第124話 ずっと見ていた
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北エリアの物資補給ポイントを目指して歩き続けること数時間。
休憩を挟みながら崖をいくつか越え、ようやくあと一歩で目的地に辿り着くという所までやって来た。
安全を考慮したため、やや時間を要したが1日目終了まではまだ2時間近く残されている。
物資補給ポイントでテントを購入し、寝場所を確保するくらいの時間は取れそうだ。
休憩中にスマホのマップを眺めながら予めテントが張れそうな場所をピックアップしておいたから抜かりはない。
「おかしい。人の気配がない」
近くに水辺があるのか聞こえてくるのは水が流れる音と草木が揺れる音。遠くからは鳥の羽音も聞こえてくる。
無人島には154人の生徒が散らばっている。脱落者を除いたとしても100人前後は残っているはずだ。
ここから物資補給ポイントまでは目と鼻の先。
それなのに人の気配がしないのはあまりにも不自然だ。
考えられるとしたら北エリア一帯を縄張りとしている生徒がいて、足を踏み入れた生徒を片っ端から排除しているくらいか。
「こんにちは」
突然背後から声を掛けられ、戦闘態勢に入りながら勢いよく後ろを振り向く。
しかし、誰もいない。
不味い。理解できないことが起きている。
確かに声は聞こえた。
疲労が引き起こした幻聴の類ではない。
だとしたらなぜ声を発した人物の姿がないのか。
「すみません。驚かせるつもりはなかったのですが」
再び振り返るとオレの正面に黒髪の少年が立っていた。
どこにでもいるような風貌で特にこれといった特徴は無い。身長も体型も平均的。
クラスにいたら存在感の無さから確実に日陰者に分類されるであろう平凡的なオーラ。
だが、オレがこの少年の存在に気付かなかったのは事実。
これだけ距離を詰められても気配すら感じなかったのは異常だ。
「いつからそこにいた?」
「初めからです。ボクはずっと
少年は表情を変えずに淡々とそう言葉にした。
ハッタリか?
そうだとしてもこの少年の目的がわからない。
オレが疑いの目を向けていることを察したのか、少年は手を広げて一方的に話し出した。
「前期中間考査の総合順位が発表されたときも一緒に見ましたし、昨日だって船の中で映画を観ましたよね? 暗空玲於奈と3人で、でしたけど。信じて貰えないのなら今日ここに来るまでの行動を全て話しましょうか?」
瞬きひとつしない少年に若干不気味さを感じつつも、オレは以前から感じていた違和感と少年との言葉を照らし合わせることにした。
前期中間考査の順位発表が行われた掲示板の前で、オレは何者かに肩を強く押されたことがあった。
いくら人混みの中とはいえ、肩と肩とがぶつかったにしては強い衝撃だった。
そのとき、周囲を見回してもオレに危害を加えた人物らしき人影はなかった。
昨日の映画館でも帰り際に誰かに見られているような気配を感じた。
あの場にはオレと暗空しかいなかったことは確認済みだ。
となると、少年の話の真実味が増してくる。
「明智ひかりの後を追い、木の影から千代田風花と明智ひかりが戦っている様子を静観。その後、暗空玲於奈と2人で明智ひかりとその仲間を——」
「もういい」
これだけ細かく言い当てられてしまっては信じざるを得ない。
「どうやら信じてもらえたみたいですね。あっ、順序が逆になってしまってすみません。自己紹介がまだでしたね。ボクは
無名が丁寧に頭を下げた。
全て見られていたということは会話も聞かれていた可能性が高い。
暗空のこと、明智のこと、学院のこと。
どこまでこちらの情報が漏れているのか探りを入れる必要がある。
「このタイミングでオレと接触した目的は何だ?」
「偵察です。神楽坂春斗がどれほどの実力者なのか調べることがボクの役割です。ですが余裕があれば消してしまっても構わない。そう言われています」
無名が腰のホルダーに挿さっていた剣の柄に手を掛ける。
言われているという言い回しから無名の背後に誰かがいるということは推測できる。
集団序列戦でグループを組んだ糸巻か敷島か。
だが、無名がオレのことを監視していたのは前期中間考査まで遡る。
必ずしも2人が関係しているとは言い切れない。
それともただ単に集団序列戦で勝つための作戦なのか。
「誰の指示なのか興味が湧いてきた」
少なくともオレを排除しようとしている人間がいるという事実は揺るがない。
そこを突き止めればオレが欲しかった情報が掴めるかもしれない。
無名がホルダーから剣を抜き、オレは身体強化の異能力を発動させた。
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