第125話 神楽坂vs無名ななし
—1—
無名が手にした剣には刀身が無かった。
刀身の無い剣を正眼に構え、オレの出方を窺う無名。
剣や槍など、武器を扱う相手に対して身体強化の異能力だけでは正直分が悪い。
ソロ序列戦までの異能力実技の授業では貸し出し用の刀を使い、集団序列戦までの異能力実技の授業ではペアとの合わせ技やサポートに徹することでなんとか凌いできた。
それもこれもコピーのストックを作るためだ。
しかし、今回は違う。
オレを消すと宣言している相手だ。
相手の技量を測った上で可能であれば無名の異能力を特定し、コピーする。
都合の良いことに周囲には人の気配がない。
オレが他の異能力を使ったところでそれほど問題はないだろう。
無名もオレのことを知っているみたいだしな。
どこまでかはわからないが。
「ビームソード展開。目標、神楽坂春斗」
無名が呟くと剣の鍔に当たる部分から橙色の刀身が現れた。
学院の中でこれまでビームソードを使用している生徒は見たことがない。
使用者の技量によって刀身の長さが変化すると言われている武器だが、一体どれほどのものなのか。
「行きます」
静かな踏み込みにして驚異的な速度の間合いの詰め方。
無名が振り下ろしたビームソードが風を切り裂きながら襲い掛かる。
「
瞬時に光の盾を展開してビームソードを防ぐが、凄まじい威力から盾から火花が散る。
強者と対峙した場合、一撃攻撃を受ければおおよその技量が測れると言うが、攻撃有効範囲までの足の運び方、剣の太刀筋、どれを取っても序列上位陣と遜色ない。
いいや、これはそれを上回っている。
「ッ!?」
機械的な銃声が2度、3度鳴り響き、盾が糸も簡単に砕かれてしまった。
盾の先には橙色の銃を構えた無名。
無名はこちらの姿を確認すると、表情を変えずに引き金を引いた。
「
銃口の向きから着弾位置を逆算し、ピンポイントでガードする。
氷盾が突破されることは無かったが、僅かにヒビが入った。
全体防御を選択していたら貫通していたかもしれない。
ビームソードにレーザー銃。
1人で近距離も中遠距離もカバーしているということか。
それでいてまだ無名は異能力を使っていない。
「
地面から複数の氷の花が咲き、強烈な冷気を噴出する。
オレはその中から1番近くに咲いていた花に触れ、氷剣に変換した。
狙いを無名に定め、大きく跳躍する。
「無駄です」
無名が地面ギリギリの高さでビームソードを大きく横に薙いだ。
その瞬間、橙色に輝くビームソードの刀身が3倍にまで伸びた。
一瞬で氷の花弁を切り裂き、ビームソードの範囲外にある花弁をレーザー銃で打ち砕く。
これを同時に行ってしまう人間離れした才能。
こんな奴がまだ隠れていたとはな。
無名の銃口が空中にいるオレへと向く。
オレは無名のレーザー銃目掛けて氷剣を投げつけた。
氷剣が指から離れる瞬間に螺旋回転を加えて軸を安定させ、威力を少しでも高める。
「流石の対応力ですが、これくらいではボクは落ちませんよ」
無名はビームソードで氷剣を弾き、再度レーザー銃の引き金を引いた。
対するオレは氷剣を投げつけた右腕を無名のレーザー銃に全力で伸ばす。
「
レーザー銃の銃弾が影の壁に吸い込まれる。
咄嗟に作り出したため、小さな影の壁となったが狙っている場所がわかっていれば大した問題にはならない。
砲撃や矢なんかのあらゆる飛び道具を無効化し、吸収してしまう暗空の最大の防御技。間一髪のところで助けられた。
無名が後方に跳び、距離を作る。
オレはその隙に周囲の木の影を手元に集めて
『
これでレーザー銃を喰らう心配は払拭した。
無名がレーザー銃を撃ち込めば撃ち込むほど、銃弾が吸収され、オレが開発したオリジナル技『
それにしてもオレが複数の異能力を使用しても驚かない様子を見るに、オレの異能力がコピー能力であることがバレていると思った方がいい。
とはいえ、異能力がバレているのだとしてもこの対応力は紛れも無く無名の実力だと言っていい。
「
影の塊を手元に集め、『
右手には影から生み出した刀・月影を。
左手には球体状に圧縮した影の塊を。
「
地面を駆けながら影の砲撃を無名に放つ。
無名はビームソードを斜めに斬り上げてこれを相殺。
と、同時に刀身を伸ばして頭上の木を切り裂いた。
降り注ぐ木の枝と巨大な木。
オレは空いた左腕を振り上げて『
木の枝が影に飲み込まれていくことを確認しながら月影で無名に斬り掛かる。
ビームソードで月影を受け止めた無名が腰のホルダーに挿さったレーザー銃に目を落とすが、渾身の力を込めて月影を振り下ろしたため、それを受け止めるビームソードから手が離せないでいた。
「くッ」
無名が初めて表情を変えた。
歯を食いしばり、オレの月影を押し返し始めた。
力比べもこれくらいでいいだろう。
オレは月影を刀から影の塊へと戻し、地面に投げつけた。
そのせいで無名がビームソードを思い切り斬り下ろす形となった。
すぐさまレーザー銃に手を掛けてこちらに発砲。
無名がレーザー銃を撃つように仕向けたオレは体を捻ってそれをかわした。
「
頭上に展開していた巨大な影の壁からレーザー銃1発と木の枝が勢いよく降り注ぐ。
ビームソードを振り上げてなんとか相殺しようとしていた無名だが、全てを防ぐことは無理だと判断したのか後方に跳ぼうと足に力を入れる。
しかし、足が地面から離れることはない。
「ここまで見えていたのか」
金色に変化しているであろうオレの双眸を見てそう漏らす無名。
その両足には影の枷が付いている。
「
地面に投げつけた影の塊をここぞというタイミングで無名の足と繋いだ。
拘束に特化した技でそうそう簡単に抜けることはできない。
オレは無名に背を向け、降り注ぐ木の枝を全力で掻い潜りながら走り抜けた。
その途中、背後で2度橙色の光が走った。
攻撃範囲から逃れたオレが振り返ると、そこには無名の姿が無かった。
その代わりに粉々に砕けた影の枷だけが転がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます