◯陣内の刺客
第143話 裏切り?
—1—
クロムとイレイナに足止めを食らっていたこともあり、時刻は9時30分を迎えていた。
気が付けばGPS対象者組も7人から5人に減っている。
どうやら千炎寺と無名が脱落したみたいだ。
2人の位置関係が近い所にあったことはマップで確認済みだ。直接ぶつかったか、或いは教師と遭遇したか。
どちらにせよ実力者が減れば余計なことを考える必要が無くなるため、ありがたい。
北エリアの最北部。
暗空は崖の上から海を眺めていた。
「何が見えるんだ?」
「いえ、特別何かを見ていたという訳ではないのですが」
そう言って暗空はすぐ足元に視線を落とす。
「崖に打ちつける波の音を聞いていたらふと疑問に感じまして。どれだけの年月を掛ければここまで削れるものなのかと」
確かに波が当たっている部分が抉れているが、そんなことを考えたとしても答えは出ないだろう。
その道の研究者にでも話を聞けばわかるのかもしれないが、オレの知識の範囲では見当もつかない。
波の音を聞いていると不思議と時間の流れが緩やかになっているような錯覚に陥る。
息を吐く間もない戦闘の後だと尚更だ。
「神楽坂くん、どうやら私が想像していたよりも闇は深かったようです」
「ッ!?」
何の前触れも無く、暗空が手のひらをオレの顔面に突き上げてきた。
瞬時に上体を逸らして回避したが、手のひらから放出された影の球体がオレの前髪を僅かに散らす。
「どういうつもりだ?」
たまらず距離を取り、行動の真意を問う。
すると、暗空はゆっくりと振り返りオレの背後に広がっている森に目をやった。
「神楽坂くん、何も言わずにここから立ち去って下さい。私もそろそろ限界が近いので。彼が来る前に早く」
暗空は見えない何かに逆らっているのか体全身に力を入れている。
さっきの一撃は暗空の意思ではない?
もしや、もう糸巻と接触したのか。
「私に殺させる気だったのでしょうけどそうはいきませんッ!」
影から生み出した刀・月影を正眼に構えて姿の見えない誰かに向かって殺気を放つ。
「まだそれだけの力が残っていたか。まあ腐っても俺と同じで施設出身者ということか」
森の中から緑髪の少年、
淡々とした声色で呟きながら暗空を一瞥すると、冷めた目でオレを見つめる。
「お前がここにいるってことはクロムとイレイナを返り討ちにしたんだな。ブラックリストに載ったのは間違いじゃなかったらしいな」
「何のことだ?」
「気にするな。こっちの話だ。神楽坂、お前は学院とどう関わってる?」
「……」
「質問が悪かったな。俺の中では確信に近いものがあるんだが、それは終わってから聞くとしよう。暗空、やれ」
糸巻が後退すると、暗空が月影で斬り掛かってきた。
後方に跳んで回避する。
「暗空、やっぱり操られてるのか?」
「神楽坂くん、逃げて」
月影を持つ暗空の手が震えていた。
暗空の意思に関係無く、無理矢理戦わせられていると考えていいだろう。
「大丈夫だ。オレが全部終わらせる」
糸巻の目的がオレである以上この場から逃げる訳にはいかない。
それに奴はオレの知らない情報を握っているような口振りだった。
学院の裏側に近い立ち位置にいるのかもしれない。
暗空を解放して糸巻を倒す。
集団序列戦終了まで残り2時間。最後の戦いが始まる。
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