとうって感謝を伝えにさ」


 ……仲葉先輩がお堂にいたのってもしかして。

 いや、詮索はよくないか。

 砂浜に座ると、招田先輩はギター演奏を再開した。


「タイミングが最悪だったね。せめて文化祭くらいは楽しませてくれてもいいのにさ」


 もう諦めがついているのか、多少の悔しさをにじませつつも招田先輩は小さく笑った。


「相真君と七掛ちゃんにも悪いことしたね。打ち上げの準備までしてあったんでしょ?」

「えぇ、実はケーキの予約もしてました」

「それは初耳」

「D世界のケーキなので、俺には見えないんですけどね。七掛が用意してましたよ」

「そっか。七掛ちゃん、太っちゃうね」

「ははは、全部は食べないでしょう。笠鳥先輩とかにおすそ分けするんじゃないかな」

「――おすそ分け、できる?」


 招田先輩の質問に思わず口を閉ざす。

 俺の反応に肩をすくめた招田先輩は続けた。


「D世界が観測できなくなって今は相真君と由岐中ちゃんと鴨居しか見えないけどさ。分かるよ、今のサクラソウがどうなってるか」

「……ご心配おかけします」

「いやぁ、こっちこそごめんね。こんな置き土産を残すのは不本意なんだけどさ」

「先輩たちのせいではないですよ」


 むしろ、先輩たちも被害者だ。

 招田先輩が空を見上げた。


「みんなの考えることも分かるんだけどさ。そんなに難しく考える事でもないと思うんだよね」

「と、いうと?」

「だって、どう関わろうと関わるまいと、別れが来るのは確定事項で、今までと変わらないわけじゃない」

「その期間が長いか短いかって重要な問題だと思いますけど」

「――青春は短いよ」


 言い切って、招田先輩は微笑んだ。


「短くて楽しい青春だ。長く怯えるのは青春ではないし、もっと言えば、生きているとすら私には思えない」

「みんながみんな、そう割り切れるものでもないですよ」

「私は海に叫んだよ。相真君はどうする?」


 海を指さされても、叫ぶようなことは何もない。

 ちょっと残念そうにした招田先輩はギターをケースにしまって立ち上がった。


「それじゃ、私はお参りしてこようかな。相真君はそろそろ寮に帰った方がいいよ。じゃないと、慧が扉を破って相真君のベッドにもぐりこむから」

「冗談、ですよね?」


 やりかねないのでそろそろ帰ろうかな。


「慧は相真君を気に入ってるからねぇ。私も気に入ってるよ。同じC世界出生だったら、バンドを組んでもよかったくらい」

「鬼原井先輩の代わりにはなりませんよ?」

「当たり前だよ。良くも悪くもね」


 後ろ手に手を振ってお堂に向けて歩いていく招田先輩と別れ、俺はサクラソウへの道を上る。

 木々の合間に海を見透かそうとして見たけれど、暗すぎて無理だった。



 部屋の前で鬼原井先輩がベースを鳴らしていた。

 いまは静かなサクラソウで、鬼原井先輩のベースは自己主張が激しい。


「なんで、カゴメなんですか?」


 誰しも聞いた事のある童謡かごめ。物悲しい曲なのにテンポ百五十くらいで弾いているから余韻も何もあったもんじゃない。

 しかもアレンジが入っている。籠の中で踊っていそうな明るい曲になっていた。


「おや、相真後輩は外にいたのか。てっきり中で踊っているんだと思ってBGMをつけてたのに」


 けらけら笑う鬼原井先輩はなおもベースを弾く手を止めない。


「みーんな引き籠っちゃってつっまんないの。相真、中に入れてー。アイスの食べ収めしようぜぃ」

「溶けてません?」

「もう一回凍らせればいいじゃん」


 どんだけ長居する気だよ、この人。

 鍵を開けて中に入れると、鬼原井先輩は「ひゃっほー」とか言いながら俺のベッドにダイブした。

 図らずも招田先輩に予言されていた俺は動揺することなく、鬼原井先輩が放り投げた半解けアイスを冷凍庫に入れる。


「それで、ご用件は?」

「ベースの最後の練習、つまりは免許皆伝に足るかを見極めに来たのじゃ。かっかっか」


 それ、枕に抱き着いてベッドの上をごろごろしながら言うセリフ?


