第137話 行く手を阻む乱入者
—1—
「だいぶ時間が掛かっちゃったな」
対象はもちろん
暗空の所在は北エリアの最北部。
ちょうど保坂の担当しているエリアが北エリアだったため、他の教師陣からしても北エリアに居座り続けること自体に違和感はない。
とはいえ、保坂には教師としての役割がある。
生徒の姿を見掛けたら片っ端から攻撃しなくてはならないのだ。
仕方のないことだが、これがかなりの時間ロスに繋がっていた。
すでにマップ上から暗空の居場所を知らせる点は消滅している。
ここからは自力で探すしかない。
降りしきる雨が体温を奪っていく。
慣れない環境で悪天候。生徒にとって文字通り過酷な試練となっていることだろう。
その証拠に前半と比べて生徒の動きが鈍っているのか、遭遇する確率がかなり落ちた。
途中で別れた
保坂は1人で北エリアの最北部へ向かうことにした。
薄暗い森の中、目印になりそうなモノなど存在しない。
保坂は携帯用の懐中電灯を前方に照らして足を進める。
どれくらい歩いただろうか。
泥水で靴の中が濡れ、髪の毛もスーツも水浸し。昼間の汗と混ざり合って激しい不快感を覚えている。
時刻は5時45分過ぎ。
ようやく北エリアの最北部に辿り着いた。
「何かを探している。私の目にはそう映ったのだけれど、気のせいでしょうか保坂先生」
声がした方に懐中電灯を照らすと、そこにはいるはずの無い紫色の髪の少女が立っていた。
「
「生徒を監視する役目が教師であるならば教師を監視する役目は一体誰が担うのか」
2年生の
「それが紫龍さんってこと?」
「私だけじゃない。彼も来ているわ」
物陰から
手には神器・
「神器シリーズの適合者が2人」
保坂がそう呟きながら妖刀・黄昏の鞘に手を掛ける。
「序列戦とは無関係の生徒に危害を加えたとなると、大きな問題になりますけど大丈夫ですか?」
紫龍の挑発に保坂が唇を噛む。
黄昏の力を解放すればこの場面を突破すること自体は難しくないだろう。
しかし、紫龍の言う通り直接的な攻撃は避けなくてはならない。
仮に黄昏の能力で時間を止めて2人の間を抜けたとしても追われるのが目に見えている。
どちらの選択肢を取ってもここから先には進めない。
「そこを通して下さい」
「何故ですか? 暗空玲於奈に対してGPSサーチを使っていたみたいですけど、教師が生徒個人に執着するのは序列戦において公平では無いと思います」
何も知らない第三者から見ればそう思われても仕方がない。
だが、紫龍の場合は十中八九陣内の指示で無人島に足を運んでいるに違いない。
つまりは保坂や鞘師とは対立関係に当たる。
紫龍と溝端の背後で何かが行われていて、そこに保坂が向かうことは不都合になる。
だから全てを知っておきながら回りくどい言い方をして保坂の足を止めているのだ。
「生徒の数も減ってきたみたいなので、序列の高い生徒から順番に狙っていこうかと思いまして」
「ルールでは視界に入った生徒を攻撃するとなっているはずですが」
「生徒数が減ってきたら見つけることも困難になります。そこら辺の裁量は私たち教師に任されています」
保坂もGPSサーチを使う際に言い逃れのできる理由は考えていた。
何も闇雲に使っていた訳では無い。
「そうですか。私情ではないということですね」
筋の通った理由に紫龍も頷く。
2人の話を聞いていた溝端も保坂の言い分に納得は示したが、道を開けるつもりはないらしく、静かな瞳で保坂の動きを注視している。
「どうしても通してはくれないみたいですね。紫龍さん、そこまで頑なだと逆に怪しいですよ」
「何と言って頂いても構いません」
保坂の揺さぶりに対しても動じない紫龍。
これ以上、言葉の掛け合いをしたところで状況は変わらない。
保坂はそう判断して踵を返した。
紫龍と溝端の背後に通じる道はここだけではないはず。
別ルートを探して2人の背後に回り込む必要がある。
それでも邪魔をするというのなら黄昏を抜くことも視野に入れる。
紫龍との会話の最中、一瞬ではあるが保坂の進行方向上の遥か先で何者かの憎悪の塊が漏れ出ていたのを感じ取った。
そこに暗空はいる。
急がなければ手遅れになる。
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