第163話 最強を作る
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岩渕と入れ替わりで研究室に足を踏み入れる。
「今日は珍しく来客が多いな」
「海藤先生に聞きたいことがあって来ました」
「君は1年の神楽坂だったな」
海藤は主に理系の科目を担当している。
1年生は化学と生物を教わっている。
研究熱心で人に興味が無いかと思っていたが生徒の名前は把握しているみたいだ。
「集団序列戦でクロムとイレイナをオレに仕向けたのは先生ですか?」
机を挟んで海藤と向き合う。
岩渕とのやり取りで海藤の性格は概ね理解することができた。
小手先で色々嗅ぎ回るような真似はせずに直球で投げかけた方が効果的だ。
「クロムとイレイナが口を滑らせたみたいだな」
はぐらかすかと思ったが海藤はあっさりと認めた。
「何の目的があってオレを狙ったんですか?」
「ワシの夢はこの手で最強を作ることだ。だが最強を作るためにはデータが必要でな。序列上位陣に狙いを絞って研究材料を集めることにしたんだ」
海藤が手元のパソコンを180度回転させて画面をこちらに見せてきた。
すると、そこにはオレがクロムとイレイナと戦っている映像が流れていた。他にも縮小されたウィンドウには千炎寺と氷堂がクロムとイレイナと戦う様子が映し出されている。
「2体には録画機能を備えている。戦闘データを蓄積させてアップデートすることで急速に成長させる。君にはその実験台になってもらったというわけだ」
「それだけが理由だとは思えない言動が2人? 2体? から散見されましたが」
仮に海藤の説明が事実だったとしても『目標』『危険人物』など、クロムとイレイナの言動には不穏な表現が含まれていた。
「君の異能力はコピー系統の異能力だろ? ワシの知り合いにも似たような異能力者がいるがあまり危ない橋は渡らない方がいいと思うぞ」
「質問の答えにはなっていないと思いますが」
「深入りするなと言っているんだ。これは老人からの忠告だ。片足でも突っ込んでしまったら引き返せなくなる。進めば進むほど大切なモノを失う。神楽坂、君には心当たりがあるんじゃないか?」
年配者の余裕とでも言えばいいのだろうか。強者の貫禄が滲み出ている。
そしてオレを見上げる海藤の双眸は闇に満ちていた。
全てが見透かされ、動けなくなったのは初めての経験だ。
海藤は全てを知っていてその上で忠告を出した。
敵なのか味方なのか判断がつかないがオレが行動に起こさない限りは見逃してくれるらしい。
「お話中のところすみません。海藤先生、頼まれていた物を持ってきたのですが」
次に繋ぐ言葉を探しているとビニール袋を抱えた
「お久しぶりです」
「ああ」
授業で何度か顔を合わせてはいるが遠目で見かける程度だったため、会話をするのは序列戦振りだ。
「先生に何か用ですか?」
海藤に視線を向けるとパソコンを自分の手元に戻して作業に戻っていた。
オレにはそれが無言の圧のように感じた。
「集団序列戦の最中、クロムとイレイナはなぜオレを狙ってきたのか。その答えを聞きにきたんだ。そういえば無名、お前も誰かに指示されてオレと接触したって言ってたよな? お前の背後にいるのは誰だ?」
海藤のタイピングの手が止まる。
1度決めたからにはオレはもう止まらない。
真相に近づくのなら身を削る覚悟もある。
「何を言っているんですか? ボクの背後にいるのは海藤先生じゃないですか」
無名が首を曲げて海藤に目をやり、すぐに視線をこちらに戻した。
立ち位置的に無名の背後には海藤がいるが話の展開上そういう意味ではないことくらい察しがつくはずだ。
「冗談じゃないですか。そんな怖い目をしないで下さい」
声音を変えずに無名が謝った。
「糸巻か?」
「半分正解です」
「となるともう半分は糸巻よりも上の存在ってことになりそうだな」
「神楽坂、これ以上詮索するようならワシはこの場でお前を消さなければならない」
海藤がどこから取り出したのかレーザー銃の銃口を向けていた。
流石のオレでも机1つ挟んだこの近距離では怪我無く立ち回るのは難しい。
海藤の殺気を感じ取った瞬間に無名が扉に意識を向けたため、このまま退路を断たれるのも厄介だ。
「分かりました。今日はこの辺りで失礼します」
戦う意思が無いことを告げると海藤が銃口を下ろした。
短い時間だったがかなり貴重な情報を得ることができた。
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