第138話 最終日に向けて

—1—


 1日の終わりに考える。やり残したことはないかと。

 集団序列戦2日目も残り1時間で終わろうとしている中、オレはスマホの連絡先から暗空を選択して電話を掛けた。


 糸巻渚がオレと暗空を狙っていることがわかった以上、暗空の動向を把握しておいた方が動きやすい。

 もし仮に糸巻の実力が無名ななしに匹敵するレベルだとすれば暗空1人では対処が難しいはずだ。


 糸巻のグループは無名と敷島の3人。

 敷島の防御力もかなり厄介な所ではあるが、直接会話を交わした感じだと生命に関わるような危険な行為まではしてこないはずだ。


 となると、糸巻の実力を測りながら無名をどう抑え込むかという点に焦点が当てられる。

 無名の戦闘能力の高さは肌で体感した。


 オレがこれまで習得した異能力を駆使して、オリジナル技まで発動したが仕留めることができなかった。

 次対峙することがあればオレ自身ギアを上げなくてはならない。


 まあ、これも暗空が脱落していなければの話だが。

 序列1位とはいえ必ずしも脱落していないとは限らない。


『もしもし』


 4コール目で暗空が電話に出た。


「暗空、今どこにいる?」


『何かあったんですか?』


 質問に質問で返されてしまったが、何も知らない暗空からしてみれば自然な反応だ。


「オレと暗空を狙う存在がいることがわかった。可能なら明日の朝早くにでも合流したい」


『今の言い方からして校章を狙っている訳では無さそうですね。わかりました。私は北エリアの最北部にいます』


 明日の朝に移動を開始して北エリアに入ったら再度連絡をする流れになった。

 北エリアには糸巻の狩場があるはずだが、暗空はその包囲網を抜けたのだろうか。


 どちらにせよオレも北エリアに足を踏み入れる際には用心した方がいいだろう。


—2—


 その後、西エリアの物資補給ポイントを目指したオレはタイミングを図って6時50分にテントの中に入った。


 物資補給ポイントの利用時間は10分間。その間は一切の戦闘行為が禁止されている。

 つまり、この時点でオレは集団序列戦最終日まで駒を進めたことになる。


 雨を凌ぐためのテントを受け取り、食料とタオルを購入する。

 流石に無人島内に残っている生徒も少ないのか昨日と比べて人が疎らな印象だ。

 雑談をするような間柄の生徒もいない。


 テントを出るとそこには千炎寺が立っていた。

 ボロボロになった制服を身に纏っていて、かなり体力を消耗しているのが見て取れる。


「お、神楽坂か」


「随分と激しくやり合ったんだな」


「あーこれか。ちょっと色々あってな」


 自身の制服に目を落とし、力無く笑う千炎寺。


「神楽坂は誰かと戦ったか?」


「初日に明智たちと乱戦になって、その後は無名と戦った。それからは誰とも戦ってないな」


「無名と戦ったのか!?」


 千炎寺の目の色が変わる。


「ああ、もしかして千炎寺も無名と戦ったのか?」


 勢いよく食いついた反応からしてそう推測できる。


「直接的には戦ってないんだが一緒にいた氷堂が無名にやられた。その前に俺と氷堂はクロムとイレイナと戦っていたから体力的にキツくてな。俺は全力でその場から逃げて今に至るって訳だ」


「なるほどな。教師2人でも厄介なのに無名も加わるとなると逃げの選択肢一択だろうな」


「神楽坂、無名の戦闘能力を学院で例えると誰レベルだ?」


「そうだな。オレと戦ったときは異能力を発動してこなかったんだが、だとしても暗空と並ぶかそれ以上だろうな」


「そんな奴と戦ってなんでお前は無事なんだよ」


「単に運が良かっただけだ」


「暗空と同等なら運でどうこう片付けられるレベルじゃないだろ」


 千炎寺が呆れたように溜息をついた。


「まあいいや、明日会ったらそんときは全力で行くからよろしくな」


「ああ」


 千炎寺と別れ、テントが設営できそうなポイントを探しているとスマホに通知が入った。

 夜風に当たりながらスマホをタッチする。


集団序列戦2日目終了時点・得点上位7名

1位・10得点 暗空玲於奈あんくうれおな

1位・10得点 無名むめいななし

3位・9得点 門倉譲かどくらゆずる

4位・8得点 千炎寺正隆せんえんじまさたか

5位・7得点 浮谷直哉うきやなおや

6位・6得点 氷堂真冬ひょうどうまふゆ

6位・6得点 敷島しきしまふさぎ


 暗空と無名が同率で1位。

 序盤で飛ばした門倉と浮谷も得点上位7位をキープしている。

 当然の結果と言えばそれまでだが、序列上位者がランキングを占める形となったな。


 その中でもやはり無名の存在が一際目立っている。

 画面を眺めているとさらに1件通知が流れてきた。


「オレで引っ掛かるってことは生存者が相当少ないってことか?」


 集団序列戦最終日の常時GPSサーチ対象者が発表されたのだ。


3日目GPSサーチ常時発動対象者7名

1・暗空玲於奈あんくうれおな

2・無名むめいななし

3・千炎寺正隆せんえんじまさたか

4・敷島しきしまふさぎ

5・嵐山姫華あらしやまひめか

6・神楽坂春斗かぐらざかはると

7・糸巻渚いとまきなぎさ


 GPSサーチを使い、1得点消費して調整したつもりだったが対象者に選ばれてしまった。

 3得点で選ばれたということは生徒同士の点の取り合いというよりかは教師に倒されたと見るべきだろう。


 クロムとイレイナと戦った千炎寺があそこまで傷だらけになっているのだ。

 特待生以外の生徒が戦ったらまず太刀打ちできないはずだ。


 それにしてもここに来てまだ新しい名前を見ることになるとは。

 オレの1つ上に位置している嵐山姫華あらしやまひめか

 彼女は一体何者だ?


 彼女の他にも実力を隠している生徒がまだまだいそうだな。

 オレの前に立ち塞がるのなら排除するだけだが、そうでないのなら別に絡む必要はない。


 ただ、利用できるものは容赦無く利用していく。

 遠回りをしている余裕はないからな。



2日目開始時79人→2日目終了時29人

教師陣5人→5人


【◯張り巡らされた糸】END

NEXT→【○特別ルール】

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