「かっかっか――痛っ!?」

「リアルにベッドから落ちる人なんて初めて見ましたよ。かなり間抜けな絵面ですね。もう一回やってもらっていいですか? 久々に油絵を描きたくなってきたので」

「描き残すな!」


 あんな風にバランスが崩れるんだな。枕を下にしてクッションにするべきか手を突くべきか、ベーシストだけあって手を痛めたくないという葛藤も見え隠れして実にドラマチックな落ち方をしていた。


「貴重な経験でした。ありがとうございます」

「まだベース練習の締めが終わってないのに変なとこで感謝するな!」


 まったくもう、と鬼原井先輩は枕を尻に敷いて不機嫌そうに腕を組む。どうでもいいけど、俺の枕なんですけど。

 鬼原井先輩がベッド横に置いていたベースを持ち上げる。


「では後輩君、君の真価を見せてもらおうか」

「何を弾けと?」

「『都忘れ』」


 よりにもよってその曲か。

 初めて鬼原井先輩に教わった、ブルーローズの未発表曲だ。今回の文化祭でのトリを飾る予定だった曲。

 ブルーローズが実質的に解散となった今、永遠の未発表曲となった。


「ほら、弾いてごらん」

「いいんですか?」

「もちのろんろん」


 渡されたベースで『都忘れ』のワンフレーズを弾く。

 鬼原井先輩はうんうん、と頷いて、偉そうに腕を組んだ。


「続けたまへ」

「はいはい」


 一小節目から弾いていくと、鬼原井先輩はつま先でリズムを取りながらメロディを口ずさむ。いつもボーカルは招田先輩だからちょっと新鮮だ。

 最後まで通しで弾くと、鬼原井先輩はない口髭を引っ張るような仕草をする。


「よくぞここまで上達した。後は自分のバンドを見つけ、自らのベース道を歩むがよい。道は長く険しいが、あたしはベースをやってる年下の男の子ってめっちゃグッとくる」

「最後の方は別のセリフに差し替えて、テイク2をお願いします」

「嫌だ。魂がこもった台詞なんだから!」

「あんたの魂は下心かよ!?」

「ベースは縁の下の力持ち的な魂だから、下心なのが当たり前」

「いろんな人にケンカ売ってますよ、その台詞」

「まぁ、本当によくここまで上達したよ。女の子にもてるくらいにはなったよ」

「ギターと違ってモテないのでは?」

「ギタリストに群がる女子よりもベーシストに群がる女子の方が絶対に長続きする」

「群がるほどベース好きの女子がいないと思いますが?」

「つべこべ言うな!」


 理不尽。

 鬼原井先輩が両手をこちらに差し伸ばしてくる。

 ベースを差し出すと、微妙な顔をされた。


「ここは師弟の絆を表すハグのシーンだよ。まったくベーシストはシャイなんだから」

「鬼原井先輩、自分に帰ってこないからってブーメランを全力投球するのはよくないと思います」


 鬼原井先輩がベースを構えて、俺を見た。


「さて、免許皆伝の記念というか、相真に餞別だ。あたしが凛に教わりながら作ったソロベース曲だよ。タブ譜もあげよう。現状、弾けるのはあたし一人だから、楽しみにしているよ」

