第126話 途中経過

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 姿を消した無名むめいを辿るための痕跡は見つからず、オレは北エリアの物資補給ポイントで7000ライフポイントを支払いテントを購入した。


 テントを設営する場所は事前に目星を付けておいたから迷いは無い。

 物資補給ポイントからそれほど離れていなくて、木の影になっている場所だ。


「先客か」


 マップを頼りに足を進めると、ちょうどテントを張ろうとしている男の姿が見えた。

 テントを張るためのペグに向かってハンマーを振り下ろしている。


 すでに集団序列戦1日目が終わるまで20分を切っているが、迂闊に近づく真似はしない方がいいだろう。

 例えそれが知り合いだとしても。


「神楽坂くん?」


 踵を返して別なポイントに足を向けようとすると、男から声を掛けられた。


「西城、1人か?」


「うん、途中で何人かと顔を合わせたけど未だに誰ともグループを組めてなくて」


 声を掛けるつもりは無かったが、向こうから声を掛けてきたのなら話は別。

 無名ななしという敵対勢力が出てきた以上、こちらも味方を増やしておいた方がいいだろう。


「北エリアは人が少ないような気がするが、こっちに来てから誰かと会ったか?」


「そう言われれば会ってないかもしれないね。あっ、夕方に敷島しきしまさんのことは見かけたかな。神楽坂くんは?」


「オレはついさっきまで無名と戦ってたんだが途中で見失ってな。1日目も終わることだし、ぼちぼちテントを設営しようと思っていたところだ」


「そうだったんだね。よかったら手伝おうか?」


 最後のペグを打ち終えた西城がそう提案してきた。

 自分でできないこともないが、オレ自身キャンプのような屋外レジャーの経験に乏しいため、ここは有難く受け入れるとしよう。


「お願いしてもいいか?」


「もちろん」


 手際の良い西城主導の下、テント設営は無事完了。

 そして、気が付けば集団序列戦1日目が幕を閉じていた。


「明日からは先生たちが参加だね」


「そうだな」


 場所をオレのテントの中に移し、話題は明日の序列戦について。

 現状何人が残っているのかはわからないが、教師の参加で2日目は戦局が大きく変化するだろう。


 教師の視界に入ったら即アウトくらいの認識でいないと瞬殺されかねない。


「このクロムとイレイナっていうロボットは海藤かいとう先生が発明したらしいね」


「実力が未知数すぎるな」


 西城がスマホの集団序列戦アプリ内に掲載されているクロムとイレイナの画像を見せてきた。

 黒のボディーに覆われたクロムと女性的な美しい白いフォルムをしたイレイナ。


 学院に反異能力者ギルドが襲撃してきた際に暗空がこの2体と共闘したらしいが、2体ともかなりの戦闘能力だったとか。

 ロボットが教師枠として序列戦に参加するという点については引っ掛かるところもあるにはあるが、視界に入った生徒だけを攻撃するようにプログラミングされていればある意味1番公平なのかもしれない。


 その後も西城と序列戦関連の話をしていると、スマホの通知音が同時に鳴った。


「ランキングが出たみたいだね」


「なんというか、意外な結果だな」


 1日目終了時点でのランキングがアプリ内に開示された。

 画面をスライドさせて得点上位7人を確認する。


集団序列戦1日目終了時点・得点上位7名

1位・9得点 門倉譲かどくらゆずる

2位・7得点 浮谷直哉うきやなおや

3位・6得点 岩渕周いわぶちあまね

3位・6得点 無名むめいななし

5位・5得点 千炎寺正隆せんえんじまさたか

6位・4得点 神楽坂春斗かぐらざかはると

6位・4得点 敷島しきしまふさぎ


 1位の門倉と2位の浮谷はペアを組んでいるから2人で合計16人を倒したことになる。

 序盤の密集しやすいポイントを上手く叩いた結果だろうが、思いの外得点を伸ばしている印象を受ける。


 岩渕に関しては真面目に序列戦に取り組むかすらわからなかったが、得点を見るに積極的に行動していることが窺える。


 他のメンバーは大方予想通りといったところか。

 強いて挙げるなら暗空と氷堂が上位に食い込んでいないことくらいだろうか。

 だがそれも3日目のGPSを警戒してのことだろう。


 明智や磯峯、丸岡たちも上手く噛み合えば上位に上がってくるはずだ。


「神楽坂くんは6位だね」


「1位とは5得点差だからもう少し詰めていかないと厳しそうだな」


「僕は得点には絡めなさそうだからせめて生存ボーナスを獲得できるように頑張るよ」


 生存ボーナスは50バトルポイントだ。

 決して多くは無いが、得点を狙えない生徒にとっては貴重なポイントだ。


「バトルポイントを狙うなら一か八かで教師を倒すって言うのも一つの手だぞ」


「僕がかい?」


「ああ」


「珍しいね神楽坂くんがそんな冗談を言うなんて」


「冗談でこんな話はしない」


 話を流そうとしていた西城がオレの顔を見て真剣な表情になる。


「ついこの間も話したけど、僕の異能力は他人をサポートする能力なんだ。だから僕が先生を倒すなんてことはあり得ないんだよ」


「それは西城がそう思い込んでいるだけなんじゃないか? 強い意志があれば異能力は必ずそれに応えてくれる。西城には十分強い想いがあるだろ?」


 中学時代の先輩である七草由香里ななくさゆかりを思う気持ちは誰にも負けていない。


 前回の助言だけでは足りなかったみたいだから今回はよりわかりやすく助言をした。

 他人を気遣う西城の性格から生まれた他人の能力を底上げする異能力。


 西城が他人に向ける莫大なエネルギーを自分自身に向けたとき、その力はどうなるのか。

 きっと何者にも引けを取らない唯一無二の必殺技になるだろう。


 少なくともオレはそう確信している。



集団序列戦開始時154人→1日目終了時79人



【◯揺らぎ】END。

NEXT→【○教師参戦】

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