第164話 自由奔放な姫
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これだけ暑い日が続くとニュース番組でも各地の最高気温や熱中症情報について取り上げることが増えた。
6月ですら熱中症に厳重警戒と言われていたのだが、7月に入り危険、極めて危険などと表記され、外出は控えて室内で冷房をつけて過ごして下さいと注意喚起されるようになった。
とはいえ、学生は学校に行かなければならないし社会人は会社に行かなければならない。
帽子で日差しを避けたり、こまめに水分補給をするなどして個人で対策する必要がある。
生徒の間では携帯型の小型扇風機や冷感タオル、日傘なんかを使ってこの暑さを凌いでいる様子が見られる。
学院内は冷房が効いているため、あくまでも登下校の暑さ対策といったイメージだ。
「何か買って帰るか」
海藤の研究室を後にしたオレは学院の敷地内にあるコンビニに立ち寄ることにした。
水と麦茶を1本ずつカゴに入れ、氷菓子の売場で足を止める。
アイスクリームよりもかき氷系の商品の在庫が少ない。
やはり夏はかき氷やシャーベットの方が売れるのだろう。暑さを一気に和らげるという意味ではアイスクリームよりも適しているからな。
そんなことを考えながら残り1個のレモン味のかき氷に手を伸ばすと隣で悲鳴が聞こえてきた。
「あー! それ私が食べようと思ってたのに!」
金髪ロングの少女がオレが手に持つかき氷を指差してワナワナと震える。
「えっと、食べるか?」
「やった! ありがとう! んじゃ、これとこれとこれも必要だなー。うーん迷うなー。なんでアイスってこんなに美味しんだろうね?」
少女は満面の笑みでオレからかき氷を受け取ると、次々とアイスをカゴの中に入れ出した。
人形のように整った顔立ちに少し着崩した制服。アイスを選ぶ指が細くて長い。身長は平均的だが手足がすらっとしている。
「アイス、好きなんだな」
「暑い日はアイスに限るよ。でも食べ過ぎは太っちゃうからあんまり良くないんだよねー」
「って言ってる奴が買う量じゃないと思うんだが」
すでに少女のカゴの半分がアイスで埋まっている。
「あっはっはっ、痛いところを突くねー。やっぱり戻した方がいいかな?」
「いや、個数制限は特にされていないみたいだしいいんじゃないか?」
「だよね! いやー、これでまた冷凍庫がアイスでいっぱいになっちゃうよー」
少女が楽しげにレジへと向かった。
オレは申し訳程度に残ったメロン味のかき氷を選び少女の後ろに並んだ。
会計を済ませて外に出ると再び熱気に襲われる。
夕方だというのに蒸し暑さは健在だ。
「神楽坂くんって意外と話しやすいんだね。もっとぶっきらぼうな人かと思ってたよ」
購入した棒付きの氷菓子にかじりつく少女。
随分と幸せそうに食べるな。なぜだか見ているこっちまで幸せな気持ちになる。
「
「あーごめん。自己紹介がまだだったね。
集団序列戦のGPSサーチの対象者に選ばれていたから名前は知っていたがNo.1ヒーローの娘だったとは。
No.1ヒーローの『
「父親がNo.1ヒーローなら嵐山も異能力には自信があるのか?」
「私は戦うのはあんまり興味が無いんだよねー。でも戦えって言われたら負けないよ。だって私にはパパの血が流れてるからね」
戦闘に興味が無いのならこれまで序列上位に名前が上がってこなかったのも頷ける。
でも序列が全ての学院にどうして序列に興味の無い嵐山が入学したのか。
「序列に興味が無いとなると何が目的でこの学院を選んだんだ?」
ついそんな疑問をそのまま嵐山に投げかけてしまった。
これまでオレが関わってきた生徒は誰しもが明確な目的を持っていた。
嵐山のようなタイプの生徒と話をするのが初めてで次々と疑問が湧いてくる。
「私より強い、私を守ってくれる王子様を探してるんだ! 神楽坂くんも立候補する? なんてねっ! んっ!? 当たりだ! ラッキー!」
氷菓子の棒をこちらに見せてぴょんぴょんと跳ねる嵐山。
自由奔放に振る舞う姫。そんな姫を支える王子様か。
嵐山の実力は未知数だが、異能力は6〜7割が遺伝すると言われている。
仮に遺伝していなかったとしてもNo.1ヒーローの才能を受け継いでいる可能性は非常に高い。
「せっかくだから新しいのと交換してくるね!」
「他のアイスが溶けないか?」
「うーん、走るから大丈夫! またねー、バイバーイ!」
嵐山が大きく手を振るとあっという間に走り去って行った。
オレも早く帰ってかき氷を食べるとしよう。
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