「そんなにすぐには弾けるようになりませんよ」


 一分半程度の曲か。指は……。


「難しいんですけど」

「餞別だからね。それが弾けるようになればバンドも簡単に組めるでしょ」

「バンド活動の予定はないんですけどね」

「分かんないよ? 巨乳なおっとり美人さんがドラムやってたら颯爽とベースを持って登場したくなるでしょ?」


 シチュエーションが限定的なうえに出くわす可能性が低すぎる。

 鬼原井先輩が目の前で実演してくれる。

 ソロだけあってベースとは思えない高音で構成されている。澄んだ音が心地いい。


「はい、やってごらん」

「簡単に言ってくれますね」


 再び渡されたベースで弾いてみる。指運びが難しい。


「なぁなぁ、相真」

「なんです、先輩?」

「あたしは卒寮するけどさ。あたしとの思い出で思い返すとつい笑っちゃうような事ってある?」

「今年の夏、台風の日にニャムさんが女子陣地に逃げ込んだ時の猫ふんじゃった、ですかね」

「あぁ、やったね。だんだんテンポを上げていったやつだ」


 鬼原井先輩が手を叩いて笑う。


「よし、なら思い残すことはないね」


 鬼原井先輩がベッドから降りて、俺の顔を覗き込む。

 もともと距離の近い人ではあるけれど、吐息を感じるほどに顔を近づけられると流石にドキドキする。


「なんですか、突然」

「いいか、相真。卒寮したって頭の中で繰り返せるのが青春だ。思い出して思わず笑っちゃう思い出が上等なんだ。別れてほっとする出会いなんかでここでの生活を終わらせるなよ。サクラ荘の連中全員が見失ってるけど、相真は青春を理解できるはずだ。任せたよ」

「……言いたいことは分かりますけど、みんなが見失っている理由を考えれば、それはエゴだと思いますよ」


 そっとしておいてほしい人もいるはずだ。

 特に、今回初めて卒寮生を見送ることになる由岐中ちゃんはダブルパンチだろう。どんな答えを出しても、俺はそれを否定できない。

 鬼原井先輩がにやりと笑う。


「思い出は共有するモノなんだから、エゴじゃないよ。そもそも、卒寮は悲しい別れじゃない。寂しい別れであるべきなの。師匠の言葉なんだから、きっちり聞いておけ」


 思い出は共有するモノ、か。

 言いたいことは分かる。

 それは青春を送った側の言葉で、青春を送るかを悩む側が納得できる言葉ではないかもしれない。

 思い出を共有する相手と連絡が取れなくなるのは悲しいことでしかないと思う。

 唐突に終わってしまう遍在者の青春と関係性に続きを作れるのなら、とネリネ会に加入したけれど、今のサクラソウの状況を思うと七掛同様、その存在意義すら薄れてしまった。


「……先輩、青春は一人じゃできませんよ」

「うん。だから、任せた」


 そう言って、鬼原井先輩は「アイス固まったかなぁ」とキッチンへ歩いていく。

 ベースの指運びを練習しながら考える。


 もう一度、卒寮生に会いたいからネリネ会に所属して、活動してきた。

 でも、考えてみれば再会するだけではだめだ。

 思い出を語り合える場でなければ、同窓会としては片手落ちだ。

 ネリネ会は再会するための場所ではない。思い出を共有できる場であるべきだ。


 そういえば、七掛も言っていたっけ。


『――ネリネ会は卒業後も青春を語らえる場を提供するために組織された』


 なんてことはない。俺の考えが浅かっただけだ。

 しかし、今は七掛でさえネリネ会の存在意義を疑問視している。

 いまのサクラソウで楽しい思い出なんて作れるはずがないからだ。

 なら、俺がやるべきことは一つだろう。


 ベースの弦を押さえて、深呼吸を一つ。

 タブ譜を見ながら慎重に弾く。

 キッチンから顔を出した鬼原井先輩が監督官のようにじっと俺の手元を見つめている。

 最後まで弾き終えて、俺は指のストレッチをしながら鬼原井先輩を見た。


「どうでした?」

「うーん、二十点!」

「評価が辛い!」


 いや、確かに五十点も厳しいとは思ったけども。

 鬼原井先輩は笑いながらアイスを俺に差し出した。


「このやり取りだって思い出になるさ」

「そうですね」


 鬼原井先輩に笑い返して、俺はアイスの包装紙を開けて立ち上がる。

 鬼原井先輩がベッドに座って自分の分のアイスを齧りながら首をかしげた。


「お出かけかな?」

「ちょっとバンドメンバーを集めてきます」


 俺だって思ってたんだ。

 文化祭で演奏なんて、最高に青春してるって。


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